第3話 愛娘の危機! 奪われたリリー!!
「敵襲! 配置につけ!」
護衛の若い兵士たちが血相を変えて叫び、最新鋭のM4A1カービンの銃口を一斉に迫りくる森の群れへと向けるのだった。
ダダダダダッ! ダダダダダッ!
静寂な森を引き裂くように、5.56ミリのNATO弾が激しいマズルフラッシュと共に火を吹き発射されたのである。
ゴブリンの鼓膜を破る悲鳴と共に、近代兵器の濃密な弾幕を浴びた群れが次々と倒れていくのだった。
だが、異世界の怪物どもの持つ生命力のタフさは、現代の兵士たちの常識を遥かに凌駕していたのである。
小口径の高速弾を急所に被弾しても即座には死にきれず、緑色の血を噴出させながら狂ったように突進してくる圧倒的な数の暴力だった。
あっという間に安全な距離を詰められ、数に勝るゴブリンたちに兵士達は力任せに組み伏せられていくのである。
高度に訓練された精鋭であるはずの彼らは、剣と牙を持った緑色の濁流に為す術もなく飲み込まれてしまったのだった。
一人、また一人と、生きたまま肉を食いちぎられる断末魔の悲鳴となり、彼らの命は無惨に消えていったのである。
マッドは愛するリリーを抱きかかえ、きしむ階段を蹴り上げて二階の子供部屋へと駆け上がった。
「リリー、ここに隠れていなさい。ベッドの下だ。いいか、パパが呼ぶまで絶対に出てきちゃいけないぞ」
「パパ……怖いよ、行かないで!」
震えるリリーの小さな肩を、マッドは無骨で大きな手で優しく抱き包み込んだ。
「大丈夫だ。パパがちょっと、外の『ゴミ掃除』をしてくるだけだ。すぐに終わる」
愛娘に微笑みかけると、マッドは部屋を飛び出し、今度は地下室へと続く階段を重い足取りで駆け下りた。
最深部に鎮座する、重厚な鋼鉄製の扉を開け放つ。
そこには、彼が平和な日常と引き換えに封印していた血塗られた「過去」が、冷たい金属光沢を放って整然と並んでいた。
彼は壁面のガンラックから、鈍い銀色に輝く巨大な鉄の塊を迷いなく掴み取った。
スミス&ウェッソンM29、44口径マグナム。
「待たせたな、相棒。……こいつは分厚い装甲を持つ『象』すらも一撃で殺せる特注品だ」
マッドは歴戦の慣れた手つきでシリンダーを振り出し、親指ほどの巨大な質量を持つ特製弾丸――エレファントロード徹甲弾を次々と装填していく。
さらに、壁に掛けられていた近接戦闘の悪魔、フランキ・スパス12セミオートマチック・ショットガンを分厚い肩に担ぎ上げた。
予備の弾帯には、極めて高い殺傷性を誇る12番ゲージのバックショット(散弾)を隙間なくセットし、胸の前にたすき掛けにする。
戦闘準備を完了させたマッドは、一階へ上がり、我が家の玄関扉を蝶番ごと蹴り破って、死の匂いが充満する庭の戦場へと躍り出た。
「地獄の釜の底へ落ちる前に、俺のありがたい『説教』を聞かせてやる!」
ドォォォォン!!
マッドの放った44マグナムが、手砲と呼ぶにふさわしい轟音とオレンジ色の火炎を噴き上げた。
象撃ち用の規格外の一発は、先頭を突撃してきたゴブリンの胸部を容易く貫通し、その背後に密集していたゴブリンどもを巻き込んで、まとめて原型を留めない肉のミンチへと変えた。
「やはり、拳銃はマグナムに限るぜ」
独りごちるマッドの言葉に呼応するように、44マグナムの凶悪な発砲音が連続して響き渡り、庭にはゴブリンのミンチが大量生産されていく。
しかし、強大な破壊力と引き換えに装弾数の少ないマグナムが弾切れを起こすと、生き残ったゴブリンの顔に醜悪な嘲笑が浮かんだ。
だが、マッドは慌てることなく、背中のスパス12を滑るように引き抜き、その巨大な銃口をゴブリンの群れへと突きつけた。
「ギャギャギャゥ?!」
ドシュッ!
ドシュッ!
鈍く乾いた破裂音と共に、本来は巨大なヒグマを仕留めるためのバックショット弾が、至近距離で容赦なく炸裂する。
一発につき九個の鉛玉を内包する散弾の雨が、ゴブリンの緑色の肌をズタズタに引き裂き、駐車場の生ゴミを辺り一面にぶちまけたような凄惨な光景が広がった。
散弾の直撃を受けた怪物の胴体の一部が粉微塵に吹き飛び、毒々しい赤緑色の血が庭の青草をドス黒く染め上げる。
その血も凍るような恐怖の状況下においても、理性を完全に喪失して暴徒と化した群れは止まらない。
マッドがスパス12のチューブマガジンに弾をリロードする一瞬の隙を突き、一体のゴブリンが彼の太ももに噛みつこうと牙を剥いて飛びかかってきた。
「目障りだ、失せろ!」
マッドはショットガンの熱を持った銃身を鋼鉄の棍棒のように振り回し、迫りくるゴブリンの首筋へと、メジャーリーガーの如きフルスイングを叩き込んだ。
ゴブリンの首がベキリとひしゃげて砕け散り、耐えきれなくなった頭部と胴体が完全に分離して空中へと飛び散った。
間髪入れず、背後の死角から襲いかかってきた別の敵の首を、マッドは空いた左手で鷲掴みにする。
強靱な指の力が細い首の骨に深く食い込み、マッドはそのまま近くに生える太い立ち木に向かって、ゴブリンの体を力任せに叩きつけた。
ベチャッ!
