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階下の庭は青く輝く  作者: 森の 緑


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真理子へ言うべきか

 久しぶりに、佐伯真理子から連絡があった。

 「何してる?年も明けたし、一緒にランチでもどう?」

 真理子とのランチは気軽だ。

 今の重たい気持ちを軽くしてくれるかもしれない。

 待ち合わせは、幼稚園の近くにある居酒屋だった。

 居酒屋とはいっても、昼はランチ営業しており、すべて個室なので、少し出遅れると、満席になることも多い。

 居酒屋らしく、ランチに必ず刺身がつくのも人気の理由かもしれない。

 先に着いた舞子が、個室の席で待っていた。

 5分後、コートを手にかけ、店員に案内されて、真理子が入ってきた。

 「お待たせ~。少し遅れちゃった」

 そう言いながら、舌をペロッと出す。

 こんな事ができてしまう真理子を心底うらやましいと思う。

 舞子には、こんな芸当は到底無理だ。

 席に着くなり、

 「え?何かあった?すごくキレイになってない?痩せた?髪切った?いや、違うね・・」

 矢継ぎ早にそう言いながら頭をひねっている。

 「別に何もないよ。でも、ちょっと忙しくて痩せたかも」

 そう言ったが、自分でもわかっていた。

 痩せたのは事実だが、鏡を見ても自分が変化しているのがわかる。

 ツヤっぽさとでもいうのだろうか。

 自分の気持ちの高ぶりが、そう思わせているのかとも思ったが、真理子からもそう言われると、本当にそうなのだとうれしかった。

 「昨日、旦那としたとか?」

 した、だけで意味がわかってしまう。

 「ないない。ここ最近、全然よ。でも、別にしたいとも思わないよね」

 子供を持ってわかったが、ママ同士集まって夫婦生活について話すことは、珍しくない。 

 20代の学生であれば、誰それと初めて・・といった話はするだろう。

 だが、30前後になると、ママ同士の会話は2人目をどうしたら授かれるか・・にシフトする。

 2人目不妊という話をよく聞くが、それは妊娠しづらいという問題ではなく、圧倒的に回数が減っているからではないかと思っている。

 1人目を授かる時には、夫婦二人、タイミングさえあえばいつでも夜の営みを行うことができる。

 だが、子供が1人生まれると、全く環境が異なってくる。

 夫婦の寝室に子供がいるのだ。

 授乳中はもちろんだが、夜中にいつ起きてくるかもわからない状態で、その行為に及ぶ気にはなれない。

 妻は、子育てに疲れ果て、一刻も早く眠りにつきたい。

 夫ともすれ違う。

 そうやって、回数が減り、妊娠のタイミングを逃すのではなかろうか。

 ママ友の1人は、どうしても2人目が欲しいけれども、夜はつらい。

 なので、子供が別室で昼寝をしている隙をついて寝室へダッシュしてがんばったと言っていた。

 そして、見事2人目を授かった。

 そんな話を夫たち同士でするだろうか。

 男同士の会話に加われないのでわからないが、女同士のようにあけすけではないだろう。

 2人目、3人目まで授かると、女同士で「最後にしたのはいつだっけ」という話になる。

 それくらい、羞恥心というものは皆無になる。

 舞子も例外ではなく、真理子となら、そんな話もできてしまう。

 「そうそう。男って勘違いしてるよね~。妻は、いつでも夫から抱かれるのを待っていると思ってない?別に待ってないし、願い下げだっていうの。もう、そんなのいいから寝かせてくれ~って思うわ、ほんと」

 舞子も理解できる。

 疲れているのに、さらになぜ疲れることをしなければいけないというのだ。

 次の朝も早いというのに・・。

 「それなら、韓流ドラマ見て、イケメン俳優を見てた方が、ずっとときめくわ~」 

 真理子が目の前で両手を組んで、うっとりとした目で、何かを思い出していた。

 「そんなにいいの?韓流?私、『冬のソナタ』も見てないんだけど。どうも、あのドタバタ系というか、服装とか馴染めないんだよね~。だからといって、日本のドラマは全くときめかないよね」

 舞子は、テレビの昼帯で放送される韓流ドラマをちらっと見たことがある。

 だが、名前に馴染みがなく覚えられないし、あのノリにどうもついていけない。

 「だめよ。今は、韓流見てときめかないと。日本のドラマは、刑事ものか、法廷ものか、医療系しかないでしょう?胸がどきどきするドラマが無いのよ」

 そうなのだ。最近の日本のドラマから、ラブストーリー物がことごとく消えている。

 ドラマの製作には、時代背景が大きく関わると聞く。

 舞子たちが大学生の頃は、バブル全盛期を少し過ぎてはいたものの、時代が派手だった分、ドラマもラブストーリー全開だった。

 しかも、好景気の時には、不倫もの、アンハッピーエンドが好まれるのだという。

 確かに、主人公同士が結ばれるドラマはあまり記憶にない。

 そして、必ず主人公は浮気されていた。ベッドシーンも絶対必須だった。

 しかし、不況になると、一変してハッピーエンドが主流になるのだという。

 時代が暗いから、ドラマくらいは明るくといったところだろう。

 同じような話に、好景気だと女性のスカートが短く、不況だと女性のスカートが長くなるというのもある。

 バブル後、スカートが短くなったことはないかもしれない。

 「それにね、韓流ドラマは、爽やかなのよ。いつまでたってもキスまでも行かなくて、モヤモヤするし、その先へも絶対にいかないし。こんな中高生のような恋愛がいいのよ~。これがはまるんだって。絶対見るべき。見ただけで、女性ホルモンが分泌されるから~」

 そう言って、真理子は、韓流ドラマがどれほどいいかを延々と語ってくれた。

 舞子と桜木。

 キスまでのプロセスはどうなのだろうか。

 きっと、真理子に語ったら、卒倒するだろう。

 そして、2月3日の事を話したら、どう言うだろうか。

 止めるのか、後押しするのか。

 舞子が反対の立場であれば、必ず止める。

 冷静に考えてみて・・と言い添えるだろう。

 自分は、一体何をしようとしているのだろうか。

 ここで止めておけば、韓流ドラマのように美しいままで終わる。

 2月3日に桜木と会ったなら・・。

 きっと、バブル時代の安っぽいドラマになってしまうのだろう。

 やはり、真理子には言えなかった。

 止められて、尚、突っ走ることなどできない。

 今のままなら桜木の元へ突っ走れる。


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