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戦場の死神と呼ばれた最強のパパ、さらわれた娘の救助へ異世界に殴り込む ~拳と鉛玉でドラゴンもエイリアンもまとめてブッ殺す~  作者: els


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第23話 龍の穴バトル!宇宙外生命体VSローチ!?


 天井を見上げれば、そこには地獄の深淵しんえんを煮詰めたような、おぞましい光景が広がっていた。


 古代遺跡の滑らかな石材を埋め尽くすようにうごめいていたのは、これまで一行が目にしてきた脆弱な偵察種ではない。戦車の複合装甲を思わせる銀色の外殻をまとった「兵隊ソルジャー」級。戦うためだけに特化した銀蝕虫ローチの精鋭部隊であった。


 だが、その怪物たちが今は何故か、天井にへばりついたまま生理的な嫌悪感を伴う奇声を上げ、極限のパニックに陥っていたのである。


 次の瞬間、一行の理解を遥かに凌駕りょうがする速度で、漆黒の闇を蒼白い閃光せんこうが走り抜けた。


 シュンッ!!


「なにっ!?」


 マキシマムの鼻先をかすめた超高熱の熱線が、壁に張り付いていた巨大ローチの頭部を一撃で爆散させたのだ。焼けたキチンの臭いと緑色の体液が雨のように降り注ぐ。続けざまに放たれる蒼炎は、目に見えぬ「何か」が、圧倒的な上位者として行う冷徹なまでの「間引き」であった。


光学迷彩ステルスか……!」


 アーサーが気密ヘルメットの中で歯噛はがみしながら叫んだ。パワードスーツのバイザーが、陽炎かげろうのように揺らめく複数の人影を捉える。彼らは重力を無視して壁を跳ね回り、目にも止まらぬ速さでローチの群れを「解体」していた。


「別の何かがいやがる……アーサー、何か隠してねえか?」


 ヴィクターが我に返り、愛銃を構えたまま鋭く問いかけた。その視線の先にある壁画には、人間の首やドラゴンの首を掲げる「鎧を纏った人型の何か」に人々がひれ伏す様子が刻まれていた。


「……君たち、落ち着いて聞いてくれ。壁の彫刻を見てみろ。これは奴らの『歴史』だ」


 アーサーの声は、隠しきれない戦慄せんりつを伴って震えていた。


「一九八七年、中米のジャングルで友軍が遭遇した『透明な悪魔』の事件……。軍が極秘裏に回収した記録には、奴らが『新しい猟場』を視察しに来た際の記録が残されている。マキシマム、お前たちが映画だと思っていたものは、軍が事実を隠蔽するために流布させた、あるいは事実をモデルにしたフィクションに過ぎないんだ」


「……何だって? シュワルツェネッガーの話は、ただの作り話じゃなかったのかよ!」


 マキシマムの驚愕を余所に、アーサーは冷酷な真実を突きつける。


「軍は奴らを、高潔にして残虐な狩人『シャドウ・クロウ』と呼称している。奴らは数千年前から、こうして星々を巡り、強大な獲物を狩ることで戦士としての資質を証明する『成人の儀式』を行っているんだよ。今の俺たちは、奴らの猟場に紛れ込んだ『背景の一部』に過ぎない」


 インディもまた、自身の知識を総動員してその言葉を裏付けた。


「私も聞いたことがありますわ……。空飛ぶ船で降り立つ異形の者たち。彼らには決して干渉してはならないという、この世界の古い言い伝えを」


 遺跡の空気が凍りつく。自分たちが立ち向かおうとしているのは、国家や軍隊ではなく、宇宙からやってきた絶対的なハンター。そしてここは、数千年前から続く彼らの神聖な「猟場」なのだ。


