第7話「治らない病気」
第2章「師匠は自宅療養生活中」
第7話「治らない病気」
労働者のゴブリンやドワーフ、そして手懐けているモンスターの管理などを日々しながら、響子はなんとか店の開店準備に向けて作業をしていった。
自分の食べ物だけでなく、労働者とモンスター達の食料問題もようやく落ち着いたのは1週間後だった。
月も変わって5月となる。
まだまだ暑くならないから、過ごしやすい方ではある。
けれど突発的に海を越えて強力モンスターがくるから、慌てて討伐しなければいけなかったりする。
それでも。結衣師匠が手懐けてくれたモンスター達は非常に強く、空はワイバーン、海辺はサーベルタイガーと、ネーミングの上位ドワーフのキズナと上位ジャイアントのラズナがこの周辺を守ってくれていた。
そんな中、退院はしたものの体調が良くならない師匠の結衣はベッドでの時間が多い。
レオは未だに姿を現さないが、時々、メッセージと電話をしにくる。
今夜は穏やかな方だった。
だからなのか、寝る頃あいにレオは電話をよこしてくれた。
「もしもし。そっち、どう?」
「ナズナ達のおかげでなんとか素材やモンスターの管理とかはできてるよ。だけど、店を安定して開店させるのはムリだなぁ。デパートとかショップの方にはビールとか鉱石を売る準備ができたところ」
「いっぱいいっぱい、ってとこ?」
「そうだよ。モンスターも忙しそう。あぁ、そういえばさ。ナズナ。あんたがどうしてるのか気にかけてたよ」
「悪いな……」
「何してんのよ?」
「……俺、そろそろ、そっち行っても大丈夫?」
「たぶんね。でも、師匠はまだ良くない。病気で順調に回復できてない感じなの」
「病気? ナズナには聞いたか?」
「だから、言わなかった? ショップとデパートになんとか依頼されてるのを発注するのに手一杯。店だって開店できないんだし、休業中だよ?」
「響子は1日何してるんだよ」
「ビール作ったり、洞窟でトラブルが頻発しているし。ラズナとナズナだって、それぞれ大変なんだからね。レオが討伐隊を組んでくれないから、レア資源の採集が順調じゃないんだよ?」
「それは悪かった。明日から、討伐隊を組んで、また素材採集に励むよ」
「お願いします。っていうか、何してたの?」
「俺なりに素材採集してた。だから、そろそろいいかなぁって」
「明日来なさいよ。たぶん、師匠ならそんなに怒らないと思うから」
「そうするわ。ありがとうな。でも、このままじゃどうしようもできないし、誰かヘルプ雇えないか?」
「とにかくレオが戻ってくれないと、何も始まらないの。ったく」
「本当にすまん。身勝手なことをしたと思ってる」
「全くだよ。じゃ。そろそろ寝なきゃ、明日もまた忙しくなるし」
「そう、だな。悪いな、夜に」
「もういいよ。じゃあね、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
★
今日も一日忙しくあれやこれやと響子は時間に追われていった。
けれど今日はレオが戻ってきてくれたから、討伐隊は任せられる事になって、少し気が楽だった。
討伐隊は主にネーミングモンスターで組んでいく。
上位ドワーフのキズナ。上位ジャイアントのラズナ、上位ゴブリンのナズナの3人メンバーはほぼ固定で、そこのメンバーに今日から再びレオが加勢する。
討伐隊に労働者タイプではなく戦闘タイプのモンスターを同行させたいが、この周辺を守るためと労働者の移動手段等を考えると、あまり行かせたくないのが本音だ。
とくにワイバーンはこの地域を守ってもらわないと困る。
海辺は特にモンスターの出現率が高い。
グリフィンはワイバーンと共に空を守ってくれるし、海辺も対応してくれる万能型だ。
一方で小型でちょこまかと動く地上と両生タイプのモンスターにはサーベルタイガーが対応してくれる。
海はメガロドンのみに任せればいいのだ。
そのなかでも、ワイバーンは圧倒的な強さがある。
近隣の地域も守ってくれることから、月々で国からの助成金がおりる。
そのくらいワイバーンは重宝される存在で、手懐けた結衣にはとても頭が上がらない。
