忘年会
桜木に会うと、ちょっとうれしい・・という感情のまま、12月のパートの期限が近づいてきた。
今回の短期パートは舞子だけだった。
そして、忘年会の時期と重なることもあり、送別会兼前橋・高崎合同忘年会の開催となった。
約2か月しかいなかった自分にさえも、毎回送別会を開いてくれる。
本当に、いい会社だなーと改めて思う。
今回は高崎駅ビル近くの結婚式場が会場だった。
結婚式場も、今では、式だけではなく、平日はレストランでランチ営業、夜は宴会会場として利用されたりしている。
このご時世、結婚式だけでは生き残れないのだろう。
おしゃれなビュッフェ形式のレストランだった。
最初にいくつかの料理が運ばれてくる。
ジャガイモのオムレツや唐揚げ、大根サラダなどだ。
かなりお腹にたまる料理なので、その後のビュッフェ料理を食べる勢いが落ちる。
それを見越して、最初にそれらを食べさせる魂胆だろう。
舞子は、大好きなスモークサーモンのマリネとローストビーフを食べるために、ほどほどにしておいた。
忘年会シーズンということもあり、会場内はかなり混んでいた。
制限時間2時間なので、とりあえず、料理を確保しようと中央の料理が置かれた長テーブルには人が並んでいた。
前橋支社長が、
「今年も1年無事に過ごすことができました。・・みなさんのおかげです」
というようなあいさつをしていた。
支社長はあいさつが長い。
他のみんなは、さっさと乾杯してビールを飲みたかったので、ちょっとうんざりしているようにも見える。
だが、舞子は、次に話すのが自分だと思うと少し緊張していた。
送別される者として何か話さなければならない。
支社長のあいさつが終わり、舞子の番になった。
「たった2か月しかいないのに、わざわざ送別会を開いてもらってありがとうございます。本当に働きやすくていい職場でした。また、募集する時には声をかけて下さい」
いつも思う。
どうして、こう当たり障りのない言葉しか出てこないのだろうか。
桜木の前では、ハキハキとした出来る女を演出したかったのに。
「では、今年1年お疲れさまでしたー。かんぱーい」
前橋支社長の音頭と共に、ビールジョッキを持ち上げて、お互いにコツンコツンとぶつけあった。
「かんぱーい」
乾いた喉を気持ちいいくらい潤していく。
寒い時期でも関係なく、ビールは美味しい。
ごくごくとジョッキ半分くらい一気に飲み干した。
「あー、美味しいー」
自然に声がでた。
この瞬間、生きててよかった・・と本気で思える。
砂漠で水に飢えた旅人が、やっと水を見つけ、乾ききった喉を潤した時みたいだ。
それぞれ立ち上がって、料理を取りに中央の長テーブルへ向かった。
舞子は、真っ先にスモークサーモンのマリネとローストビーフをお皿に盛った。
パスタやチャーハンも美味しそうに並んでいたけれど、それはスルーする。
余計な物を食べてお腹を膨らませたくはない。
他に食べられそうな物は・・と、テーブルの上をゆっくりと見回していた、その時。
隣に誰かがすっと近づいてくる気配を感じた。
桜木だ。
「一色さん、料理それだけ?私、飲みますって感じだよね」
舞子の皿を覗き込みながら、桜木が笑った。
「そうなんですよ。私、ビールを飲む時は炭水化物を取らないようにしてるんです」
「徹底してるなー。本物ののんべえだね」
「ふふっ。実はそうなんです。お酒好きなんですよー。今日は、徹底して飲みます」
皿を持っていない方の手でガッツポーズをして見せた。
そう。
桜木だと、こんな軽口もすぐに出てくる。自然体で話せる。
なぜだろう。
「桜木さんは、お酒強いんですか?」
「強いよー。いや、昔は強かった、かな?今は、ほどほど」
「ほどほどって言う人ほど、エンドレスで飲み続けるんですよね。ワイン1本くらい平気で空けちゃうんでしょう?」
「うーん、そうだなー。昔は2本くらいは軽くいけたんだけどねー」
「はい、私も昔は2本いけたクチです」
と言って、舞子はにやっと笑って見せた。
舞子は、酒が強い。
お酒に飲まれることはほとんどない。
なので、酒に酔って、男の人にもたれかかるような芸当ができない。
少し飲んだだけなのに、それほどまでに酔える人がうらやましくもあった。
結局、学生の頃の飲み会でも、全く酔えず、いつも介抱に回る役ばかりだった。
酔ったふりも、自分が浅はかな女になったようで、出来なかった。
サラダを何種類か皿に盛りつけて、席に戻ろうとしたところ、
「一色さん、2次会行く?」
桜木が聞いてきた。
「いえ、迷ってます。今日は、斎藤さんが来てないから、ちょっと心細くて・・」
斎藤も参加予定だったが、子供が熱を出してしまい、急きょ欠席となってしまったのだ。
楽しみにしていただけに、とてもがっかりした様子だった。
舞子も、知り合いがいないわけではないが、短期パートの身としては、斎藤がいてくれる方が断然心強い。
なので、いつもは参加している2次会も躊躇していた。
「行こうよ。大丈夫、大丈夫。一色さん主役なんだしさ。帰りは送って行くし。なーんて偉そうに言っても、同じ所に帰るだけなんだけどね」
そう言って、肩をすくめておどけた表情をして見せた。
一緒に帰る?
斉藤がいない今、前橋駅からは2人きりではないか。
舞子の鼓動が少しだけ早くなった。
「わかりました。じゃあ、家までちゃーんと送り届けて下さいね」
舞子もおどけた表情をして見せた。




