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戦場の死神と呼ばれた最強のパパ、さらわれた娘の救助へ異世界に殴り込む ~拳と鉛玉でドラゴンもエイリアンもまとめてブッ殺す~  作者: els


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第19話 冒険者の街ドラグノフ! 二人の魔女の帰還!

「……おい、マッド! エンジンから変な音がしてるぞ!」


 荷台で重機関銃を抱えるマキシマムが、吹き抜ける爆風の中で怒鳴り声を上げた。

 八〇年代に製造された旧式のピックアップトラックのボンネットからは、もはや無視できないほどの白煙が上がり始めていたのである。

 現代の軍用車両でさえ持て余すほどの高オクタン価を誇る特殊燃料の異常な高熱に、古いエンジンブロックが完全に耐えかねていたのだ。

 シューッ、ガコンッ、という不吉な異音が断続的に噴き出し、空気を不快に震わせた。

 分厚いオフロード用のタイヤと頑強がんきょうな鋼鉄のフレームには、度重なる急加速と、先ほどの凄惨せいさんな戦闘によるダメージが限界まで蓄積していた。

 車体全体が、まるで生き物のように悲鳴に似た激しい振動を上げていたのである。


「四十年前の設計に、現代軍用の高オクタン燃料、おまけにこの乱暴な扱いだ。このまま走り続けたら、『龍の穴』に到着する前に空中でバラバラになってしまうぞ!」


 荷台の隅で、アーサーが自身の戦術視覚装置タクティカル・バイザーに表示されるエンジンルームの温度情報を冷徹にスキャンした。

 視界を真っ赤に染める危険な異常警告アラートにらみつけながら、鋭い警告を発したのである。

 だが、り切れた革巻かわまきのハンドルを握るマッドは、その理路整然とした警告を完全に無視した。

 彼は狂気を宿したひとみのまま、アクセルペダルを床の底まで無慈悲むじひに踏み抜き続けていたのだった。


「……構わねえ。龍のケツまで耐えられればいいんだ。あの片目のゴブリン野郎を、俺の拳で殴り殺し、リリーを救出すれば解決だ」

「解決しませんわ、マッド様ッ!!」

 助手席に座るインディが、珍しくお嬢様らしからぬ大声を張り上げて、マッドの太い腕を必死に抑え込んだのである。


 トラックの激しい揺れに呼応するように、彼女のタイトなローブに包まれた豊かな胸元が、はち切れんばかりに扇情せんじょう的に波打っていた。

 知的な眼鏡が鼻先までずり落ちていたが、それを直す余裕すらないほど、彼女の表情は切迫していたのだ。


「落ち着いてくださいまし! あの『龍の穴』は、世界の裂け目に作られた天然の迷宮ダンジョン……。無策で踏み込めば、リリー様を見つける前に、私たちが迷い餌食えじきになりますわ!」

「インディの言う通りよ、この分からず屋! それにね! もうすぐ日が暮れるわ! 夜行性の魔獣達が騒ぎ出す時間よ!」

 荷台から、ララが身を乗り出して窓越しに怒鳴りつけたのである。


 爆風に激しく舞う燃えるような赤い髪を乱暴に振り払い、彼女は真剣そのものの表情でマッドをにらみつけた。

「あそこには『銀蝕虫ローチ』だけじゃなく、ドラゴンの魔力を吸って狂った魔物が山ほどいるの。あんたたちのその『鉄の筒』が弾切れになったら、そこが全員の墓場になるわよ!」


 ララの厳しい指摘を受け、マッドは忌々《いまいま》しげに舌打ちをして、ようやくアクセルをわずかにゆるめたのである。

 メーターの針がゆっくりと下がり、狂気の暴走が、ようやく常識的な速度へと落ちていったのだ。


「……マキシマム、武器の残りはどうなってる?」

 マッドが、バックミラー越しに低い声で尋ねた。


「……笑えねえぜ、マッド。M60機関銃のベルトリンクはあと十本、ざっと一〇〇〇発ってところだ。ヴィクターの狙撃銃スナイパーライフルも、予備のマガジンは二〇、全部で一〇〇発しかねえ。他の武器も次元格納装置ストレージに残っているが……狭い穴蔵あなぐらであの巨大な機関銃をぶっ放してみろ。跳弾ちょうだんの嵐で、俺たちの身が穴だらけになっちまうぞ」