太い幹に激突したゴブリンの背骨が粉々に砕け散り、破裂した内臓が口から勢いよく噴き出した。
「まだまだ弾は足りねぇぞ! 俺の手のひらで狂ったように踊れよ、クソ野郎ども!」
マッドの獣のような咆哮と共に、再装填を終えた44マグナムが死のデスマーチのリズムを刻み始める。
ドォォォォン!
ドォォォォン!
規格外の弾丸が着弾するたび、ゴブリンの肉体の一部が文字通りミンチのごとく「消失」していく。
腕が千切れ飛び、脚が根元から吹き飛び、細い胴体には向こうの景色が見えるほどの巨大な風穴が開いた。
やがて再び弾切れを起こしたマグナムをホルスターに叩き込むと、マッドは自身の最大の武器である自慢の「拳」を岩石のように固く握りしめた。
大地を蹴って一歩踏み込み、迫りくるゴブリンの鳩尾に向かって、全体重を乗せた拳を鋭く突き刺す。
グシャッ!!
マッドの丸太のような巨大な拳は、ゴブリンの貧弱な腹の肉を軽々と突き破り、背中側へと背骨ごと突き抜けた。
彼はその腕を引き抜くことなく、絶命した死体をそのまま分厚い肉の盾として利用し、新たなゴブリンの群れの中央へと戦車のように突っ込んでいく。
「死にたい奴は前に出ろ!まとめて地獄のあの世へ送ってやる!」
マッドは肉の盾を放り捨てると、今度は別の死体の足を両手で掴み、プロレスラーのジャイアントスイングの要領で周囲に激しく振り回した。
遠心力が乗った死体の塊は、迫りくるゴブリンたちをボウリングのピンのように次々と薙ぎ払い、衝突の凄まじい衝撃によって怪物の四肢が不自然にねじ曲がり、生きたまま単なる肉の塊へと変わっていった。
地面は夥しい量の緑色の返り血でぬかるみ、マッドのブーツが踏みつけるたびに「グチャリ」と吐き気を催すような嫌な音が鳴り響く。
美しかった山小屋の庭はもはや戦場ではなく、大量の肉をミンチにするための巨大な「肉の処理場」と化していた。
最後に残された数体のゴブリンが、仲間のあまりにも無惨な成れの果てを目の当たりにし、ついに本能的な恐怖に屈して腰を抜かした。
マッドは返り血を浴びて赤緑色に染まった分厚いゴールドチェーンをジャラリと鳴らしながら歩み寄り、無造作に奴らの頭部を容赦なく蹴り飛ばす。
サッカーボールのように勢いよく飛んでいったゴブリンの頭部は、庭の石壁に激突して弾け飛び、醜い赤い花を鮮やかに咲かせた。
「……ふぅ、ひどく汚ぇ花だ……」
凄惨な戦いが終わりを迎えると、庭には物言わぬ緑色の死体によって築き上げられた、不気味な小山が出来上がっていた。
「これで、ゴミ野郎共の不快な清掃は完了だ」
マッドは荒くなった息を整えながら、血塗れになった手で玄関の扉を開け、再び家の中へと戻っていく。
「リリー!
もう安全だ、大丈夫だぞ、出ておいで!」
マッドは血のついたブーツのまま、二階の子供部屋へと続く階段を三段飛ばしで駆け上がった。
だが、いくら待っても愛娘からの返事はない。
「リリー?」
静まり返った廊下を進み、開け放たれた子供部屋のドアをくぐる。
そこには、ベッドの下で毛布に包まって震えているはずの、愛する娘の姿はなかった。
代わりに、部屋の奥にある大きな窓枠が無惨に破壊され、冷たい風が吹き込んでいる。
血の気が引くのを感じながら、マッドは窓際へと駆け寄り、外の暗い森を眼下に見下ろした。
山麓の街道のほうへ目を凝らすと、そこに見たこともない異形の化け物の姿があった。
それは、漆黒の毛並みに覆われ、馬のような骨格をした巨大な魔獣だった。
そして、その獣の背中には、右目の潰れたあの憎きゴブリンのリーダーが、気を失ったリリーを小脇に抱えて跨っていたのである。
「リリーーーッ!!」
マッドの獣のような咆哮が、夜の静寂が近づく森中に響き渡った。
ゴブリンは勝利を確信したように卑劣な笑みを浮かべると、魔獣の腹を荒々しく蹴り飛ばした。
魔獣は稲妻のような恐るべき速さで駆け出し、リリーを乗せたまま、あの忌まわしい紫色のゲートの奥底へと走り去っていく。
「なぜ、リリーを?……あのクソ野郎」
マッドの顔から、父親としての温かい人間らしい感情がすべて綺麗に消え失せた。
彼の分厚い手の中で、44マグナムの頑強な銃身が、握力だけでミシミシと悲鳴を上げるほど強く握りしめられる。
マッドの脳内では、AC/DCの重厚で暴力的なギターリフが、これまでにないほどの爆発的な大音量で鳴り響き始めていた。
「絶対に後悔させてやる……。死ぬことすら生温い、地獄よりもひどい目に遭わせてやる」
マッドはテーブルに置かれたトラックのキーを乱暴に掴み取ると、庭に転がっていた死んだ兵士のM4A1カービンを拾い上げ、怒りの炎を纏いながら愛車のシボレーへと向かっていくのであった。




