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戦場の死神と呼ばれた最強のパパ、さらわれた娘の救助へ異世界に殴り込む ~拳と鉛玉でドラゴンもエイリアンもまとめてブッ殺す~  作者: els


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第21話 大乱戦!竜の胃袋亭 無残な姿に……そして明日へ

 マキシマムがテーブルを粉砕する豪快な勝利に沸く一方で、酒場の熱気は別の、より不吉で湿り気を帯びた方向へと暴走しようとしていた。


 二人の美女が放った過剰なまでの色香に当てられた、一人の巨漢が理性を完全に焼き切らせていたのである。


「おいおい、姉ちゃんたち。そんな湿気た野郎どもの相手はもう十分だろ?」

 現れたのは、二メートル近い体躯を誇り、全身を凶悪な筋肉で武装した「鋼鉄のハンス」と呼ばる冒険者だった。


 酒臭い息を吐きながら、彼はカウンターで情報を引き終えたばかりのララの細い腰に、馴れ馴れしく太い腕を回したのである。


「俺様はこのドラグノフで名の知れた男だ。今日は俺様が、最高の夜をおごってやるぜ……。そこのスカしたヤサ男といるより、ずっと刺激的だと思わねえか?」


 ハンスは下品な笑みを浮かべ、ララの赤い魔道衣に包まれた豊かなヒップラインを手探りするように、その大きなてのひらを厚かましくわせようとしたのだ。

 ララの瞳に明確な殺意が宿り、魔導杖まどうづえを握る拳に力がこもった。

 だが、彼女がその爆炎ばくえんを解き放つよりも早く、一人の男が二人の間に音もなく割り込んだのである。


「……その汚い手を離せ。彼女が不快がっているのが分からないのか」

 ヴィクターだった。


 普段は影のように気配を消している彼が、今は氷点下の殺気を全身から放ち、ハンスの手首を正確に、かつ強引につかみ取っていたのだ。


「あぁん? なんだ、お前は……」

 ハンスはヴィクターを見下ろし、鼻で笑った。

「お前みたいなヤサ男が、この女に似合うと思ってんのかよ。今日はこの女をもらっていくぜ。文句があるなら、そのスカしたツラを叩き折ってやるがな!」


 ヴィクターは、感情の欠落した瞳で巨漢を静かに見据みすえた。

(……俺の獲物に、泥臭い手を触れようとするな)

 彼の内側で、大人の男としての冷徹な独占欲が、静かに鎌首かまくびをもたげていた。


 ヴィクターは、ララの細い肩を抱き寄せるようにして自身の背後へと逃がすと、電光石火の速さでハンスのあごを下から突き上げたのである。

 ガチリ、という嫌な音が響いたが、ハンスは首を一回転させるようにして衝撃を逃がし、不敵な笑みを崩さなかった。


「……蚊が止まったかと思ったぜ!」


 ハンスの丸太のような拳が、ヴィクターの腹部をとらえようとうなりを上げた。

 だが、ヴィクターはそれを真っ向からは受けなかった。

 特殊部隊仕込みの流れるような身のこなしで拳をかわすと、ハンスの巨躯きょくに吸い付くように密着し、急所――ひざの裏、脇腹わきばら、そして喉元のどもとへと、目にも止まらぬ速さで手刀を叩き込んでいったのである。