 マキシマムは顔をしかめながら、インディとララが腰に下げている、優雅ゆうがな装飾がほどこされた魔導剣やつえへと鋭い視線を向けたのである。


「……この世界用に、俺の筋肉に馴染なじむ『鋼の剣』が欲しいところだ。強力な歩兵ソルジャー級の魔物と近接戦闘になれば、俺たちの持ってるコンバットナイフじゃあ、明らかにリーチが足りねえ」

「……決まりだな。迷宮ダンジョンに潜入する前に、一度装備を徹底的に点検し、休息を取る必要がある。俺も、このパワードスーツの回路を、この世界の独特な魔力に合わせて完全に再構築したい」

 アーサーの提案に、マッドは不満そうに彼をにらみつけたのである。


 しかし、他のメンバーもメンテナンスの確実な時間や、十分な休養を求めていたのは事実だった。

 何より、この異世界の道案内役であり、「龍の穴」の複雑な事情に詳しいインディーとララが、無謀な突撃を避けて慎重に行動するよう強く持ちかけたことで、マッドの熱り立った頭もようやく冷静さを取り戻しつつあったのだ。


 マッドは無言のまま、ハンドルを大きく切り、彼女たちの指示に従って車の進行方向を強引に変えたのである。


「……クソッ」


 マッドは、今すぐにでもその鋼鉄の拳をハンドルに叩きつけたかったのだ。

 リリーを一秒でも早く助け出したいという焦燥感しょうそうかんが、彼の内臓を焼きがしていたのである。

 しかし、激戦をくぐり抜けて疲弊ひへいしきった仲間たちの顔と、隣で必死に訴えかける美女たちの切実な眼差まなざしを、これ以上無視し続けることはできなかったのだ。


「……リリー。……もう少しだけ、待ってろ」

 マッドは誰にともなく、かすれた声で短くつぶやいたのである。


 白煙を上げるピックアップトラックは、遠く連なる険しい山脈のふもとに広がる、厚い雲海に隠された巨大な宿場町へと向かって、静かにその速度を落としていったのだった。


・・・・


 険しい岩肌を縫うように走る過酷な街道の先に、石造りの強固な外壁に四方を囲まれた巨大な町が、太陽が地平線に落ちる頃にその威容いようを現したのだ。

 そこは、世界の裂け目と呼ばれる最悪の迷宮ダンジョン「龍の穴」へと挑む冒険者たちが集う、最後の最終拠点である宿場町ドラグノフだった。


 死と隣り合わせの莫大ばくだいな富を求める者たちの異様な熱気と、街全体をおおすすけた煙の臭いが濃厚に混ざり合う、欲望にまみれた混沌こんとんとした街だったのである。

 白煙を濛々《もうもう》と上げながら、魔物の赤黒い血肉と泥にまみれた不気味なピックアップトラックが巨大な城門へと近づくと、やりを厳重に構えた門番たちが一斉にざわめき立ったのだ。