「猟場だぁ? 笑わせんじゃねえよ」


 だが、マッドが静かに立ち上がり、ナックルガードをガチリと鳴らした。その瞳には絶望など微塵もなく、ただ濁りのない怒りだけが宿っている。


「トカゲに害虫、宇宙人だろうが、俺たちの知ったことか。俺の邪魔をする野郎は、どこのどいつだろうが同じようにブチ殺すだけだ。行くぞ、アーサー。御託はそれでおしまいだ」


 マッドは「見えない死神」の気配を肌で感じながらも、リリーの待つ深部へと、重厚な一歩を踏み出したのである。


・・・・


 「……来るぞ! 散開しろッ!」


 ヴィクターの鋭い警告が、遺跡の回廊に重々しく響き渡った。

 下層から響いていた、地響きのような爆発音が止んだ直後――。今度は無数の硬質な爪が石床を猛烈な勢いで掻きむしる、生理的な嫌悪感を誘う音が階段の下からせり上がってきたのである。


「ギ、ギギギギィィィッ!!」


 暗闇を物理的に押し広げるようにして姿を現したのは、今まで一行が街や森で見かけてきたワーカー級とは比較にならない、禍々《まがまが》しい外殻を纏った集団であった。

 直立すれば人間と同等の高さ。銀色に鈍く光る外殻は戦車の複合装甲を思わせる厚みを持ち、前脚は肉を裂くためだけに特化した、鋭利な「鎌」へと変貌している。


 銀蝕虫ローチ・ソルジャー級。


「な、何なのよあいつら!? さっき天井に張り付いてた奴なの!? 近くで見るとこんな気持ち悪い虫だったの!」


 ララが悲鳴に近い声を上げ、反射的に杖を突き出した。

「嫌、来ないで! 『ファイアボール』!!」


 放たれた火球が、先頭を走るソルジャー級の胸部に直撃する。だが、通常のローチなら跡形もなく消し飛ぶはずの威力にもかかわらず、その怪物はひるむことなく、焦げた殻を撒き散らしながら突進を続けたのである。


「嘘でしょ……直撃したのにッ!?」


「下がって、ララ! 『ウィンドカッター』!!」


 インディが冷静さを欠きながらも、魔力を凝縮した真空の刃を放つ。多足の脚を数本切り裂き、怪物のバランスを無理やり崩すが、後続の群れはその死体を平然と踏み越えて次々と溢れ出してきた。


「インディ、気を付けろ! あいつらの体液は俺たちの装甲を容易に溶かすぞ!」


 アーサーの警告通り、中には甲殻を破壊され、緑色の強酸体液をき散らしながら狭い通路を突進してくる個体が見えた。


「……こいつら、パニックを起こしてやがる!」


 マキシマムがM60の銃口を水平に据え、丸太のような腕でグリップを固定した。

「下のシャドウ・クロウに追い詰められて、逃げ場を失ってこっちに雪崩なだれ込んできたんだ! 野郎ども、気合い入れろ! デカいゴキブリ退治の時間だッ!!」


 ドガガガガガガガガッ!!


 アーサーのパルスライフルが鋭い発射音を刻み、マキシマムの7.62mm弾が猛烈な連射で狭い回廊を弾丸の壁で封鎖する。火花が散り、緑色の体液が壁に飛び散り、硝煙しょうえんの臭いが視界を白く染めていく。

 重火力と未来兵器の弾幕が、ようやく怪物の前進を食い止めたその時だった。


「ギ、ギギギギィィィッ!!」


 暗闇が爆発するように弾け、ソルジャー級とは比較にならない巨体が姿を現した。

 体長三メートル。重戦車のような厚い銀色の甲殻に覆われた、銀蝕虫ローチ・プレトリアン級(レベル4)。それも、完全な成体となった複数が、回廊を完全に塞いでいたのである。


「……オラァッ!!」


 マキシマムが咆哮ほうこうし、プレトリアン級の頭部へタクティカル・ソードを叩きつける。だが、渾身こんしんの一撃は硬質な甲殻にむなしく弾かれ、凄まじい反動が彼の腕を襲った。


