第109話 コボルトの洞窟
友好のスマイルでゴブリンエンペラーとマブダチになった訳ですが。
まさか、スマイルで畏怖され命乞いされるなんて悲しいことが有ってはならないので。そっと頭の中で記憶を書き換えることにした。
親友のゴブリンエンペラー、ゴブ夫は、自分たちが訓練によく使っているコボルトの洞窟と、武具を作るための素材を集める大蛇の巣穴の場所を丁寧に教えてくれた。
お願いだからそんなにかしこまらないで。
それからサイクロプスのナワバリもあるから、森の全てを把握してる訳では無いそうで、知らないダンジョンもあるだろうとの事だ。
「ヒトシ様、
もしマディ様に会うことがあれば、
我らゴブリンはいつまでも
お帰りをお待ちしております。
と、お伝えください。」
「ゴブ夫さん、様はやめてください。」
「しかし、魔王様に向かって
そのような無礼なことは…。」
「そんなことは気にしなくていいんですよ。
新米魔王ですし、
そんな大したもんじゃないんで。」
「大したものですよ。
いや、しかし、分かりました。
ではヒトシさんと呼ばせていただきます。」
うーん、呼び捨てでいいし、さっきまでの威厳のある喋り方でよかったんだけどな。
まあ、仕方ないか。
ちなみにゴブ夫さんの名付け親はマディ様。
「ゴブリンの王様」で、ゴブ王、ゴブオウ、ゴブオ。になったそうだ。
うん、ナイスセンス!
「では、探索させてもらいます。」
「はい、お気を付けて、ヒトシさん。」
俺はゴブ夫さん達にひとまず別れを告げ、
探索を再開した。
森を探索しつつ、ダンジョンも攻略しよう。
ゴブリンやサイクロプスが生まれてきた穴はマディの胎と呼ばれ、
ダンジョンではないのだそうだ。
不思議な現象である。
もしかしたらこの森全てがマディ様って事なのかもしれない。
神様って言うくらいだからそんな事があってもおかしくない。
ちなみに、俺は魔王様って言うくらいですが、大した事はありません。
探索している間も時折あちらこちらで
マディの胎からサイクロプスや、
ゴブリン達が生まれて来ていた。
瘴気が集まり、それがマディの胎に吸い込まれる形で
魔物達が誕生していることが分かってきた。
それを巡ってゴブリンとサイクロプス、
両者の激しい奪い合いが、繰り広げられていた。
個々の力ではサイクロプスが勝るものの、ゴブリン達は作戦を立てて優位に戦っているようだった。中でも、リーダー格っぽい大きめのゴブリン達は部下のゴブリンたちを使って被害が最小限になるように戦っている。それにしてもサイクロプスの性質や、弱点をよく理解している。というか、ロングソード1本で一対一で渡り合ってる奴までいる。
個の力でも上か?
グラトニアロプスさえいなければとっくにサイクロプス達は全滅していたんじゃないだろうか。
でも、ゴブ夫さんとの約束だから、
それらに関わることなく探索を続ける。
「ここが、コボルトの洞窟だな。
コボルトのダンジョンはペンレシアの資料には
載っていないダンジョンだけど。
コボルトって言えば犬人の魔物だよな?」
しかしそこにいたのは、顔に付いているすべてのパーツが異様に大きい
小人みたいな醜い姿の魔物だった。
あれがコボルト?
想像してたのと全然違うんだけど。
念の為鑑定をかけてみる。
コボルト
…イタズラ好きの妖精。
幻覚や、虚言を使い他者を惑わす。
物陰からこちらを観察し、挑発してくる。
個々の力は弱いが、多少の魔術を使えるので、
取り囲まれると厄介。
獲物を見つけると自分たちの
ナワバリまでおびき寄せ、なぶり、
弱ったところを生きたまま食らう。
おっと、なんか意外とゲスいヤツらだった。
いや、見た目通りか。
そんなことを考えていると、こちらに気が付いたのか、
バカにしたようにケラケラと笑い
さっさといなくなってしまった。
・・・?
えっと、どうしたらいいの?
とりあえず中に入ってもいいのかな。
ん、待てよ?
一応、同化の固有スキルの発動してるからこっちの姿は見えてないはずなんだけど。
こっちを見て笑ってたってことは、
見破られてるのかな?
