第120話 エルフの姫君
俺は今、パラダイスにいる。
そう、まさに桃源郷。
目の前には様々な大きさのやわらかそうな桃たちがずらりと並んでいる。
大ぶりな桃はよく熟れておいしそうだが、小ぶりな桃も可愛らしくて捨てがたい。色も種類によって様々で、柔らかそうなものから、硬めのモノまで、まさに桃の万国博覧会やー。
博パイ主義者といたしましては、この上ない幸せですぞ。パラダーーーイス!
リリーさんこれはまさに緊急事態ですよ。俺のベルセルクは暴走寸前ですよ。
俺は色欲の魔王リリーさんの居城リリーガーデンを訪れている訳ですが、大事な部分だけを薄い布で隠した美女数十人に取り囲まれている訳ですが、これは何かの罠ですか?ハニートラップですか?
そうならば、非常に大掛かりで大胆ですね。
力技ですね。
「いかがです、どの子がヒトシ様のお好みですか?」
いや、どの子もとても美形なんだけど、一人だけ群を抜いている子がいる。
「あのエルフの女の子が少し他とは雰囲気が違いますね。」
「さすがヒトシ様です。その美貌もさることながら、やはりエルフの姫としての貴品。」
選ばれたエルフの美女は静かに微笑む。
高貴な雰囲気というか、レイちゃんにも共通するエルフ独特の美しさがある。
て、言うか、その子のせいで苦労してる最中ですよね?
緊急事態の最中ですよね?!
「リリーさん、今こんな事している場合じゃないですよね?」
「それはそれ、これはこれですわ。」
いや、それもこれもないよ。それを解決しましょうよ。
今リリーガーデンは絶賛侵攻され中である。そう、この美女エルフの姫君を攫われて、怒り狂ったエルフ王の軍勢に。
何やらかしてるのリリーさん!
なんでも、俺をもてなすために色々なところから美女を集めたのだとか。とっても頑張ったようだ。頑張りすぎたようだ。
てことは、俺のせいか!?
てか、攫っちゃダメでしょ。ここの子達全員攫われてきた子達なんだよね。絶対親御さん心配してるよ。
でもそれでこそ魔王か?
魔王だからこれでいいのか?
うーん、よく分からなくなってきた?
いやいや、とにかくここの子達は帰そう。
「リリーさんこの子を解放して、エルフ王に許してもらいましょう。」
「残念ながら話の通じる相手ではありませんわ。エルフ達は頭の固い連中ですもの。まったく、娘の1人や2人、気にしすぎですわ。」
その感覚おかしいよ。悪魔の感覚ってそんなもん?
「ダメですよ。とりあえずその子を連れて話し合いに行きましょう。」
エルフ王の軍勢はリリーさんの召喚した下位のアークデーモンなどを蹴散らしながら怒涛の進軍中です。
「かしこまりました…。」
納得しないながらも、ちゃんと俺の話を聞いてくれる。そういうとこはありがたい。
「では行きましょう。」
転移用のどこでも窓。その向こうには土煙も立てず無表情に魔法のみでアークデーモンを葬りながら進軍するエルフの精鋭たちが。
か、カッコイイ。なんというスマートさ。
魔法戦やってみたい…。
そういう思いが一瞬頭の中によぎる。
ダメダメ。悪いのはこっちなんだから。
ガラガラと窓を開け、
マジックシールド。
揺らめく魔力が放出され、ドーム状に魔法障壁を展開し、エルフの魔法を遮る。
と言っても魔力を放出して魔法を相殺してるだけなんだけど。
突然現れた俺たちに今まで無表情だったエルフたちがざわめき出す。
あ、範囲広げすぎて障壁の中にエルフ軍の一部が入ってる。これじゃエルフの魔法くらっちゃうよ!
慌てて範囲を狭める。
コントロールって難しいですね。
ギューッと狭めて、せばめて、最低限を守るように、と。
魔力のゆらぎは収まり無色透明の障壁が完成する。
お、安定したみたい。
ヒュォォーー!
