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階下の庭は青く輝く  作者: 森の 緑


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7/9

豊かな階下の庭

 朝は、セミの鳴き声で起こされる。

 群馬の夏はとても暑い。

 盆地なのだから・・と言ってしまえばそれまでなのだろうが、関東平野からの熱風が海からの風に乗って群馬まで流れてくる。

 そして、赤城山を越えたところで、榛名山、妙義山にがっちりと囲まれ、谷川岳を超えることができずに熱気がこもるのだと聞く。

 確かに、夏は特に空気がよどんでいるように感じられる。窓を開けても風が抜けない。

 冬は、空っ風と言われる突風がふく、強風の日が続くのに。

 夏は、その風がぴたりと止む。

 夏と冬が入れ替わってくれれば、どれほどいいだろうかと思う。

 今年の夏は、特に暑い。

 ベランダにプールを出しても、子供たちはすぐに飽きてしまい、結局は部屋の中に入ってエアコンのついたリビングでトムとジェリーのDVDを見始める。

 昨年の夏、甲子園の決勝戦に、前橋育英高校が出場した。

 舞子は特に野球に興味はなかったのだが、地元の高校ということもあり、街中が大盛り上がりだった。

 そのため、なんとなくテレビをつけて応援することにした。

 舞子は、何を思ったのか、球児たちと同じ気持ちになって応援すれば、優勝できるはず・・という妙な願掛けをして、エアコンを切り、窓を開け放って前橋育英高校を応援した。

 そして、舞子の願いが通じたのか、優勝した。

 最後の最後まで、宮﨑の延岡学園高校が粘り、ハラハラする試合だった。

 応援している時には、夢中になっていたので気づかなかったのだが、試合が終わって監督のインタビューになる頃、一気に気分が悪くなった。

 熱中症だった。

 急いでアクエリアスを飲んで水分補給して、大事には至らなかったが、あまりにもバカなことをしたと可笑しかった。

 だが、なぜだが妙な達成感があった。

 昨年の失態から学び、今年はきちんとエアコンを入れている。

 子供たちがリビングでDVDを見ている頃、舞子は1人、ベランダでプールの片づけをしていた。

 ふと、下から声がしたので、ベランダから身を乗り出して見てみると、桜木美咲がビニールプールに水を入れている最中だった。

 今から瑞樹くんをプールに入れるのだろう。

 引っ越してひと月ほど経つと、家の中が片付いたのか、庭の手入れを始めていた。

 美咲の夫だと思われる人(あいさつを交わしていないので、断定できない)が、せっせと庭に芝を張っていた。

 土がむき出しで、無機質だった庭が、芝を張る事により、青々と命を持ったように生き生きとして見えた。

 そして、美咲がその周りに色とりどりの花の鉢を置いた。

 ミントの鉢もあったのだろう。

 夕方、水やりをした後には、必ず、下からアップルミントのいい香りがした。

 豊かだな・・・。

 下の庭で繰り広げられる日々の営みが、この上なく丁寧で、豊かな事のように思えた。

 きっと、毎日の生活でも、手の込んだ食事をきちんと作り、家の中もピカピカに磨き上げられているのだろう。

 毎朝、きれいに身づくろいした妻が、体型に合った細身のスーツを着こなした夫を見送るのだろう。

 そして、子供を叱りつけることもなく、ゆったりとした時間を過ごしているのだろう。

 どこまでも妄想が止まらなかった。

 今の自分が、なぜだかとても惨めに思えた。

 庭こそが、幸せの原点のような気さえしてくる。

 夫婦二人で、一緒に庭を作り上げる。

出来上がった庭を二人で見ながら、次はどこをいじろうかと相談する。

 庭があれば・・。

 どうして、あの時、201号室を買ったのだろう。

 なぜ、庭のある101号室を選ばなかったのだろう。

 なぜ、3部屋にこだわったのだろう。

 値段の100万円くらいどうにでもなったではないか。

 次々と後悔の言葉が浮かんでくる。

 庭さえあれば・・。

 プールに水をはり終えたのか、瑞樹くんのきゃっきゃとはしゃぐ声と共に、ぱちゃぱちゃという水音が聞こえてきた。

 ベランダとは違い、芝生の上のプールなので、どんなに水をまき散らしても洗濯物が濡れることはない。

 ジョウロを使って、庭の植木鉢に水をやっている様も可愛らしい。

 階下で繰り広げられる光景を見る度に、舞子の胸に、少しずつ澱のようなものがたまってくるのを感じた。

 胸がざわざわする。


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