住宅展示場へ行く
住宅展示場には、10棟ほどの建物が建っていた。
わりと近くにあるのに足を踏み入れたのは始めてだった。
「今更、住宅展示場見て何になるんだよ」と、ごもっともな意見を言って、面倒くさそうな亮介を連れ、爽太郎、蓮もお菓子で釣り上げやって来た。
ちょうどイベントをやっているようで、人形型のふわふわドームがあった。
10人ほどの子供たちが中に入って遊んでいる。
爽太郎と蓮も並んで順番を待った。
その他、ポップコーンをもらったり、綿菓子をもらったりして、子供たちは十分楽しんでいるように見えた。
お目当ての箱入りのラスクは、展示場内の3棟を見学したら、スタンプを押してもらい、それと引き換えというシステムだった。
やはり、行っただけでもらえるほど甘いものではなかった。
とりあえず、3棟は見て回らなければいけない。
1棟目は、リビングが30畳もあり、その中に小上がりがあって、掘りごたつ式の座敷が設けてあった。
窓も大きく、広い庭があれば、景色もさぞ素晴らしいだろう。
しかし、現実問題、30畳のリビングを作ったとして、その他の部屋がみすぼらしかったら、バランスが崩れてしまうだろう。
モデルハウスのこの空間でだからこそできる事だ。
事実、「この家を建てるといくらですか?」と軽く聞いてみると、「1億以上はしますね」と普通に返事が返って来た。
やはり、お金持ちしか住めない家だ。
亮介が、
「宝くじでも当たらない限り無理だな」
と言ったが、舞子は、『購入しても維持費かかるし、やはり庶民には無理だわ』と夢さえも見ない。
2棟目も同じような家だった。
だが、3棟目の家は違った。普通の家だった。
その例えは変だが、どこにでも建っているような3LDKの家。
リビングの畳数も15畳程度。
対面キッチンで、ダイニングテーブルとソファを置いたらスペースに余裕はないが、日常生活が容易に想像できた。
しかも、窓の横には小さな庭が設けてあり、きれいに芝が植えられていた。
舞子は、目を閉じると、この家で生活する自分が目に見えるようだった。
気づけば、メーカーの担当者の説明にじっくりと耳を傾けていた。
「建てるとしたら、いくらくらいですか?」
「オール電化ですか?」
「耐震はどうなっていますか?」
などと質問する舞子を、『おいおい、買う気かよ』という風に亮介が横目で笑って見ていた。
子供部屋には、二段ベッドが置いてあり、それがうれしくて、爽太郎と蓮は、上ったり下りたりして遊んでいた。
隠れ家のような場所は、大人も子供も大好きだ。
「お父さん、この家がいい。この家に住みたい」
爽太郎が気に入ったのは単に二段ベッドだろうが、自分と同じ気持ちになってくれたようで、舞子はうれしかった。
3棟すべてを回りきり、箱入りのラスクをもらうことができた。
昼過ぎに来たのだが、帰る頃には、陽が傾きかけていた。
亮介は、『疲れたな』と言いながら車に乗り込んだ。
舞子も疲れてはいたが、夢の国で過ごした後のような満足感を得ていた。
また舞子の好きな5月がやってきた。
いつものように、新緑が美しく、爽やかな風が心地よい季節だ。
ベランダから下を見ると、緑の芝生が青々と茂っていた。
だが、家主のいない庭は手入れがなされておらず、芝も長さが不揃いで、茫々とした野性味あふれるものになっていた。
桜木は、このマンションをどうしたのだろうか。
管理組合に聞けばわかるのだろうが、そうする理由もなかった。
ただ、数年後に桜木がまたここに戻ってくるかもしれないと思うと、少し心穏やかでないものはあった。
数か月前には、まぶしいばかりに輝いていた庭が、今はみすぼらしく見える。
桜木の人生のようで、少し辛かった。
さらに、美咲を思うと、いたたまれない気持ちになった。