そんなこんなで、魔法菜園から毎日収穫できる野菜等を、加工や調理をしてデパートに配送させる分と、毎日の私達の分と労働者の分を用意する。
労働者やモンスターは好きな時に食べる。
労働者には外にある倉庫の冷蔵庫と保管庫に。ジャガイモと、ナズナが採集した虫、労働者が集めている雑草を含めた植物類、清水精製機の副産物で回収した混合水の量などを確認する。
毎日確認と補充をしているから、もう枯渇することは無い。だから、良さそうな食材や植物、そして雑草の選別をして錬金に使えそうなのを集めて、工房のそれぞれの保管庫に格納させる。
討伐隊はレオに任せているから、今日は生肉製造所に赴く事ができる。
少し手が空いたから、グリフィン用の笛を吹いた。
今日のグリフィンは機嫌が良さそうだ。
「やっと落ち着いてきたわね。響子。メガロドンもようやく機嫌良くなってるわ」
「良かった。グリフィン、毎日、大変なのにありがとう」
「いえいえ。師匠がいなくても、開店はできなくても、臨機応変に対応できているのは凄いわ」
「まだまだだよ。錬金術ムリだし、討伐する事もムリ。店を開店させられていないし、まだまだ。それに、新しい採集地域への準備もできてない」
「新しい、採集?」
「病気になる前に師匠が言ってたの。そろそろ、新しい場所を見つけて、もっといい道具や素材を作ったり集めたいって」
「結衣様はまだ何でもしようとするのね……。いい加減に人を増やすべきよ。それに、労働者やモンスターの契約も新規が必要よ。最近はいいけど、海からは何が現れるか本当にわからないから」
「そうだよね。師匠は本当に凄い人だよね」
「でも、そうやって現状に満足しないのは、私でさえも偉いと思うわ」
「本当にそうだよね。だから、私。討伐やモンスターの契約を増やせるように頑張りたい」
「モンスターの契約は簡単じゃないわよ。それに、結衣様は本当にお強い人。ワイバーンを手懐けるのは、並大抵の力ではムリだわ」
「どうしたら、強くなれるんだろう……」
「人間のことはわからないわ。さぁ、行くんでしょ? 久しぶりに」
「そうだった。よろしくね」
「こちらこそ」
グリフィンに乗って空に飛ぶのは久しぶりだ。
歩いて生肉製造所に行こうとすると20分くらいかかるし傾斜もきつい。
けどグリフィンに乗るとすぐに着くから、本当に助かるのだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。あらら、ワイバーンが私を呼んでるわ。帰りはサーベルタイガーにでも頼んでおいて」
「わかったぁ。ありがとう!」
忙しそうに、グリフィンは直ぐに飛び立って遠くにいるワイバーンのもとへと向かった。
久しぶりにきた生肉製造所は、いつもと変わりないように感じた。
海からは打ち上げられている巨体のモンスターの死体があった。
それを満足気に自慢してくる海からの目線を感じた。
サメの大型巨体モンスター、メガロドンだ。
海に向かって桟橋を歩いていくと、メガロドンが再び姿を表した。
見た目はとても恐ろしいが、もう慣れている響子には手で触ったりもできる。
メガロドンは喋りかけてこないが、戯れたい時には積極的にヒレと背ビレを伸ばす手に触れてくる。
とても頼りになる、強いモンスターだ。
打ち上げられている巨体モンスターの名前はわからない。だけど、あの巨体からはモンスターの大トロがたくさん取れそうだ。
ヒレにナイス! とコツンと小尽くと、とても気持ちよさそうにメガロドンは少し泳いでジャンプまでした。とても上機嫌そうだった。
上機嫌なのはジャイアント達とゴブリン達もだった。
死体の方にいくと、ジャイアント3人とゴブリン3人が久しぶりの大量収穫でとても励んでいた。
モンスターの大トロを食べたい気持ちも強いのだろう。
しかも店に納品させれば、それはもう大量の報酬金が出る事は間違いなし。響子もとても愉快になった。
数時間が経って、大量の大トロを収穫ができた。
こっちは工房と違って労働者が多いから、メガロドンがとんでもなく大きい死体を持ってきたときには迅速に作業が進められるのだ。
普段は鉱物加工と洞窟で鉱石採集しているドワーフ達も、ゴブリン達と一緒にさばいてくれた。
サーベルタイガーなんかは尻尾を大きく振ってまだかまだかとヨダレまでたらしている。
