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階下の庭は青く輝く  作者: 森の 緑


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新しい役員

 1月は、PTA本部としての行事が何かと忙しい。

 次期役員候補もまだ決まっていない。

 本来ならば、本部役員は2年で交代できるのだが、なかなかなり手がおらず、4年も5年もやることになる。

 辞めるタイミングがつかめず、子供が卒業するまで続けることになるのだ。

舞子は、爽太郎が2年の時に役員になったので、このままいけば、6年まで5年間務めることになってしまう。

 最悪、蓮が入学し、卒業するまでと考えると、頭がくらくらする。

 なぜ、そんな事になるのか。

 まず、システムがよくない。

 自分が辞めるタイミングで、次の役員を見つけて来なければならないからだ。

 そうそう役員になりたい人などいるわけがない。

 舞子も、次の人を見つける労力を考えれば、自分が続けたほうがいいような気さえしてきた。

 実際、役員の仕事は月によって忙しさの波がある。

 年度初めは、新入生に向けての説明会、入校カード作り、総会資料作成と目が回るほどの忙しさだ。

 だが、それ以外の月は、月例の会議と打ち合わせはあるものの、比較的学校に来る機会は少ない。

 今日、学校へ赴いたのは、次期役員候補者を絞り込むためだ。

 斎藤の子供が6年生で卒業となるため、斎藤は必然的に辞めることとなる。

 その補充人員を探さなければならないのだ。

 年末に、全保護者へ向けて、役員立候補用紙と推薦用紙を配った。

 立候補はもちろんゼロだ。

 保護者全員に自分が役員に推薦したい人の名前を書いてもらう。

 無記名式なので、誰を書いてもよい。

     ○年○組 ○○さんのお母さん     

 のような記述でOKだ。

 その中で、推薦人数が多い人から絞り込んでいく。

 各学年1~2クラスしかないので、推薦される人は、だいたい決まってくる。

 子供会でよく働いてくれる人や、ボランティアを募った時に来てくれる人。

 クラス会議でリーダー的な存在の人など。

 ただ、やみくもに声をかけるわけではない。

 クラスでリーダー的な人は、チームワークを乱す人である可能性も持ち合わせている。

 今のこのPTA本部役員は、会長を中心として、残りは補佐として働いている。

 会長が、「これ、よろしく」と言えば、「はい、了解」と言った具合だ。

 今の役員は、みんな穏やかで非常に心地よい。

 それを乱さない新メンバー。

 推薦されている人の名前を見ると、顔と名前が一致する人ばかりだった。

 ある意味、この辺りでの有名人といったところだろうか。 

 いい意味でも悪い意味でも。

 ひと癖あるような人達ばかりだった。

 そういう意味では、舞子を勧誘した当時の本部役員の思惑がよくわかるような気がした。

 子育ての講演会をわざわざ聞きに来るような、真面目で熱心な人・・という印象だったに違いない。

 自分で言うのもなんだが、顔も穏やかな方だと思う。

 そして言われるがままに、引き入れられ、見事にチームワークを壊さなかった。

 斎藤が、舞子に耳打ちしてきた。

 「なかなか、これっていう人、いないね~。再来年度は会長もいなくなるから、新規メンバーは厳選し たいとこよね」

 舞子もそう思う。

 会長が辞めたらどうなるのだろうか。

 会長が本部を回していたようなものだ。

 次の会長が誰になるかで、かなり雰囲気が変わってしまうはずだ。

 今までの慣例にならえば、現役員の誰かが昇格する・・という形態になる。

 男性が適任であろうから、西田がなると思われる。

 「次の会長、西田さんの可能性高いよね。でも、会長って器じゃないのよね~」

 斎藤の言う通りなのだ。器じゃない。

 酷いと言えば酷いのだが、2年近く一緒にやってきてよくわかった。

 人はいいのだが、仕事ができない。

 人柄のよさでチームワークがなんとか整っているのだが、仕事ができない分、他のメンバーにしわ寄せがくる。

 そんな人が会長になると考えただけで、大変になることは容易に想像できる。

 「でも、西田さん以外にいないでしょう?やっぱり、会長って基本、男性ってイメージありますよ」

 「ううん。前々会長は女性だったよ。女性なら女性で、周りが相当サポートするから、それはそれでよかったよ。会長本人は、いろいろ気苦労あっただろうけどね。一色さん、やってみれば?」

 「それって、冗談ですよね」

 斎藤の話は軽く受け流した。

 会長なんて、あり得ない。

 補佐的な役割でのんびりやるからこそ、ここは居心地がいいのであって、自分が全面に出ることになれば、天国から地獄だ。

 「でもね、一色さんのパートの仕事ぶり、評判だったよ。仕事が早いって。支社長も、さりげない事に気づいてくれるから、すごくいいって言ってたし。これからは、パートなんかじゃなくて、フルタイムでバリバリ働いてもいいんじゃないの?」

 「え?本当?」

 素直にうれしかった。

 自分でも、事務能力は高いほうだと思っていた。

 しかし、それは主観だ。

 こうやって客観的に評価されるというのは、間違ってなかったんだと確信でき、得られる満足感は相当なものだった。

 マズローの承認欲求の再来だ。

 事務仕事のフルタイム勤務、向いているのかもしれない。

 少しがんばれば手に届く目標ができたような気がした。


 新規役員選考は、難航した。

 最終的には5人に絞られ、その一人一人に声をかけることになった。

 舞子のクラスの保護者が1人候補に入っていた。

 この1人だけは、全くのノーマーク人物で、人となりも全くわからなかった。

 斎藤が電話で、役員に推薦されている旨伝えると、意外に好感触だったという。

 後日、三者面談期間で学校へ来る日があるというので、PTA室へ来てもらう手はずになっていた。

 コンコンコン。

 ノックの音がしてドアが開いた。

 「失礼します」

 そう言って入ってきたその人を見て、一同、一瞬固まってしまった。

 キャバ嬢・・?

