第116話 訓練方針会議その2
まだ書いていない、ヒトシの冒険の後半に出てくるアンフェロッテというパーティが出てきます。
ヒトシの冒険も進めないとなぁ。
俺からの報酬を断ったロズさんからの提案はこうだった。
・収入は訓練で倒した魔物の素材を剥ぎ取って売ること
・訓練者に作業をしてもらいそれを訓練料の代わりとすること
「場所代も支払いたいところだが、
この広大な訓練場の代金なんか想像もつかない。」
「それはほら、魔王の施し。
という事でどうでしょう。」
「魔王の施しか。
そうか、魔王は人間と敵対しないために、善行をする。
そういう仕組みだったな。
それならばありがたく使わせてもらおう。」
「あと、ひとついいですか?」
「意見があればどんどん言ってくれ。」
「戦闘が苦手な人もいます。
戦うだけならまだしも、
剥ぎ取りとなると厳しいかもしれません。」
すいません、俺も無理です…。
「すいません、それは俺の妻にもやらせるってことですか?」
ハンスが、申し訳なさそうに尋ねる。
他の妻帯者も不安そうだ。
「そうか、確かに。」
「自らの身を守るために、
戦い方を覚えるのはまだわかる。
でもそのために、剥ぎ取りを強制するのは
どうなんでしょうか。」
訓練初日、魔物を倒すのですらためらう人がいた。それを思うと、剥ぎ取りはほぼ不可能だろう。
せっかく育ててきた優しい心、
魔物にすら心を砕くその心を
傷つけることにはならないだろうか。
「あの、こんな仕事でいいのか分からないですけど、
昼食の準備とか、施設の清掃とか、
用具の整備とか、
そういう仕事はダメですか?」
奥さんを気遣ったハンスの提案だ。
確かに、そういう人手も必要だ。
「あとは、子供たちを見てくれる
施設なんかもあればいいね。」
「あとは、訓練の間、家事も出来ないので、
夕飯も買えたり、食べれたりしたら
助かるかもしれません。」
ハンス君、なんて奥さん思いなんだ。
きっと彼は育メンで家事も育児も手伝っているんだろう。
感心感心である。
ガッドさんも、感心したように聞き入っている。
日用品なんかもここで買い揃えられれば、買い出しに行く手間も省けるかも。
訓練場って、汗とか血の臭い、殺伐としたイメージだったけど、なんかこうなってくると大家族とか、下町みたいな暖かくてアットホームな感じだな。
魔物も動物とか人型じゃなくて、スライムとか、鉱物系とか、無機物系の魔物で揃えてみるのがいいかもしれない。
やっぱり、みんなで話し合うのがいいね。違う立場からの意見、そこから見えてくるものも沢山ある。そして新しいアイディアも。
「うちの子供たちは、体が弱くて…。」
「だったらこういうのはどうだ?…」
「それじゃ、付いて来れないヤツが出てくるだろ!?」
「でも、甘くしすぎるのはどうなんだ?」
みんなで意見を出し合って、どんどん活発になってきた。
「皆さん、こんなのはどうでしょう…」
「おうおう、いいじゃねぇか、
さすが魔王様だな!」
ポーション酔いはどこへやら、
熱い話し合いは続くのだった…。
……………
ギルド長室、いつもはだいたいギルド長のダンテさんと職員のシェロルさん、アヤさん位しかいないのだけど、今日は人口密度が高い。
「ヒトシくん、久しぶりだね。
どうやら前にも増して楽しい事をやっているようだね。」
前にも増して?どういうことだろう?
「お久しぶりですハイトさん、
活躍は、ダンテさんから聞いてますよ。」
彼の名前はハイト。ランクAの冒険者5人のパーティ、ブルーレインのリーダー。冒険者の時期に俺を馬車馬のように働かせた9体の悪魔のうちの1人だ。
じゃなかった。
一緒に苦難を乗り越えた友だ。
「ありがとう、俺も君の活躍はダンテさんに聞いているよ。」
何を聞いていたんだろう?
「何をですか?」
ダンテさんを見ると、ダンテさんは気恥しそうにそっぽを向いた。
何を話していたんだろう?
「まあ、色々とね。
瘴気に取り込まれたり、魔王になったり
ほんと、飽きさせないよね。」
そうだ、俺の瘴気のせいで森から魔物が王都になだれ込み発生したスタンピードを制圧してスラムを守ってくれたのは彼らだった。
「その節はお世話になりました。」
「なに、元々君から貰った力のようなものだ。
君の大切なものを守るのは当たり前だろ。」
俺があげた力?
そんなのあったかな?
「はは、よく分かっていないみたいだね。
ま、それが君のいい所でもある。」
出会った時はCランクだったのに、
今や飛ぶ鳥を落とす勢いでAランクまで上り詰めた。たったの数カ月で。これは十数年に一度あるかないかの特例みたいだ。今年はそれがあと2組いたそうで、そのもう1組が、
「私を何ヶ月も放ったらかしとは、
いい度胸ですわね。
しかも私の許可もなく魔王になるだなんて、
あなたの主としては、甚だ心外ですわ。」
「エミリアさんは相変らずですね。」
「そんな、相変わらず美しいなんて…、
…はっ!
