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階下の庭は青く輝く  作者: 森の 緑


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6/9

私、パートへ行くから

 その夜、夫の亮介は職場の飲み会があり、帰って来たのは夜中だった。

 と、思う。

 舞子は、パートの話をしようと12時までは起きていたが、帰って来なかったので、先に寝てしまった。

 なので、時間の断定はできない。

 朝、少々二日酔い気味の亮介だったが、機嫌はよさそうだった。

 酔いを醒ますべく、一気に水を飲みほしたところで話しかけた。

 「あのね、私、パートしようかと思って。PTAで一緒の斎藤さんから、すごく条件のいい仕事を紹介してもらったの。時間も蓮が幼稚園に行っている間だけだし、短期間のパートだから気晴らしするのにもちょうどいいし。ママ友とのランチ代くらいは自分で稼ぎたいな・・と思ってて・・」

 一気にまくしたてた。

 別にやましい事があるわけではないのだが、緊張すると、早口になってしまう。

 「ふーん、別にいいんじゃない?蓮が幼稚園に行っている間なら、問題ないんじゃない?」

 亮介は、飲み干したコップをテーブルに置きながら、そんな話、どうでもいい・・といった風だ。

 妻のパートの話しより、自分の二日酔いの方が気になるらしい。

 そういえば・・。

 最近、特に飲み会が多いような気がする。

 もともと、酒には強いほうなので、そう酔っぱらって帰ることはない。

 二日酔いというよりも、寝不足で酒が抜けきっていないのかもしれない。

 幸い、亮介の職場は自転車で10分もかからない距離だ。

 昨日は、飲んで帰って来たので、自転車は職場に置いたままのようだ。

 今朝は、すっきりしたいから、歩いて職場へ行くと言う。仕事がたまっているので、早く行って片付けるそうだ。

 そう言って、7時過ぎには家を出て行ってしまった。

 101号室に人が入ったことを言うのをすっかり忘れていた。

 まあ、言ったところで、そんな情報、今の亮介にとってはどうでもいいことだろう。


 子供たちを送り出し、家事を一通り終えると9時を回っていた。

 桜木は新しい家でどう過ごしているのだろうか。

 子供は、新しい場所に行くと落ち着かなかったりするので、泣いたりしなかっただろうか。

 ふと、自分たちがこの部屋に越してきた時のことを思い出した。

 蓮は2歳で、爽太郎は、まだ幼稚園の年中の頃だった。

 幼稚園バスが来る範囲内でマンションを探した。引っ越しすることによって、幼稚園まで変わるのはイヤだったからだ。

 爽太郎も、適応力がある方ではないし、お友達と離れ離れになるものかわいそうだった。

 そうはいっても、1年生に上がると、結局は今までのお友達とは別れることにはなるのだが・・。

 小学校に近く、亮介の職場にそれほど遠くなく、緑の多い静かな場所を探して、今のマンションにたどり着いた。

 築十数年経っていることもあり、値段的にも今までの家賃にプラスアルファ程度だった。

 ボーナス払いも追加されることになったのは、少々痛手だったが。

 越してきて、最初は、部屋が広くなって喜んだ爽太郎だったが、幼稚園バスのメンバーが変わってしまい、それが少々ストレスとなってしまった。

 その日から、きっかり1週間、おねしょが続いた。

 そして、1週間の後、ぴたりと止まった。

 今となっては、あのおねしょは何だったのだろうかと思うが、子供も環境が変わるとストレスを受けるのだとしみじみ感じた出来事であった。

 桜木宅の男の子は大丈夫だっただろうか?


 10時を回ったところで、斎藤に電話した。呼び出し音が4回鳴ったところで、

 「はーい、さいとうでーす」

 という声がした。いつも、斎藤は元気だ。

 「おはようございます。一色です。昨日いただいたパートのお話、お願いしようかと思いまして」

 舞子もワンオクターブ高い声を出してみた。明るく聞こえただろうか。

 「うわー。うれしい。ほんっと、いい職場だから、お勧めよー。明日、パートの日だから、上司に言っておくね。履歴書は必要かもしれないから、それも聞いとくね。条件は、昨日言った通りだけど、他に何か聞きたいことある?」

 舞子には、ものすごく気になることがあった。

 「あのー、どんな服装していけばいいんですか?スーツですか・・?」

 おずおずと聞いてみた。

 この数年間、ほとんどジーンズとTシャツといった格好で過ごしてきたので、きちんとした服なんて持っていない。

 買うとなると大きな出費だ。

 まあ、先行投資と思えば思えない事もないのだろうが。

 「あー、大丈夫よ。データ入力するだけだから、みんなラフな格好してきてるよ。ただ、一応、ジーンズだけは避けてるかな」

 ジーンズ以外か。

 ジーンズ以外のボトムスとなると、チノパンかロングスカートだが・・。カジュアルすぎるだろうか?

 初日は、入園式で着た黒いシフォンのスカートにしよう。トップスは、何か探せばあるだろう。

 「面接の日時とかわかったら、また連絡するね」

 「はい、わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします」

 電話相手には見えないけれど、丁寧にお辞儀をして電話を切った。


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