「……止まれ! なんだ、その鉄の魔物は! 伏せろ、総員戦闘準備ッ!」

 未知の四輪の鉄塊てっかいを前に、門番の切羽詰まった怒号が飛んだ。


「あーあ、やっぱりこうなるわよね」


 荷台でララが、戦闘ですすけた真っ赤な魔道衣のすそを軽くはたきながら、つややかな肢体したいひるがえして優雅に立ち上がったのである。

 彼女がはち切れんばかりの豊満な胸を強調するように、意図的に大きく背伸びをしながら、警戒する門番たちに向けて自慢の魔導杖まどうづえを高々とかかげたのだ。


「ちょっと! 槍を下げなさいよ、この節穴! 私の顔を忘れたの!?」

「……えっ? その赤い髪……それに、そのデカい……。ま、まさか、『爆炎のララ』か!?」

 門番の一人が、網膜もうまくに焼き付くような爆炎ならぬ爆乳グラマラスな姿と見覚えのある顔に、驚愕きょうがくで握っていた槍を落としそうになったのである。


「左様ですわ。わたくしたちを、このような異形の馬車と共に門前払いするおつもりかしら?」

 助手席からはインディが、お嬢様らしい極めて優雅ゆうがな動作でずれた眼鏡のブリッジを直し、静かに、だが圧倒的な威厳を持って窓の外を見据みすえたのだ。


「……『風光のインディ』まで!? 生きていたのか! 凶悪なオークの群れに飲まれて全滅したと聞いていたが……!」

 門番たちの張り詰めていた警戒は、一瞬にして割れんばかりの歓声へと劇的に変わったのである。


「開けろッ! 英雄の帰還だ! 伝説の魔法使いコンビが、見たこともない鉄の化け物を従えて無事に帰ってきたぞ!!」


 重々しい巨大な石門が地響きを立てて開き、傷ついたトラックがゆっくりと街の内部へとすべり込んでいったのだ。

 道ゆく荒くれ者の冒険者たちは、かつて見たこともない四輪の巨大な鉄塊と、その上に乗る異様な殺気を放つ無骨な男たち、そして奇跡の生還を果たした伝説の美女二人を、驚きと強烈な羨望せんぼう眼差まなざしで穴が開くほど見つめていたのである。


「……へっ、英雄様のご帰還かよ。姉ちゃんたち、ここでは随分な有名人だったんだな」

 マキシマムが、熱を持ったM60機関銃を分厚い布で手際よく隠しながら、からかうように豪快に笑ったのである。

「当然でしょ。私たち、こう見えてもこの国の冒険者達の間では、かなり名が売れてるんだから」

 ララが自慢の豊満な胸を、これ見よがしに誇らしげに張ってみせたのだ。

 一行は、喧騒けんそうから少し離れた街の片隅にある、古びているが要塞ようさいのように頑強がんきょうな造りをした宿屋『龍の寝床亭ねどこてい』に拠点を定めたのである。


 傷ついたピックアップトラックを、人目につかない裏庭の広大な納屋なやに隠し終えると、アーサーが真っ先に口を開いたのだ。

「……マッド。俺はここで一旦別れる。パワードスーツの調整と、このトラックの状態が心配だ。それに……」

 アーサーは、鈍く光る自身の戦術視覚装置タクティカル・バイザーを指先で軽くたたいたのである。


「明日控える『龍の穴』での決戦用に、私の持つ未来兵器の回路を、この世界の独特な物理法則と魔力に合わせて完全に組み直す必要がある。極めて精密な作業だ。俺はこの『龍の寝床亭』にとどまり、この『鉄の馬』と俺のスーツを徹夜で徹底的にメンテナンスする」

「……分かった。アーサー、後のことは頼むぞ」

 マッドは短く応えると、信頼を込めてアーサーの屈強な肩を力強く叩いたのである。


「さあ、あんたたち! いつまでも湿気しけた顔してないで、さっさと酒場に行くわよ!」

 ララが、マッドの太い腕を強引に、だがどこか楽しげに引っ張ったのだ。

「有益な情報の仕入れは、いつだって酒場が一番と相場が決まっているの。それに、この街の『龍の胃袋』って名前の酒場には、龍の穴の内部構造に詳しいベテランの奴らが毎晩集まるんだから」

「……ああ。……行くぞ、マキシマム、ヴィクター。正確な情報がねえと、敵の殴る場所も分からねえからな」

 血と硝煙しょうえんの匂いをまとうマッド、ヴィクター、マキシマムの三人。

 そして、目のやり場に困るほど露出度の高い真っ赤な魔道衣まどういを着こなすララと、タイトなローブでしなやかな曲線美を惜しげもなく誇るインディ。


 周囲の空気を凍りつかせるような異様な威圧感を放つ五人は、深く暗い夕闇ゆうやみに包まれ始めたドラグノフの街へと、静かに足並みをそろえて繰り出したのである。


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