 派手なメイクに胸元の開いた派手目の白いスーツ。

 髪はゆるめにまとめ、耳には控えめなピアスを付けているが、開いた胸元にはおそらくダイヤだと思われるネックレスをしていた。

 普通に三者面談に来る母の服装とはとても思えなかった。

 「え~っと、城田さん、ですよね?」

 西田が、マジ?この人が?本当に?という顔をしながら、引きつった笑顔を見せながら聞いた。

 「はい。城田です。斎藤さんって方から、役員の話で来てほしいって言われて来たんですけど」

 ハキハキとした口調でそう言って、PTA室をぐるっと見渡すと、

 「別に、役員やってもいいですけど」

 そう言った。


 5人に声をかけたものの、役員を引き受けてくれたのは、城田ただ1人だった。

 まあ、全滅も覚悟していたので、1人でも受けてくれたのは有り難い。

 キャバ嬢にしか見えなかったのだが、実際の職業は意外なものだった。

 外車のセールスレディだった。

 舞子などの庶民にとっては、外車のショールームに行くことなど、皆無といっていい。

 だが、富裕層は気軽にショールームに赴き、気に入ったものがあると、値段など関係なく買うのだ。

 ちょっとした小金持ちか、富裕層なのかは、店に来た瞬間にわかる、と城田は言っていた。

 いかに富裕層を顧客として囲い込むかが、販売成績を左右するのだそうだ。

 どうやら、城田は販売店の中でもトップセールスらしい。

 役員の話で来ていたはずなのに、気づけば、みんな城田の話を夢中になって聞いていた。

 それほど話がおもしろく、魅力的な人だったのだ。

 「キャバ嬢かと思ったわよ~」

 と、斎藤が率直な感想を述べると、城田は気を悪くする様子も無く、ケラケラと笑った。

 「そうでしょう~?以前そうだったし、よく間違われるから大丈夫。私が入ってきた時のみなさんの顔を見れば、わかりますよ」

 そう言いながら、これは、仕事上のコスチュームだと言った。

 仕事を始めた当初は地味なスーツを着ていたが、全然成績が上がらなかった。

 セールスは歩合の仕事なので車が売れなければ食べていけない。

 シングルマザーにとっては死活問題なのだ。

 そこで、稼ぎが足りない分、夜はキャバ嬢として働くようになったという。

 元々才能があったのだろう。

 お水の世界で徐々に人気がでてきた。

 夜の世界に足を突っ込むと、昼の服装も派手になっていき、それと比例するように、なぜか外車も売れまくっていったというのだ。

 あるテレビで、身なりを派手にすると運気が上がると言っていたのを、舞子は思い出した。

 彼女の場合は、服装だけではなく、セールストークも上手かったから車が売れたのだろう。

 「お金持ちって派手な人が好みなのよね。しかも、昼間の商談でも、キャバ嬢みたいにボディタッチなんか交えたら商談率上がるのよ~」

 城田は、今までのいきさつを一通り話し終えてから、本題に戻した。

 「実は、娘が不登校気味なんです。私が学校の事に関わりをもったら、少しは違うかなって思ってるんです。今まで、学校行事をないがしろにしてきたバチが当たったのかなって。PTA役員をやってると、先生とも親密になるんでしょう?」

 誰がどういった経緯で推薦してきたのかはわからないが、その人は、人を見る目があったのだろう。

 舞子ならば、城田の見た目だけで、役員候補からふるい落としていたはずだ。

 「娘さん、大変だね。役員になれば、先生方とも顔見知りになるから、何かと相談しやすくなると思うよ。それより、仕事は大丈夫?聞く限りは忙しそうだけど・・」

 会長が心配して聞いた。

 役員やります、会議には出席できません、では少々困る。

 「大丈夫です。セールスなので、前もって行事の日程がわかっておけば、時間のやり繰りはできます」

 一同ほっとした。

 「じゃあ、来年度の役員、お願いします。3月に入ったら、新旧役員交代の歓送迎会を開きますから参加して下さい」

 正式に新メンバーとして加わってもらうことになった。

 「はい。ありがとうございます。宜しくお願いします」

 城田はそう言って、役員の仕事内容の確認をしてから帰って行った。

 「まともな人でしたね」

 「うん。最初見た時は、しくじったかと思った」

 「うん、うん」

 「私もこれで、心置きなく引退できます」

 斎藤が、ほっと胸をなでおろしたように明るく言った。

 舞子は、再来年の会長は城田がなるような予感がした。

 西田より、きっと適任だ。



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