第118話 ヒトシの気持ち
クローンと同等の経験値を入手できる、秘術・クローンの恩返しを、編み出してしまった訳ですが。
クローンにお世話になりっぱなしの俺としては、何の恩が返ってきたのかさっぱり分かりません。
「ぼ、僕達も触ってみていいかな?」
ブルーレインのみんなも興味津々です。
「も、もちろん私たちも触るわよ。
なんと言ったって下僕のモノは主人のモノですもの。」
エミリア様、それはドザエモンに出てくる音痴魔王ジャイアヌビスの名台詞ですよ。
あとは、
お〜れ〜はジャイアヌビス〜
だ〜いまおう〜
などの強力な波動の全体攻撃を使います。
「これは、ヒトシくん…、
成長点を突破したようだ。」
おっといきなりハイトさんがパワーアップしたようだ。
「私には何の変化もないけれど、
これは画期的なものね。」
再びエミリア様からお褒めの言葉。
そしていつもの…。
あれ、その後のお決まりのセリフが来なかった。
本当に感心しているようだ。
ブルーレインのメンバーも口々に感想を述べている。
みんなが新しいことに興味津々で、
盛り上がる中、難しい顔のダンテさん。
「あの、ダンテさん、どうかしました?」
「あぁ。
これはナシだ。」
「!?」
これでどんな人でも簡単に強くなれるのに。
どんな人でも、簡単に、…か。
「…ダンテさんの言う通りです。
さすがです、ギルドマスター。」
「お、おぅ…。」
俺に褒められて、顔がにやけてますよ。
我慢しようとして変な顔になってますよ。
「どういう事ですか?
これで魔王側が圧倒的有利ですよ。」
「そうよ。これでヒトシの勝利は揺るがないわ。」
「ヒトシの勝利は、もとから揺るいでなどない。
クローンを使えば、
一夜で王国を滅ぼすくらい簡単だ。」
「まさか、そんな。
そう簡単に行くわけないじゃないですか。」
「まあ、簡単ではないかもしれん。
だが、不死身の白い軍団が敗れる姿、
想像できるか?」
「…出来ません。」
「だろう。
それどころか一日訓練しただけの
御者見習たちだけで、
王国軍をしりぞけることが
出来てしまうんだぞ。」
ダンテさんの言う通りだ。
分かっていた。
どれだけ自分を過小評価し、
相手を過大評価しても、
負ける姿など想像できない。
国王を相手に、何も対策を打たないのは、準備が出来ていないからではなく、何時でも、片手間ですら無く捻り潰すことができるから。
放置、しているんだ。
俺は、自分の力が恐ろしい。
俺にとっては些細なことでも、それによって大きく人生を変えられたり、生死を分けたりする可能性があるからだ。
…そしてこの魔石は、
この世界すら変えてしまうものだ。
「ひとりが不安なんです。
このまま力を使い続けてたら、
知らないうちに
誰かを不幸にしてしまうんじゃないかと。
誰かが、泣いているんじゃないかと。
誰かに言って欲しいんです。
ヒトシは良い奴だな。
おかげで助かったって。
答えて欲しいんです、
それでよかった。
お前は間違ってないって。
だから人に優しくするんです。
だから人の役に立ちたかったんです。
俺の優しさは、偽善なんです。」
みんな、話を黙って聞いていた。
ハイトさんとエミリア様は俺の事をじっと見つめ。
ダンテさんと、シェロルさんとアヤさんは微笑みながら。
そしてシェロルさんが優しく、
「ヒトシさんのせいで、誰か不幸になりましたか?
ヒトシさんのせいで、誰か傷付きましたか?
少なくとも私はそんな人は見た事も聞いたこともありません。
もしも、そうなってたとしても、それはきっと、ヒトシさんのせいだけじゃありません。
それに、ヒトシさんはそんな人がいると知ったら必ず助けに行きます。
それは、偽善でしょうか?
