表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の死神と呼ばれた最強のパパ、さらわれた娘の救助へ異世界に殴り込む ~拳と鉛玉でドラゴンもエイリアンもまとめてブッ殺す~  作者: els


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/36

第24話 シャドウクロウの死。勇敢な狩人マキシマム

 重厚な石の扉が、マッドのブーツによって蹴り飛ばされた。


 ほこりが舞い、扉の向こう側に広がる巨大な空間が、ララのともす魔法の光によってゆっくりと浮かび上がる。

 「龍の穴」の最深部近くに位置する龍の祭壇さいだん

 そこは、今まで通り抜けてきた遺跡とは格の違う、静謐せいひつでかつ圧倒的な魔力の密度に満ちた場所だった。


「リリー! 無事かッ!」


 マッドが声を張り上げ、祭壇の中央へと駆け寄る。

 だが、返ってくるのは冷たい残響だけだった。


「……いない。どういうことですの、リリーの魔力反応は確かにここにあったはずですわ」

 インディが震える手で眼鏡を直し、周囲を見回した。

 バイザー越しに空間を解析していたアーサーも、その場で立ち尽くした。


「……微弱な反応はある。だが、魔力反応が移動している。……マッド、上だ! 奥の上を見ろ!」


 アーサーの叫びに、ヴィクターがポーチから高輝度こうきどケミカルライトをパキッと折り、広場に投げ込む。

 化学反応を起こした緑色の光が、空間の暗がりを鮮烈に照らし出した。

 祭壇のさらに奥、深層へと続く巨大な扉。その上部の岩盤が酸でドロドロに溶かされ、暗く巨大な縦穴がポッカリと空いている。

 そこを、信じられないほどの巨体が、音もなくいずり上がっていくのが見えた。


「……さっきのプレトリアン級か?」

 ヴィクターの声が戦慄せんりつに震える。


 その影は、体長五メートルを超える銀蝕虫ローチ・プレトリアン級の成体だった。

 そして、その鋭利な前脚には、白いまゆのようなかたまりに包まれ、ぐったりと横たわるリリーの姿が、まるでまわしき神への供物くもつのように抱えられていたのである。


「追うぞ! あのデカブツがリリーを連れていやがる!」

 マキシマムが、即席の甲殻装備をきしませて駆け出そうとする。


「待て! しかしあの扉はパルスライフルでは破壊できんぞ」

 アーサーが制止する。この先へ進むには重厚な扉を破壊するか、プレトリアン級が通り抜けた穴を使うしかない。しかしその穴の位置は十メートル以上の高さがあり、垂直の壁を登る手段はない。


「クソッ! 手持ちの武器じゃこの扉は破壊出来そうにねぇぜ」


 マッドたちがリリーを目前にして足止めを食らい、焦燥しょうそうられている中、背後から不気味な「音」が響いた。


「……ヒ、ヒヒ。待てよ人間ども……カハッ……」


 湿った、それでいて耳障みみざわりな笑い声。

 一行が振り返ると、祭壇の背後にそびえ立つ巨大な石柱に、何かが「はりつけ」にされていたのである。


「……なっ!? 片目のゴブリン……!?」


 ララが短く悲鳴を上げ、杖を構えたまま後退あとずさりする。

 かつてリリーをさらい、マッドたちを地獄へ突き落としたあの狡猾こうかつな悪党が、そこにいた。


 だが、その姿はあまりに凄惨せいさんだった。

 強固な粘液によって石柱へ磔にされ、全身の骨を徹底的に砕かれたかのように力なく垂れ下がっている。かつて狡猾な光を放っていた唯一の眼球は、ドロドロとした体液にまみれ、死を目前にした者のそれへと変わっていた。