 それは武道というよりは、極めて効率的な「肉体の解体作業」だった。


「グ、ガッ……この、チョロチョロと……!」

 苛立つハンスが力任せにヴィクターを組み伏せようとした瞬間、ヴィクターの体が影のようにハンスの背後へ回ったのだ。


「……チェックメイトだ」

 ヴィクターは冷徹につぶやくと、渾身こんしん膝蹴ひざげりをハンスの急所である延髄えんずいへと突き刺した。


 二メートルの巨躯が、断ち切られた巨木のように、轟音ごうおんを立てて床に沈んだのである。

 静まり返る酒場。ヴィクターは乱れた呼吸一つ見せず、口端ににじんだ僅かな血を、無造作むぞうさに手の甲でぬぐい去った。


「やるじゃない、ヴィクター。ただのヤサ男じゃないとは思っていたけれど」

 ララが、紅潮こうちょうした顔でヴィクターを見上げ、その情熱的な瞳で彼を射抜いぬくように見つめた。


 彼女は挑発的にヴィクターの硬い胸板に指先を滑らせ、その熱を確かめるように、しなやかな身体を僅かに彼に寄せたのである。


「……安い酒が不味まずくなるんでな」


 ヴィクターはクールに突き放すような言葉を吐いたが、その瞳は、自身の腕の中に収まったララの妖艶ようえんな美しさを、確かに大人の男の熱を持って写し取っていたのだ。

 氷と炎が静かに溶け合うような、二人だけの濃密な空気が、一瞬だけそこには流れていたのである。


・・・・


静まり返った酒場。だが、その沈黙は長くは続かなかった。


「……てめぇ、よくもハンスをやってくれたな!」

「野郎ども、囲めッ! 多数対一なら、こいつらも終わりだ!」


 怒号が飛び交い、十人近い荒くれ者たちが一斉に腰のナイフを抜き、ギラついた視線でヴィクターとララを包囲したのである。

 だが、殺気立つ男たちの背後から、全てを凍りつかせるような低い声が響いた。


 酒場の喧騒が頂点に達し、ハンスを倒された荒くれ者たちが一斉に抜身のナイフをひらめかせたその時だった。


「……酒ぐれぇ、静かに飲めねえのかよ。このクズ共が」


 マッドがゆっくりと立ち上がった。その瞬間、椅子が床を擦る音さえ、処刑台の軋みのように重く響き渡ったのである。


「何だぁ? お前もそのスカしたツラの仲間かよ! まとめてブチ殺して――」

 男の言葉は、物理的に断ち切られた。

 マッドの拳が音を置き去りにして、先頭の男の顔面にめり込んだのだ。


 ドォーーンン!!


 重い爆発音が響き、鼻腔びこうを粉砕された男は木の葉のように舞い、厚い木枠の窓枠ごと突き破って、夜の街路へと弾き飛ばされたのである。


「隊長殿、いきなりかよ。なら俺も遠慮しねえぜ!」

 マキシマムが、横から突っ込んできた二人の冒険者の胸倉を、左右の手で同時に掴み上げた。


「筋肉の使い方がなってねえんだよ、豚共がッ!」

 彼は二人を軽々と持ち上げると、そのままボーリングの球のように酒場のカウンター目掛けて放り投げたのだ。


 ガッシャアアアン!! という派手な音と共に、棚に並んだ高価な酒瓶が粉々に砕け散り、男たちはカウンターの奥底へと消えていった。


 ヴィクターもまた、影のように包囲網を抜けた。

「……野蛮なのは嫌いだが、効率的なのは嫌いじゃない」

 彼はナイフを振りかざす男たちの手首を冷徹な手刀で折り、関節を次々と外していく。さらに、残った二人を纏めて掴み上げると、酒場の重厚な出入り口の扉へと叩きつけたのだ。


 バキバキィッ!