すると、あるゴブリンはもう使わない加工できない部位をサーベルタイガーに投げつけた。
とても喜びながら、勢いよく食べていく。
久しぶりの魚タイプがありつけるからなのか、凄く愉快そうだった。
ワイバーンとグリフィンもかけつけてくる。
ワイバーンは大きな死体をいっきに生肉製造所の近くに持ってきてくれて、さらに作業効率があがる。
その間に、グリフィンとワイバーンに搬送できるようにドワーフ達が袋詰め作業を始てくれた。
そしてさらに1時間が経つと、解体作業は完全に終わり、自分達用の食料は確保し、納品用の大トロも含めた生肉も用意する事ができた。
今度は機嫌のいいワイバーンが背中を乗るように合図してくれる。
サーベルタイガーもワイバーンも。会話はできないのだ。
けど魔法生物でもあるグリフィンは唯一会話ができる。
労働者もグリフィンと一緒にサーベルタイガーとワイバーンと会話ができるから、響子は羨ましいと思っていた。
口に出さなくても会話できるその能力は、響子にはなかったのだ。
大トロと生肉を持ってデパートに行くと、店の人達が大喜びをして屋上にたくさんの人が押し寄せてきた。
「今日の納品用です」
「凄い収穫ですね! こんなにもうちに納品させてくれるなんて。さすがです。立花工房様と契約して本当によかった」と、このデパートの男性責任者がとても嬉しいことを言ってくれた。
「いえいえ。それもこれも、全部、メガロドンとその他のモンスターのおかげです」
「私はただ運んだだけです。ワイバーンも、そう言っています」
「いえいえ、とんでもない!」
「今日の報酬金の方は、どのくらいになりますか?」と響子が聞く。
「あぁ、それが……とても申し訳ないのですが……。本来ならば100万相当のレートなのですが、80万でお願いできませんでしょうか?」
「それは……どうしてですか?」
「うちもうちで必要経費等がありまして……」
「なら、50万でもいいですよ」
「えぇぇっ!?」
責任者はとても驚く。
他の人は急いで肉を運んでいるが、驚きのあまりに落とす人が数人もいた。
「いえいえ、そんな破格でなんて受け取れません!」
「いいですよ? だって、50万だけでも私としては大きな報酬ですので。うちは大抵の物は自分達で採集していますし、けれど、錬金と武器作成ができていないので、税金や維持費程度の稼ぎがあればとても満足です」
「それはそれは……。本当に50万でよろしいのですか?」
「いいよね?」とグリフィンに聞く。
「せめて65万にするべきでは?」
「50万でもいいでしょ?」
「いいえ。響子様。武器作成はできないにせよ、錬金術作成もできないにせよ。結衣様は、維持管理費用とは別に、募金活動も積極的に行っています。未来の子供達のためや、医療機関にも、しているんですよ」
「え……?」
「それ以外にも。モンスター被害にあった国や土地への寄付はもちろん、上位ドワーフのキズナや労働者を派遣させて復興の手伝いもしているのです。結衣様は、本当に何でもするお人なのです」
「……知らなかった」
「ですから。間をとって65万を頂きましょう。結衣様も、きっとそのように判断しますよ」
「そっか……。そうか……。わかった。それなら、65万で宜しくお願いします」
「ありがとうございます! それでは、いつものように――」
いつものように、タブレット端末での手続きと銀行への即日振込の確認もして、納品業務はこれで終わったのだった。
★
モンスターの肉やその他の選別した鉱石も含めて納品し終えて、午後になってようやくひと段落がついた。
討伐隊の事はレオに任せられるから、これからはだいぶ時間が空いたから何をしようかと考えた。
天気も良くてほのぼのとできる、昼寝には最高にいい条件でもある。
横になってちょっと寝ようか。なんて思った時に、お腹がぐう~っと音を立てて、飯食べないのか? と身体が訴えてきた。
そういえば食事はまだだったな。
師匠の分も作らないといけないから――。とか考えて、ふと、師匠は自分で作って食べたの? と不思議に思い、声かけてみようとした。
「師匠~。そういえばお昼ってもう食べました?」
あれ?