「ケッケッケ……人間、オソカッタ……な……」


 磔にされた片目のゴブリンが、血反吐ちへどを吐きながら、一行を嘲笑あざわらうようにみにくく口を歪めた。

 リリーを救うために血みどろになって辿たどり着いたその場所は、彼女を救い出すための到達点などではなく、ただの「通過点」に過ぎなかったのだ。


「……そんな、あまりにおぞましい……」


 ララが声を震わせ、杖を握る手に力を込めた。インディもまた、磔にされたゴブリンの無残な姿から目をらし、数歩後ずさる。

 かつて自分たちを追い詰め、策をろうしてリリーを奪った強敵の、見るにえないれの果て。

 その四肢ししは無惨にじ曲げられ、まるで古代の残酷な処刑場のような光景が祭壇を支配していた。


「ヴィクター、周囲を索敵さくてきしろ。わなかもしれない」


 マッドが極めて低く、冷徹な声で命じる。ヴィクターはレミントンM700を低く構え、祭壇の影や天井のはりをひとつひとつ、スコープでめるように確認していく。


「……マッド、こいつは仕置しおきだ」

 ヴィクターが吐き捨てるように言った。

「見てみろ、この傷。ローチにやられたもんじゃない。もっと鋭利で、正確で……冷徹な刃物の跡だ。……シャドウ・クロウの仕業に違いねえ」


 アーサーがバイザーの解析モードを切り替え、柱に刻まれた傷跡とゴブリンの裂傷を照合する。

「……ああ。彼らにとって、この神聖な祭壇を汚す不浄ふじょうな存在は、狩りの対象ですらない『害獣』に過ぎない。……奴らはこのゴブリンがリリーを利用して何かをたくらんでいたことを知り、その誇りを汚されたことに激怒したんだ」


 その時、ゴブリンが再び、のどの奥で乾いた笑い声を漏らした。


「……オ、オレ……ハ……ただの……前座……。本当の……地獄ハ……下ダ……」


 血まみれの独白。ゴブリンの濁った視線は、プレトリアン級がリリーを連れ去った巨大な扉へと向けられていた。


「私、この扉に刻まれている紋章もんしょうに見覚えがあるわ」

 ララは顔面蒼白がんめんそうはくで震えだした。


「ララ、強気のお前がどうしたんだ。この先に何があるというのだ」

 ヴィクターが、おびえる彼女を落ち着かせるように優しく問いかける。


「ドラゴンの間よ……この先はドラゴンとの謁見えっけんの間。龍の穴の本当の最深部。真の強者のみが入れる場所なのよ」


「ケッケッケ……我ら……魔獣の頂点……全てを滅ぼす」


「黙ってろ。吐きたいことがあるなら、後でじっくり聞いてやる」

 マッドが冷酷に言い放ち、片目のゴブリンを完全に無視して扉へと歩み寄り、パワードスーツの出力を全開にする。


「待ってください、マッド様! ここから先は危険すぎますわ! 銀蝕虫ローチのみならば勝てる可能性はございます。しかし、ドラゴンを一緒に相手にするのは無謀むぼうですわ!」

 インディが悲痛な声で叫ぶが、マッドの足は止まらない。


 だが、マッドが重厚な扉に鋼鉄の拳を叩き込もうとしたその時、祭壇の影……光の届かぬ死角から、かすかな熱反応が検出された。


「……待て。まだ『掃除』しきれていないゴミが残っているようだぜ」


 マキシマムが、背中の甲殻装備を軋ませながら、右手の銀蝕虫の剣を握り直した。

 影。そこには、光学迷彩の揺らぎさえ維持できなくなった、一体の傷ついた異形いぎょうの者が潜んでいた。


「……いたぞ。不可視迷彩が死にかけてやがる」


 マキシマムが油断なく異形の者へ一歩踏み出すと、完全に光学迷彩が解除され、一体のシャドウ・クロウが姿を現した。


 だが、そこに「最強の狩人」の威厳いげんはなかった。

 全身の装甲はひび割れ、プレトリアン級の強酸を浴びたのか、肉体の一部からは腐食した体液がしたたり落ちている。自慢のプラズマ・キャノンも中ほどからへし折れ、その姿は死を待つだけの敗残兵そのものだった。


「こいつ……殺すのか?」

 ヴィクターがレミントンの銃口を、その眉間みけんへと固定する。引き金にかけられた指には、迷いも慈悲じひもない。


 ララとインディは、その異形のおぞましい負傷に息をみ、さらに数歩距離を置く。彼女たちにとって、この祭壇の間で起きていることは、もはや理解の範疇はんちゅうを超えた凄惨な儀式の残骸ざんがいにしか見えなかった。