そこまでできる人が、偽善者であるわけがありません。」
「シェロルの言う通りだ。
そうか、そんなことを考えていたとはな。
まさか魔王様がそこまで小心者の
お人好しだとは誰が思うだろうな。」
「下僕はそんな小さなこと気にしなくて良いのです。
そんな下僕のしでかした事など、
主人の私がなんとでもして差し上げますわ。」
「僕達にできることならなんでも言ってくれ。
そのために集まったんだろう?」
「お前はいつもどうり飄々としていろ。
じゃあ、あとはお願いしますね。って。
ギルドマスター様に丸投げしとけ。」
「うちのギルドマスター強くてかっこよくて頼りになるんですから。」
「みんな、ありがとうございます。」
「だが、なぜクローンではなく、我々人間に助けを求めたんだ?」
「クローンを使えば、やりたいことは簡単に達成できると思います。
でも例えばダンジョンすべてをクローンに討伐させたらどうなります?」
「…僕達冒険者の仕事がなくなってしまう。」
「そうです、ダンジョンはこの世界にとても多くの恩恵をもたらしています。それらは、冒険者の人達が命をかけて挑み持ち帰ったものです。だからこそ、リスクに対する見返りがあるんです。なのにそこには既に俺がクローンで持ち帰った素材が大量に…。」
「それでは、私たちの持ち込んだ素材は買い取って貰えなくなってしまいますわ。」
「いや、冒険者ギルドが買取はする。しかし、買取価格は大幅に下がるだろう。しかしそもそも…。」
ダンテさんが確認するかのように俺の方を見る。
「俺は、冒険者ギルドが不要になります。
それどころか、御者も必要ありません。」
冒険者たちが一様に驚きの顔を見せる。ダンテさんは表情を崩さず難しい顔のままだ。
「ヒトシは人や物を一瞬で遠くへ運ぶことが出来る。」
「それはつまり、転移魔法ですわね。でもあれは恐ろしいほどの魔力を消費しますわ。私は討伐や訓練なども考えると1日に1度が限度…」
エミリア様がはっとした顔をしてこちらを見る。
「エミリア様、いつの間にそのような超常魔術を…。」
アンナさんの眼差しが崇高なものを見る目に変わる。まるで女神様でも目の前にしているようだ。
シュンとなるエミリア様。
こういうとこが可愛いよね。
色々あってエミリア様は転移魔法を覚えた訳だけど。エミリア様空気読まずにバンバン使いそうだから、さすがに大騒ぎになると思って、口止めしといたのだ。
フォローを入れると瞬く間にV字回復を遂げるのだけど、いや、√字回復か…。
シオらしいエミリア様。
かわいいからしばらくそのままにしとこう。
「ヒトシ、これもお前のせいなのか?」
ダンテさん。
そんなに詰め寄らないで、
熱気がすごいから。
「ま、まあ、せいと言うか、
せいじゃないと言うか…。
その話は今はやめましょう。
話がこじれそうなんで。」
「しかたない、後でしっかり説明してもらうからな。」
なんか、念を押された。
「話を元に戻そう。
ヒトシは大量の物資や人を
魔力を使って瞬時に移動できる。
しかもその魔力はほぼ無尽蔵と言ってもいい。」
「確かにあの時のヒトシくんの瘴気の量は
常識外れでした。
あれほどの魔力ならば納得です。
それに、共に依頼をこなしていたときに、
冒険者がロックリザードを運搬しなくてもいいように、転移の仕組らしきものを使っていたのを思い出しました。」
あぁ。スライムに無限収納をつけたやつだ。そこに討伐した魔物を入れてもらったんだ。
「そう、ヒトシにとっては、
それは全く難しいことではないんだ。
それだけ大量の素材を調達できる力があるという事はギルドを通さずとも商人や、他のギルドとも対等に取引が出来るという事だ。
そうだろヒトシ。」
「そうですね。
俺の場合はリスクを犯す必要も無いし、
人件費もかからないので、
安く提供もできるし、
そもそも買取してもらえなくても困りませんし。だから強気な態度で臨みやすいです。」
「冒険者ギルド並みの素材調達力があれば、ギルドは必要ない、ということだね。」
「はい、最初はその力を使って国王や、それに繋がる商人錬金術師を潰そうと考えていたんですけど。」
「そうだな、以前相談された時は、冒険者の保証をどうするか。という話までしていたな。」
「はい、でも思ったんです。
そうやって強引に国王を蹴落として、
その後は誰がどう国をまとめていくんだろうって。」
「それはヒトシが責任を持ってだな。」
「そんなことできると思いますか?
仮に出来たとしても、俺はこの国の住人じゃないし、そもそも魔王ですよ。」
「ヒトシ、その心配は要らないかもしれないぞ。」
扉の向こうからは聞き覚えのあるイケメンボイスが。
ロズさんだ。
「入るぞ。」
扉が開くとそこには、ロズさんとガッドさんが。
「ロズウェルか、久しいな。
軍を抜けたと聞いたぞ。
そんな事をして家は、大丈夫なのか?」
そういえば、ダンテさんも知り合いだったな。
「家は関係ありません、
それよりも、国王の代わりだろ。
俺は適任者を知ってるぞ。」
ロズさんは何故かいやらしい笑みを浮かべていた。