師匠がいるはずの部屋の前で話しかけるが、何も返事がなかった。
なかにいるよね?
不安を抱きながらドア開けて入ると、師匠はベッドで横にはなっていた。
「師匠~?」
寝ているのかと思って近寄るが、その時、ベッドの周りの物が散らばっていて、嫌な予感がして背筋が凍りついた。
恐る恐る近寄っていく。と。
師匠は眠っている様子がなく、ぐったりと気を失っているように見えた。左半身を下にして、不自然な態勢になっている。
スマホに手を伸ばしている途中に気を失ったようだった。近寄ると、不自然な体勢で気絶しているように見えた。
ベッドの宮付きに置いてある薬を取ろうとしているようだった。
小さく息をたてているから、寝ている……ようには感じる。
「師匠。師匠」
何度も声をかけて、肩を揺さぶる。
不安と心配で気持ちがいっぱいになる。
死んで欲しくない。今まで、私を看病しながらたくさん面倒を見てくれた恩を、返したい。返し尽くせていない。
だからお願い。まだ生きて欲しい。
そう強く思いながら、もう1回、身体を揺さぶる。
すると、小さく声をもらして意識を戻した。
「ん……っ。ぁ、薬……。薬、飲まなきゃ」
「師匠。いま取るので、ゆっくりして下さい」
「響、子。ありがとう……」
「ううん」
薬を手に取って、錠剤をいくつか取り出して師匠の掌にのせた。
3種類の1粒ずつをいっきに口に含めて、水のペットボトルを渡すといっきに飲み込んだ。
ゆっくりと呼吸して、ゆっくりと話してくれる。
「ゴブリン達と、うまく、やって、る?」
「はい。店は開店できていないけど、それ以外は、なんとかやれてます。レオも、戻ってきてくれたので。討伐隊の方も、やってくれてます」
「そう。良かった……。レオには、感謝、しなきゃ」
「そう伝えておきます。師匠に会ったら殺されるんじゃないかって、まだヒヤヒヤしてるみたいです」
クスクスと、小さく笑い表情を緩めた。
けれど、身体はまだボロボロのようだった。
長時間起きていられず、また横になり始めた。
「生肉加工所の方も、問題ない?」
「はい。何も問題ないです」
「木材加工所も?」
「……え?」
「え?」と師匠が聞き返す。
「木材加工所?」と響子は初めて聞いたからキョトンとした。
師匠もあれ? と思いながら不思議に思っていた。
「木材ってうちで取り扱っていましたっけ?」
「最近、始めた、でしょ?」
「えっ?」
「それに、新しく、雇った人。店で、なんとか、してる、ん、でしょ?」
「……………」
「え?」
響子は強いショックも受けた。
全く話が噛み合わないし。まるで未来にいるかのような口調振り。
いまがいつなのか、きっと師匠はわかっていないのかもしれない。
そう思って今年度と日付を言うと、師匠はしばらく呆然とした。
どう声をかけてらいいのかも躊躇いながら、言葉を探しながら質問をしてみた。
「……どのくらい、違う世界にいたんですか?」
「違う世界……なのかな。私は……どう、なるんだろ」
「師匠……。あの、違う病院でみてもらった方がいいんじゃ」
「時空中毒。らしい」
「えっ?」
「レオの、あれ。あの日から、ちょくちょく、時差ボケ、みたいなの、あるの」
時空中毒ってなんだっけ。
どんな中毒症状なのだろうと思ったが、その話を聞く前に、師匠は飲み薬にまた手を伸ばした。
その手の動き方が、普通ではない事に気がつく。まるで泥酔した人が目の前にあるのを掴もうとするような感じ。退院当初はそれほどでもなかったのに、なんだか悪化しているように感じた。
「さっき飲みましたよね、その薬」
「飲んで、ないよ?」
「飲みましたよ。しかも、数分前に、私の目の前で」
「本当に?」
「本当に本当に。本当に!」
「本当に……? でも、もう1回」
「ダメです! 師匠! その薬は1日3回で朝昼夕で……って、えぇっ!?」