かてぇな、このデカブツ……ッ!」


 プレトリアン級が耳を裂くような高音を立てて口蓋こうがいを開くと、そこから粘り気のある緑色の体液が勢いよく噴射されたのである。


 プレトリアン級の口蓋から放たれたのは、単なる毒液ではなかった。大気を焼き、石床を瞬時に泡立たせるほどの超濃縮強酸――。


 「キャアァァッ!?」


 その飛沫が、無防備なインディの細い身体を飲み込もうとしたその瞬間、マキシマムの巨体が弾丸のような速さで割り込んだ。


「危ねぇッ!!」


 ドシュウッ!! という、肉が焼ける音とも金属が腐食する音ともつかぬ、おぞましい音が回廊に響き渡る。


 インディをその太い腕の中に抱き込み、背中で全てを受け止めたマキシマム。直後、彼の背中に装着されていたパワードスーツの装甲が、まるで熱した飴細工のようにドロドロと崩れ落ちていった。


「ぐ、あああああああッ!!」


 アーサーが心血を注いでメンテナンスを施し、耐腐食コーティングを幾重いくえにも重ねたはずの最新鋭装甲が、この世界の「女王」を守る近衛兵プレトリアンの体液の前では、ただの薄紙も同然であった。酸は装甲の継ぎ目から容赦なく侵入し、マキシマムのき出しの広背筋を無残にむしばんでいく。


「マキシマム様! ああ、なんてこと……! 『ハイ・ヒール』!!」


 インディが泣き叫ぶようにして魔導杖まどうづえを突き出した。清冽せいれつな光の粒子がマキシマムを包み込み、溶け崩れかけた肉体と神経を、高位魔法の力で強引に繋ぎ止めていく。


 その傍らで、マッドとヴィクターが残りのプレトリアン級に死力を尽くして食らいついていたが、深手を負わされた魔獣共は、獲物の異常なまでの執念と背後に迫る狩人の気配に恐れをなしたか、さらに深い下層へと逃げ去っていった。


 回廊にようやく、耳が痛くなるほどの重苦しい静寂が戻る。


「……ハァ、ハァ……。クソッタレが、パワードスーツがボロボロだぜ……」


 マキシマムが膝をつき、強酸によっていびつに変形し、もはや機能不全に陥った装甲を、自ら力任せにぎ取った。ベリベリと金属が引き剥がされる音が、静かな回廊に空虚に響く。


「……アーサー。こんな無様な姿じゃ、俺はもう、戦えねえか?」


 血と脂汗あぶらあせぬぐいながら、マキシマムが自嘲気味に笑った。アーサーはあまりにも凄惨せいさんなマキシマムの傷口と、変わり果てたスーツの残骸を前に、言葉をなくして立ち尽くしていた。


 だが、マッドの一歩が、その絶望を切り裂いた。


「……バカを言うな、マキシマム」


 マッドが歩み寄り、マキシマムの厚い肩を、岩のような拳で力強くつかんだ。


「スーツが溶けようが、その下の筋肉は無事だろうが。スーツはただの鉄屑だ。だが、その下の筋肉は本物だろうが。筋肉は、決してあるじを裏切らねえ。そうだろ?」


 ニヤリと不敵に笑うマッドの言葉に、マキシマムの瞳に宿っていた暗雲が晴れ、再び戦士の猛火が灯った。


「……ハッ。違いねえ。……筋肉は裏切らねえ。これだけは、異世界に来ようが宇宙人が来ようが、変わらねえ真理だぜ」


 マキシマムは、インディの魔法によってふさがったばかりの、たくましくも無数の戦痕が刻まれた裸身を晒したまま、ゆっくりと立ち上がったのである。


「……インディ、すまねぇ。だが、丸腰まるごしじゃこの先のトカゲどもには勝てねえぜ」


 重苦おもくるしい沈黙が支配する遺跡の回廊で、マキシマムが自身のき出しの腕を見つめてつぶやいた。その視線の先、インディがプレトリアン級の無残な死骸しがいをじっと見つめ、ふと熱を帯びた声で提案した。