そんな口車に乗せられて、
許すほど軽い女じゃありませんことよ。」
エミリアさんは俯いてモジモジし始めた、
どうやら許してくれたようである。
そこにすかさず、侍女のアンナさん
「お嬢様、ヒトシ様はそのような事は、
一言も言っておられません。
気をしっかり持ってくださいませ。
まあ、もちろんそのような意味も
込められているとは思いますけれど。
なんと言っても、
エミリア様の可愛らしさと言ったら…。」
…始まった。
相変わらずの残念主従である。
あ、そうそう。
こちらも俺が冒険者の頃に出会ったパーティだ。
エミリア様と、侍女のアンナさん。それからもう1人、侍女のメルサさん。の三人でAランクパーティ、アンフェロッテである。あ、それを陰ながら見守ったり、体を張って盾になったり、表立って敵を殲滅したりしている、最強執事のゼーゼマン。
アンフェロッテが短期間でAランクになれたのは半分以上は彼の功績だろう。いや8割か?
元Sランクの冒険者でダンテさんの戦友。
今はただの親バカならぬ、過保護執事バカである。
執事、侍女を連れているという事は、エミリア様は、高貴なお方である。
大貴族ベルベット男爵の御令嬢である。
あ、大貧乏貴族ね。
元々魔法使いの冒険者の家系で魔法が得意だったため、ゼーゼマンの指導もあって、メキメキと頭角を現した。
何やら無限訓練とかいう恐ろしげな名前のトレーニングを編み出し驚異的な成長を遂げたのだとか。見た目によらず努力家さんなのである。
そして…
「まあ、魔王の下僕を持つというのも
貴族の格が上がるというもの。
ヒトシ、褒めて遣わす。」
「ヒトシ様、おめでとうございます。
エミリア様が、お認めになられましたよ。
では、すぐにでも婚姻の儀式を
執り行いましょう。」
これだ。いつの間にか許嫁である。
しかも、アンナさんの独断で、だ。
そして、
「な、何を言っておる?!
ふざけるな。ヒ、ヒトシと結婚など…。」
真っ赤になって、プシュー!!
です。
満更でもないのです。
ていうか、俺、下僕扱いなんだよね。
下僕と結婚するの?
「そ、そう言えばメルサさんは、どうしたんです?」
そうだ、いつもはここでブレーキ役のメルサさんの冷たい一言が放たれるのだ。
2人だけだと収拾がつかない。
幸いなのは、ゼーゼマンもいないことだ。ヤツがいるともっと収拾がつかない。
「メルサはゼーゼマンと買い出しですわ。
これからの準備に色々と物入りですもの。」
「そうか、もう動いてくれてるんですね。
ありがとうございます。」
「2人の新居には色々、必要であろう?」
ん?なんて?
「驚いておるな?
もう、色々と準備は進んでおる。
後は、ベルベット家への挨拶だけ。」
待って待って待って。さっきヒトシと結婚など!って言ってたよね?
気持ちは裏腹なやつですか?
上目遣いで見つめないで!
可愛いから、可愛いのは知ってるから!
残念貴族だけど…。
てか、俺の気持ちは?
「おい、久し振りの再開のひと時を
楽しんでるところ悪いが、
そろそろいいか?」
ダンテさん、そろそろ癖の強いお貴族令嬢に限界を迎えたようです。
冒険者ギルド長室
「二組とも、急に呼び出して済まないな。」
「ヒトシくんの頼みとあっては断る訳にはいかないでしょう。」
「もちろんですわ。ヒトシの為なら、
たとえ火の中水の中、ですわ。」
「さすがお嬢様です。
下僕の為にもその命を厭わない心持ち、
アンナは一生ついて行きます。」
「あ、あぁ…。助かる。」
「ところで、頼み事とはなんなのでしょう?」
「そんなの決まってますわ。
また、私たちと冒険に出かけたいのですわ。」
「でもヒトシくんは魔王、
おいそれと冒険なんか、
王達にも狙われる立場なんだし。」
「それなんだが…。
俺も何を頼みたいのか聞いてないんだが、
ヒトシを助けるという事は、魔王の側に付く。
と言うことだ。
つまり、国を敵に回す覚悟が必要だ。
特にレミリアは貴族だ。
レミリアの動向によっては
最悪、爵位の剥奪。ということも有り得る。」
「我がベルベット家は、誇り高き貴族の家系。
でもその前に、冒険者の家系でもあるわ。
お父様は、国のためよりも、国民の為。
だからいつまでも他の貴族たちから疎まれ
権力闘争からは蚊帳の外、
前王の元ならともかく、今の国王の元では
そんな爵位には興味ありませんわ。」
「ベルベット卿はなんと言っているのですか?」
「レミリアの好きにしなさい。
貴族でなくなったら、
私も晴れて1人の冒険家だ。
憧れだったんだよなぁ、冒険!
俺も死んだおじい様のように
いつか冒険に出たかった!!
ですって。」
「むしろ剥奪されたいくらいの勢いだな。」
「そうですわ、でもお父様は、
領民のためにきっと貴族位を守り、
貴族として、戦うでしょう。
きっと。」
「うむ、さすがベルベット卿だ。」
「ベルベット卿は僕たち冒険者にも
目をかけてくれる、
とてもすばらしい貴族様です。」
「あ、でも、剥奪されたら、
領民はヒトシに預ければ問題なかろう。
とも言ってたわ。」
「「?!?!」」
「アンナもその意見に賛同します。
さすが、領主様。
分かっていらっしゃいますね。」
「アンナもやっぱりそう思う?
いい下僕を持ったものよね!!」
「「………………。」」
コンコン。
「ギルドマスター、ヒトシさんがお見えになられました。」
「…あぁシェロル、通してくれ。」
「マスター、何かありました?」