「……マッド、どうする。放っておいても長くは持たねえだろうが、後腐あとくされなく仕留めておくか?」

 マキシマムが問いかけるが、マッドの視線はシャドウ・クロウを通り越し、リリーが連れ去られたドラゴンの間へと向けられる。


「……構うな。先を急ごう」

 マッドの声は、硬く、乾いていた。

「弾の無駄だ。それに、こいつはもう戦士じゃない。ただの敗者だ」


 マッドは背を向け、一歩を踏み出す。

 だが、その背中を追おうとしたマキシマムの前に、地を這うような低い声が響いた。


「……待……テ……」


 傷ついたシャドウ・クロウが、震える腕を伸ばし、マキシマムを見上げた。正確には、マキシマムが身にまとっている「プレトリアン級の甲殻」を、その傷付いた瞳が見つめていたのである。


「……ソレハ……我ラガ……獲物ノ……殻……」


「カチ、カチ……」というクリック音が、今度は喉の奥から血を絞り出すような音となって響く。


「……戦士……カ……? 貴様ハ……真ノ……戦士ナノカ……?」


 その問いは、マキシマムが手にした近代兵器に向けられたものではなかった。

 己の肉体と、狩り取った獲物の皮を纏うという、彼らシャドウ・クロウが最も重んじる「狩人の法」に適応した者への、最後の確認だった。


 重苦しい静寂が祭壇を支配する中、マキシマムは一歩、また一歩と傷ついたシャドウ・クロウの前へと歩み寄った。


 パワードスーツを溶かされ、剥き出しの筋躯きんくに銀蝕虫の無骨な甲殻をくくり付けたその姿。それは高度な文明を誇る兵士のそれではなく、この「龍の穴」という死地に適応し、獲物の骨肉をらって生き延びる、原初げんしょの「狩人」の姿そのものだった。


「……戦士か、だと?」

 マキシマムは、手にした即席の甲殻の剣を無造作に肩にかつぎ、鼻を鳴らした。

「ああ、そうだ。地獄の底から這い上がってきた、ただの戦士だ」


 その答えを聞いた瞬間、シャドウ・クロウの表情に変化がみられた。それは驚きでも敵意でもなく、己の最期に見出した「同類」への、深い敬意のあかしだった。


「……良キ……回答ナリ……」


 シャドウ・クロウは、震える右腕を自らの腰へと伸ばした。そこには、彼らの一族でも高位の者にしか許されない、魔銀ミスリルで鍛え上げられた一振りの長剣が収まっていた。


「……ヤツヲ……殺セ……。我ラノ……聖域ヲ……汚ス……不浄ナル……プレトリアンヲ……」


 ガチリ、と金属のみ合う音がした。

 シャドウ・クロウは最期の力を振り絞り、その重厚な長剣をさやごと外し、マキシマムへと差し出した。


「……受ケ……取レ……。戦士ヨ……」


 マキシマムは黙ってその剣を受け取った。

 手にした瞬間、ずしりとくる重み。そして、パワードスーツのセンサーを介さずとも伝わってくる、背筋を凍らせるような鋭利な魔力の波動。それは、今のマキシマムの「野性」に最も相応ふさわしい、異界の工匠こうしょうが打ち出した最高傑作だった。


「……受け取ったぜ。あんたのかたき、俺たちがキッチリ取ってやる」


 そして、シャドウ・クロウはドラゴンの間へと続く扉を指さした。その先には、剣の形をしたレリーフが刻まれていたのだ。


「これは鍵なのか?」


 マキシマムが剣を抜き放つと、青白い残光が回廊の闇を切り裂いた。

 その光を確認したかのように、シャドウ・クロウは「カチ、カチ……」と満足げな音を一度だけ漏らし、そのまま事切れた。


「……マキシマム、そいつは死んだのか?」

 ヴィクターが呆然ぼうぜんと呟く。


「ああ……『プレデター』からの最後の贈り物だ。悪くねえ気分だぜ」


 マキシマムは新調した長剣を正眼せいがんに構え、その切っ先を扉へと向けた。

 種族も、世界も、技術体系も違う。だが、戦場で散る者が、生き残る者にたくす「意志」の重さは、他の世界でも何ら変わりはなかった。


「……行くぞ。トカゲの旦那に、最高のハントを見せてやらなきゃなんねえからな」


 一行の視線は、再びドラゴンの間へ続く扉へと向けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