 扉は蝶番ちょうつがいごと吹き飛び、男たちは外のぬかるみへと転がり落ちた。


 最後に残った、最も威勢の良かった一人がマッドに襲いかかる。

だがマッドはその首を片手で掴み上げると、無造作に酒場の高い天井へと放り投げた。


 ドゴォォン!と音を立て 男は天井のはりを叩き折り、そのまま二階の床板を突き破って姿を消したのである。


 マッドの凄絶せいぜつな一撃に戦意を喪失した荒くれ者たちは、蜘蛛くもの子を散らすように、吹き飛んだ窓や扉から逃げ出していったのだ。


 わずか数分。静まり返った酒場には、原型を留めないほど折れ曲がった椅子やテーブル、そして散乱した酒瓶と、重傷を負ってうめき声を上げる男たちだけが残されていた。


・・・・・


「あ、ああ……店が、俺の店がぁ……」

 カウンターの裏で店主が真っ白な顔をして膝をつく。


「あーあ、面倒くさい。これじゃ喧嘩で死んじゃうじゃない」

 ララが心底嫌そうに溜め息をつき、転がっているハンスたちの元へ歩み寄った。


彼女はハンス達のポーチから安物の下級回復ポーション《ヒール・ポーション》を取り出すと、まるで汚水でも捨てるかのような無造作な動作で、悶絶する男たちの顔面に中身をぶちまけたのである。

「……ほら、さっさと治りなさいよ。死ぬのは外でやってちょうだい」


「左様ですわ。わたくしたちの服に返り血が飛んだら、どう責任を取ってくださるのかしら?」

 インディもまた、氷のように冷ややかな視線で男たちを見下ろしていた。彼女はポーションが尽きると、面倒くさそうに魔導杖まどうづえをひと振りし、ドブネズミを消毒するかのような手つきで、必要最低限の回復魔法ヒールをばら撒いた。

 そしてインディは、動けない男たちのふところから金貨袋を全て「整理《強奪》」し終えると、カウンターの裏で絶望で膝をつく店主の前に、インディが優雅ゆうが所作しょさで歩み寄った。


 インディは「整理」と称して荒くれ者たちのふところからかすめ取った、ずっしりと重い金貨の袋をカウンターに置いたのである。

「こんなに貰えるのか? 店がもう一軒建てられるぞ」


「これで店新しくなさって。……あら、それとも、わたくしの『加護』がもっと必要かしら?」

 インディが眼鏡を直し、つややかなウィンクを贈ると、店主は心臓を射抜かれたように顔を真っ赤にして卒倒した。


・・・・・


 酒場を出た一行の頭上には、冷たくえ渡る月が浮かんでいた。

 酒の勢いか、戦いのたかぶりか。ララは千鳥足ちどりあしでふらつきながら、ヴィクターの肩に大胆にその柔らかな身体を預けたのである。

「ふふっ、今日は楽しかったわね……ヴィクター、意外とやるじゃない」

 ララの甘い吐息といきが首筋にかかり、彼女の豊かな胸の感触が腕に押し付けられる。ヴィクターはやれやれと溜め息をつき、氷の仮面を崩さないように努めたが、その手は無意識に、彼女の細い腰を支えるようにしっかりと回されていた。

 一方、少し足元のおぼつかないインディを支えようとしたマキシマムは、完全なパニック状態に陥っていた。

「……あ、あの、《《インディさん》》、大丈夫ですかい?」

 彼がそっと肩に手を回すと、インディのしなやかな曲線が丸太のような腕に触れた。

「あら、ありがとうございます。マキシマム様の腕、とっても頼もしいですわ」

 インディが微笑み、彼の腕に身体を寄せる。その瞬間、マキシマムは全身を岩のように硬直こうちょくさせ、ぎこちないロボットのような動きで歩き始めた。

 耳たぶまで真っ赤に染まった彼の純情ピュアな様子に、インディは口元を扇子せんすで隠して楽しげに笑ったのである。


 そんな不器用な二組の男女を背後に、マッドは一人、夜の静寂しじまの中で「龍の穴」が口を開ける暗い山脈を見据みすえていた。

 そのひとみに宿るのは、情欲でも享楽きょうらくでもない。

 ただ一人の少女、リリーを救い出すという、鋼鉄のように冷たく鋭い殺意だけだった。

「……行くぞ。明日の夜明け、あの穴蔵あなぐらに火をけに行く」

 マッドの低い声が、決戦前夜のドラグノフの街に、処刑宣告のように重く響き渡ったのである。


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