薬を奪い取って数を見ると、数週間分あるはずの薬がもう残り少しとなっていた。
時空中毒というのは師匠の嘘なのかもしれない。その嘘もまた自覚がないに違いない。
それに、師匠はさっきから灯りを背にしていた。
絶対に正気じゃないはずだ。そう思って、師匠を仰向けにさせると、慌てて目を覆って灯りを直視しないようにした。
それだけでも、響子は確信した。
「それ、って……。時空中毒じゃなくて、薬の症状みたいなもんですよ?」
「お願い……薬……っ! っ!」
息が辛そうだった。しかも、顔色が凄く悪く茶色がかっている。あきらかに変だった。
「病院行った方がいいです! 救急車呼ぶので、そっとして……っ! 師匠! 師匠っ!?」
ベッドから転げ落ちて、意識も失った。
どうして急に転げ落ちたのかがわからず、激しく動揺し始めた。
とにかくすぐに救急車を呼ぶのが先決だと思い電話する。
ちょうどその時にナズナが現れてきた。
「おかしな匂いが……っ! 結衣様っ!?」
「いま救急車呼んでるから――」
「結衣様! 結衣様っ!」
響子は必死に救急車を呼ぶなか、ナズナは師匠の身体を揺さぶって懸命に呼んだ。
「目を覚まして下さいっ! 結衣様! 時空中毒にとらわれてしまてはいけません! 自我が崩壊しますよ!?」
「……っ。ナズ……ナ……? あと、お願い、ね……」
「ダメです!!! こう、なったら……!」
なんとか電話して大至急くるように手配できると、ナズナは薬を全部口に入れて口移しをし始めようとした。
「ナズナっ?! 一体何を!!!」
「……っ! ゲホッ! ケホッ! は、っはぁあっ……ぁっ! お、ねがい。らくに、させ、て」
「ダメですから! 結衣様! その空間にとらわれたら死ぬ事も生きる事もできません! 残りの猶予は24時間ですかね……。響子様! 結衣様を助けるためにも、今すぐ、強力魔法草を採ってきて下さい!」
「はぁ!? そんな事を言われても、もう救急車くるんだから、後は任せたほうが!」
「病院なんかでは治療も完治もできません!!!」
「だいたいアンタがレオに虫を食べさせろと言ったんでしょ!? それが次は強力魔法草を採ってこい!? どこにあるのかも知らないし、だいたいアンタがこの事態を招いたんじゃなくて!?」
「このような症状は滅多に起きない非常に厄介な事なのです! 響子様は何もわかっちゃいない! あなた様があの時、あの場所で、巨人なんかにならなければ、結衣様がこうなる事なんてなかった!」
「なっ! 何を、いきなり……!」
そんな事を言われても、あの時、あの場所で、誰よりも巨人化を望んでいなかったのは響子本人だった。だからカチンと頭にきたのだが、ナズナの次に言う言葉は、響子を深い心の傷をえぐった。
「あなたは一体何人を喰えば気が済むんですか!?」
ゾッと寒気に襲われた。
響子は何人食べたのかなんて、数えてもいないし、覚えてもいない。
自分が何をしたのかも、全部思い出したはずだった。
だけど。
その後の事は詳しく知らない。
もしできるのなら、当時に戻って、全部をやり直したいくらいだ。
師匠になる立花結衣ともナズナとも会わなければ、今、こんなにも苦しい思いをしなくても済んだものを……。
「強力魔法草は極寒の山の頂きにいらっしゃる植物学者様が栽培しています! 結衣様は私がここに留めておきます! さぁ、その場所に送りますから、今すぐ、私の手を握って下さい!」
救急隊員がきた。
けど、ナズナはギロッと睨んで、絶対に結衣師匠を渡さないよう、空間魔法でこれ以上近寄れないように結界を作った。
「迷ってる余裕なんてありません! 響子様!!!」
「何なのさ、あんた……。たかがモンスターのくせに、何様なの!? 私はっ! 私が一番……。私は、一番っ、私が嫌いだよ……、死にたいよ!」
「あぁあ、もうっ!」