もしかしたら、索敵探知の能力に優れているのかもしれない。
とりあえず、あいつの思い通りになってみますか。
なんて思って足を踏み出した瞬間。
なんかヌルッとしたものを踏んだ。
そして足元に意識を向けると、
ゴン…
拳大の石ころが、天井から落ちてきた。
そして、
カンッカンッ!
針状の何かが後ろから飛んできた。
振り向くと、二匹の小人が吹き矢を持って喧嘩をしていた。
俺のが当たった!
いや、俺のだ!
みたいに喧嘩をしているようだったが、こっちと目が合うと、ササッと姿を隠した。
ゴブ夫さんにダンジョンの場所は聞いたけど、どんなダンジョンかは聞かなかったな。てっきり犬人の魔物がいるダンジョンかと思ってたから。
ゴンッ…
なんだ?
さっきから石が落ちてくるな。
落石注意のダンジョンだ。
と、思って天井を確認すると、
小人が天井に張り付いて、首に掛けた手提げ袋をゴソゴソやって次の石を落とす準備をしていた。
さっき頭に落ちてきた石を拾い。
ヒュン…
軽く投げる。
ゴッ!
天井に張り付くコボルトの頭スレスレを通り天井に石がめり込む。
そのまわりには無数の亀裂が走っていた。
普通は天井に当たった石が割れそうなもんだけど、
「魔力投擲」
貫通投擲というタルトや兎人族が狩の時に使うスキルの基本形。
と言っても物質に魔力を込めて投げるだけなんだけど、相当硬度が増した。
さらに空気抵抗も減ったのか、
ほんとに軽く放っただけなのに、
思った以上のスピードが出て俺がびびった。
ボテッ…
あ、目の前にコボルト落ちてきた。
天井から落ちて背中を強打したようだ。息が苦しそうだ。頭は首に掛けていた手提げ袋がクッションになっていた。
あ、手提げの中も硬い石だったね。
悶えている、とてつもなく悶えている。
悶えながらこちらを睨み付けている。
えっと、これは倒していいんだよね。
あまりの緊迫感の無さに、若干戸惑うな。
ん?魔力?
拳大の火の玉がコボルトの手のひらから放たれ俺の顔面めがけて飛んでくる。
「おうっと!」
反射的ににぎりつぶす。
と、同時にコボルトを踏み付ける。
目くらましで逃げようだなんて
こっちだって、そんな甘くはないよ。
と思ったけど、踏み付ける力を少しゆるめる。
腕の力をめいっぱい使いずるっと抜け出すコボルト。
振り向きもせずがむしゃらに逃げていった。
さて、あとを追いますか。
一生懸命逃げて、狭い道を選んで、
追いつかれないように必死だ。
でも、隠れるつもりは無いみたい。こちらが見失わないように一定の距離を保ちながら逃げていく。
大丈夫だよ。索敵があるから、見失うことは無いよ。
でも、と言うことは…。
…
少し天井の高い開けた場所に出た。壁には焦げ痕や、何かが当たって崩れたような場所が無数にあった。
何よりも、開けた場所には無数の骨が散乱していた。
つまり、ここが彼らのお食事処。
誘い込まれたわけだ。
高い壁には無数の穴。
中に入ると、入口が塞がれる。
穴の中からはケタケタとまたマヌケが引っかかったとばかりに、嘲笑が聞こえる。
穴の一つ一つから大きな目がこちらの品定めをしている。
「ヒトシさん。」
あれ?シェロルさんの声だ。
と、振り向くが誰もいない。
ボウッ!
後頭部に火の玉が当たって掻き消える。
振り向こうとした時、全身に浴びせられる様々な攻撃魔法。
幻影魔法も混ざっていてどれを防げばいいのか攪乱する戦法だ。
魔法によってコチラが見えなくなる。
キャキャウ!
猿のような鳴き声がすると、攻撃が止んだ。
そして、キャウキャウと騒ぎ始める。
なぜか?
俺の姿がないからだ。
ダンジョンに入った時、同化のスキルを使ってたのに存在を見破られたのは、探知能力があるんじゃなくて、ダンジョンに入ってフォレストシーカーの同化のスキルが発動しなくなったからだ。
今発動してるのは隠形。
あっちからは完全にこっちの気配すら分からないらしい。
穴の中からワラワラと這い出してくるコボルトたち。
誘い込んだつもりが、今度は逆にこっちに誘い出されてるとも知らずに。
さて、どうしてやろうか。




