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階下の庭は青く輝く  作者: 森の 緑


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パートで働いてみない?

 蓮を送り出して、慌ててかけつけた保護者役員会議は、なかなか進まなかった。

 役員の大半が欠席していたことに加えて、カタコトの日本語しか話せない外国人のお母さんが2名参加していたからだ。

 多数決を採るにも、外国人のお母さんは座っているだけなので、全く話が進まない。

 PTA本部役員としては、各役員に仕事を少しでも振り分けたいのだが、採決できず、結局は仕事の大半を本部で抱え込むことになる。

 繁華街に近いこの小学校では、外国人の母を持つ子供が多い。

 みんな、父方の名字で日本的な名前を付けられているので、一見するとハーフだとはわからない。 

 今は、ミックスというのか。

 学校行事で母親を見てわかるか、友達同士仲良くなって初めてわかる。

 困るのは、特に4つの各役員のトップ決めだ。

 もちろん、みんななりたくない。

 日本語ができない母がトップになったとして、何の役割も果たせない。

 PTA本部が間に入って、役員決めに参加することもある。

 その際、日本語のできない母がいることが事前に情報として入って来るので、その母を外して役員決めをしてはどうかと提案したのであるが、非難ごうごうであった。

 父がいるではないか?という意見や、母でもカタコトわかるのであれば、問題ないだろうという意見。

 カタコトといっても、難しい日本語は理解できない。

 役員の仕事が理解できるのかと言われれば、難しいだろう。

 みんな、自分に役員のトップという火の粉がかからないよう必死なのだ。

 たたでさえ忙しい毎日に、『役員』の仕事まで増えたのではたまったものではない。

 そこに、『思いやり』といった感情の欠片は微塵も存在しない。

 ボランティア的な本部役員を引き受けている自分についても、思いやってくれる人などいないのだと舞子は悟った。

 もっとひどいのは、「PTA本部役員になる人なんで、目立ちたがりのやりたがり。そういう人いるよねー。そういう人が役員やればいいんだよねー」という陰口だ。

 確かに自分の意思でなることを決めた。

 だが、決してやりたい仕事ではない。

 なり手がないので、仕方なく・・といった感があるのが本音だ。

 みんなの為に・・なんてセリフは偽善でしかないのは、もちろんわかっている。

 役員のトップは、結局あみだくじで決めることとなった。

 そして、舞子の願いも虚しく、外国人の母に決まった。

 外国人の母は、その後の会議には必ず出席してくれていた。

 夜の仕事なので、日中は手が空いているのだろう。

 後で知ったのだが、役員に決まった時点で、すでにシングルマザーとなっていたようだ。

 父が来てくれれば、話が早く進むのに・・との淡い思いは潰えた。


 会議が終了した頃には、1時を回っていた。

 とりあえず、議題については一通り調整が済んだ。

 もう、お腹がぺこぺこだった。お腹が鳴るのを懸命にこらえていたので、難しい顔をしていたようだ。

 「一色さん、すごく怖い顔してたけど、何かあった?」

 本部の中でも一番話しやすい斎藤だ。

 古参の役員で、役職は副会長。新入りの舞子の面倒を何かとよく見てくれる。

 困った事があっても、彼女に相談すれば、大抵の事は即答してくれるので、とても助かる。

 明るく人あたりもよく、舞子は斉藤が大好きだ。頼りになるお姉さん的な存在とでも言おうか。

 「もう、お腹がすきすぎて、お腹が鳴りそうで。なると恥ずかしいから、必死にお腹に力を入れてたんですよ」

 お腹を押さえながらそう言った。

 「そうだったんだ。でも、ほんと会議長いよねー。この行事の多さはどうにかならないものかしらね。今は、会長が仕事できる人だから回ってるけど、会長が変わったら悲惨よー」

 そう。会長は仕事がよくできる。

 自営業なので、時間のやり繰りができるのか、会議にはず出席しているし、先生方との打ち合わせ、段取りもスムーズだ。

 仕事のほとんどを本部で引き受けることになっても、なんとか回っているのは会長によるところが大きい。

 舞子は、理路整然と話ができる人に惹かれる。

 好きという感情よりは、憧れと言った方が近いかもしれない。

 会長が夫だったら・・と考えてみても想像がつかない。こんなタイプは、夫には向かない。

 舞子が何を行ってもちろん理路整然とした話口調で、容赦なくやり込めてしまうはずだ。

 口下手な舞子は、為す術もなく黙り込んでしまうだろう。

 そんな様子が容易にに想像できて、笑ってしまう。

 結婚と恋愛相手は違うというのと通じているような気がする。

 「そうだ。一色さん、仕事してないよね?下の子が幼稚園だっけ?私、今、パートで働いててね、そこがすごく条件がいいのよ。短期パートの増員かける予定だから、もしよかったらやってみない?国土交通省からの臨時の仕事で、それを請け負っている企業がデータ入力してるの。パソコンできるよね?一色さんの家からなら自転車で5分くらいのところにあるし。やりたいなら推薦するよ。いい仕事だから紹介したいけど、私の周りで仕事してない人って、一色さんくらいなのよねー」

 やりたい。

 即座にそう思った。

 舞子の仕事ぶりを評価して是非・・という口調ではなかったけれど、斎藤の紹介なら確かだろう。

 短期のパートなら気楽だ。

 「時間は朝10時から3時まで。お昼休みが1時間あるから実労は4時間。時給は1000円。土日は休み。用事がある時は、みんな適当に休み取ってるから、子供が熱出して休んでも大丈夫よ」

 そんな願ったり叶ったりの仕事があるのか?

 まさに、今の舞子にぴったりの仕事ではないか。

 「やりたいです。一応、主人と相談して返事させて下さい」

 即答したいところだが、一応、亮介の了解は得た方がいいだろう。

 『決めたから』と事後報告するのと、『働こうと思う』では、家長として受ける印象が全く違うはずだ。

 余計な波風は立てない方がいい。

 結婚して10年にもなると、それくらいの心得はできる。

 男はとりあえず、立てておけば機嫌がいい単純な生き物なのだ。

 斎藤に、2~3日中には返事すると伝えて別れた。

 亮介の様子を見て切り出さなければいけないからだ。

 こういう話は、機嫌のいい時を見計らって言わなければ、スムーズに事が運ばない。

 これも、10年の経験で会得したものだ。

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