「……マキシマム様。この虫のから……あんなにかたく、わたくしたちの武器をはじき返したのであれば、これを新たなよろいにできませんの……?」


 その言葉は、技術者であるアーサーの脳裏に電光石火でんこうせっかひらめきを与えた。


「……名案だ。脳漿のうしょうコーティングの応用だな。……マキシマム、動くんじゃないぞ」


 アーサーは即座に、パワードスーツのホルダーから未来の切断兵器であるレーザーナイフを抜き放った。

 プレトリアン級の甲殻は、特殊合金に匹敵する強度と優れた耐酸性たいさんせいを有している。アーサーの手元は、精密機械を組み上げる時のような冷徹れいてつな正確さと、窮地きうちおちいった戦友を想う熱い情念じょうねんを帯びて、激しく火花を散らしたのである。


「……よし、整ったぞ。マキシマム、手を貸せ」


 アーサーが切り出したのは、プレトリアン級の胸部からぎ取った、銀色に鈍く輝く巨大な「逆三角形ぎゃくさんかっけい」の甲殻であった。彼はそれを、パワードスーツの辛うじて生きていた動力ジョイントに無理やり結合させ、マキシマムの胸と背中を保護する重装甲じゅうそうこうへと作り変えていった。


「さらに、こいつが仕上げだ」


 アーサーが手渡したのは、プレトリアン級の鋭利な前脚の爪――その基部を魔獣の皮で幾重いくえにも巻き、即席の「大剣たいけん」へと仕立てた代物しろものであった。


「……へっ。悪くねえ重さだ。パワードスーツよりも、今の俺の筋肉には、こいつの方がしっくりくるぜ」


 マキシマムはインディの魔法でえたばかりの、たくましくも無数の傷跡きずあとが刻まれた裸身らしんに、銀色に輝く魔獣の殻をまとって立ち上がった。その姿は、かつての未来兵士としての機能美を完全に失っていたが、代わりにこの世界のことわりに適応した「蛮族ばんぞくの戦士」のような、圧倒的な威圧感いあつかんを放っていたのである。


「……マッド。パワードスーツを失っちまった俺じゃ、もうこれまで通りには戦えねえが……バックアップは任せてくれ」


 マキシマムは自嘲じちょう気味に笑ったが、その肩に置かれたマッドのこぶしは、岩のように固く、揺るぎなかった。


「……馬鹿を言うな。スーツはただの鉄屑てつくずだ。だが、その下の筋肉は本物だと言っただろう」


「……ハッ。違いねえ。……死ぬまで現役げんえきだッ!」


 マキシマムが咆哮ほうこうし、即席の「殻の大剣」を豪快に振り回す。その凄まじい風切かぜきり音は、先ほどまでの精密なタクティカル・ソードとは比較にならないほどの、原始的げんしてきで破壊的な暴力をはらんでいた。


「……さて、幽霊共ゆうれいども見物料けんぶつりょうは高くつくぜ?」


 マッドが、依然として闇の中から自分たちを観察しているシャドウ・クロウの気配に向けて、不敵に吐き捨てた。


「……リリーの魔力反応が。この先の『ドラゴンの祭壇さいだん』……すぐそこに、彼女がいるはずだ」


 アーサーの言葉に、ヴィクターがマガジンをレミントンに叩き込み、マッドが静かに拳を打ち鳴らす。


「……行くぞ。デカイトカゲ共のつらおがみににな」


 暗い回廊の最奥さいおう。最深部へと続く巨大な扉が、マッドの無慈悲むじひな蹴りによって重々しく開かれた。

 そこには、想像を絶する光景と、待ち望んでいた再会――そして、本当の地獄が口を開けていたのである。

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