そこに、一筋の矢が空気を切り裂いて飛来する。
そして目の前で音もなく消え去った。
き、消える魔球?!
じゃなくて魔弓か!
………。
あれ?何も来ない。
消えたんじゃなくて障壁にあたって消滅したのか。
「見たこともない男だな。拐かされた人間か?しかも、我が射手のエルヴンボウを防ぐとは。
魔力の大量放出によって、我等を怯ませるつもりだったようだが、魔力の揺らぎが大きすぎだ。精一杯の虚勢を張っているのが見え見えだぞ。」
エルフの軍勢の中から進み出て来たのは、エルフの割にガッチリとした体つきの偉そうな男だった。
虚勢ではないんだけど、未熟者ではあります。お恥ずかしい。
「ならば、エルフ王より与りしこの精霊弓フリンジによって虚勢ごと消え去るがいい。」
そう言って大男が構えたのは白く輝く大弓だった。矢を番え弦を引くと2mはあろうかという大弓が大きくしなる。すると番えた矢は白く輝き始め。次の瞬間。
消えた。
今度こそ消える魔球だ。
あ、魔弓だ。
……。
あれ、また消滅した?
いや、違う!
「我が主を愚弄するとは、いい度胸だな。」
リリーさんだ!
リリーさんが庇ってくれたんだ。
リリーさんは鬼の形相でエルフを睨む。
そして、
右手が無いよ!!
「我が主の実力があの程度だとでも?」
声に怒気が混ざっている。
えっと、あの程度ですよ…。
「それを見抜けぬような愚か者など、私1人で十分ですわ。」
いつの間にかリリーさんはいつもの表情に戻っていた。
けど何か、闘気のようなものをまとっている。
そして、小さな黒い羽が全身を鱗のように
おおっていく。
あの局部を隠している羽と同じものだ。あれはアクセサリーでも防具でもなく体の一部だったのね。
さらに、
「リリーさん腕が。」
リリーさんの右腕はいつの間にか再生していた。
「これが悪魔の再生能力ですわ。」
心配したけどどうやら問題ないようだ。
「片腕を吹き飛ばされて何をほざくか。
しかもその男が主だと?
色欲の魔王も所詮女、人間の男に食われたか。」
「勘違いするな、我は自ら軍門に下ったのだ。
世界を統べる魔王!ヒトシ様の為にな!」
そんなことお願いしてないし、許可もしてませんよね?
なにより軍も門もありませんよ…。
「リリーさん、良いんです、
目的は、エルフの姫君を還して
謝罪してお引き取りしていただくことです。」
「それは…。」
リリーさんが言い淀む。やっぱり納得してないのかな?頑張って攫ってきたんだもんね。いや、良いことでは無いけど。
「その必要はありません。」
後ろから透き通った声が響く。
エルフの姫君だ。
あれ?リリーさんが言わせてるの?
リリーさんの方を見ると、首を横に振る。どうやら、リリーさんの仕業ではないらしい。てことは?
「彼女に私の魅惑はかかっておりません。
いいえ、正確にはかかりませんでした。」
「じゃあどうしてここに?」
「それはもちろん、ヒトシ様に会うためです。」
言い淀むことなくエルフ姫の澄んだ声だ。
「彼女に魅惑がかからなかった時点で私は諦めましたの。
でも彼女は最初から私が来ることがわかっていたようで旅支度すら済ませていたのですわ。」
えっと、話について行けません…。
「姫様を惑わす不届き者共が!
エルフ王直属の将軍にして、王国一の弓使い!このアハンの弓技の前に散るがいい。」
「私あの将軍嫌いなのです。あれとは一緒に帰りたくないのです。
良くない噂も聞くし、なんでお父様はあんな輩を、傍に置きたがるのかわかりません。」
「私も同じく嫌いですわ。
ヒトシ様を愚弄するなど万死に値する!」
意見がまとまったようです。
面倒臭い方向に…。




