第12話 ボス登場!ゴブリンキング?!ただのデカイ的だ!
「マキシマム、撃ちすぎるなと言っている! 構造材へのダメージが許容限界を超えている、砦自体が完全に崩落するぞ!」
アーサーの焦燥に満ちた絶叫が通信機を震わせたが、重機関銃の咆哮を浴びせ続ける大男には、もはや何一つ届いてはいなかったのである。
「アーサー、崩れたら、また新しい盛大な焚き火を作るだけだろぉがッ!!」
マキシマムは狂気じみた笑みを浮かべ、さらに指先のトリガーを絞り込んだのだった。
M60から放たれた暴力的な弾丸の嵐が、正門の両脇にそびえ立つ監視塔の支柱を無慈悲に粉砕したのである。
巨大な丸太の櫓は、逃げ惑うゴブリンたちを乗せたまま断末魔のような軋み声を上げ、凄まじい轟音と共にマッドの目の前へと崩れ落ちたのだった。
その視界を遮る激しい土煙の中から、一筋の鋭い影が音もなく飛び出したのである。
それは「鋼鉄の刺客」ヴィクターだった。
「……騒がしい場所というのは、どうも苦手なんだがな」
ヴィクターは、崩れ落ちた瓦礫の山を軽やかな足場にし、さらに砦の奥深くへと高く跳躍したのだった。
混乱の極致にあり、ただ逃げ惑うことしかできないゴブリンたちの間を、彼は実体のない幽霊のような身のこなしですり抜けていくのである。
超硬ナイフが冷たい月光を鋭く反射し、銀色の軌跡を描くたび、ゴブリンの醜い首が虚空に舞ったのである。
一匹、また一匹。
ヴィクターに首を断たれたゴブリンたちは、自らが既に死んでいることさえ気づかぬまま、数歩だけ虚しく歩を進めたのである。
そして膝を突き、切断された頸動脈から噴水のような緑色の鮮血を噴き出して、絶命していったのだった。
「……次だ」
背後から奇声を上げて襲いかかろうとした大柄な個体の喉元に、ヴィクターは振り返りざまにナイフを深々と突き立て、そのまま横になぎ払ったのである。
気管と頸動脈が瞬時に両断され、ゴブリンは声にならない音を漏らしながら、自らの血で窒息し、闇の底へと沈んだのだった。
そして、その凄惨なる殺戮の嵐の中心に、マッド・ボーンズが君臨していたのである。
「ギギャァァァァッ!!」
死を恐れぬ生存本能に突き動かされた十数体のゴブリンが、錆びた剣を振りかざしてマッドに群がったのである。
マッドはスパス12ショットガンを片手で軽々と構え、至近距離で迷わずトリガーを引いたのだった。
ズドォォォォォン!!
ゼロ距離で放たれた無慈悲な散弾は、ゴブリンの胸部から上を跡形もなく消し飛ばしたのである。
飛び散った肉片と脳漿が、マッドの全身を覆う防具の皮膜をさらに汚していくが、彼は眉一つ動かさなかったのである。
マッドは即座にポンプアクションを繰り出し、空になった薬莢を荒っぽく蹴り飛ばしながら、もう片方の拳を横一文字に振るったのだった。
「邪魔だッ!!」
ドゴォォォォォン!!
銀色に輝くナックルガードが、左から飛びかかってきたゴブリンの顔面を正面から捉えたのである。
頭蓋骨が粉々に砕ける「メキッ」という鈍い音が響き、ゴブリンの顔面は文字通り平らにつぶれ、その巨体は後方の仲間を巻き込みながら二十メートル以上も吹き飛び、砦の壁に激突して肉塊と化したのである。
五百いたはずのゴブリンの群れは、今や完全にパニックの極致に叩き落とされていたのである。
「ギ、ギギギィィィィッ!」
彼らの低い知能では、目の前の侵入者が「たった四人の人間」であるという現実が信じられなかったのである。
空からは火の雨のような重機関銃の弾丸が降り注ぎ、闇の向こうからは姿なき死神が現れ、正面には歩く天災そのものと言える男が立ち塞がっているのである。
砦の内側は、もはや要塞としての機能など微塵も残ってはいなかったのである。
マキシマムの弾丸が、ゴブリンたちが暖をとっていた巨大な焚き火を粉砕し、飛び散った火の粉が周辺の粗末な獣皮や備蓄食料に次々と燃え広がるのである。
断末魔の叫び、肉が焼ける鼻を突く悪臭、そして絶え間なく続く重火器の咆哮。
「……マッド! 砦の最深部から、さらに強力な高エネルギー個体が接近している!」
アーサーの警告が通信機に響き渡ったのである。
「残党の数はまだ多いが、指揮系統を掌握する個体を叩けば群れは一気に瓦解するはずだ! 急げ!」
マッドはショットガンの弾丸を冷静にリロードしながら、炎上する砦の最奥、そこに鎮座する最も巨大な影を見据えたのである。
「……ああ。……ヴィクター、マキシマム。雑魚の相手は任せたぜ。俺は奥の『不愉快な臭い』の元を断ってくる」
マッドはゴブリンの死骸が積み上がった山を無造作に踏み越え、赤々と燃え盛る砦の深淵へと、力強く足を踏み出したのである。
炎上する砦の最深部。
乾燥した丸太が激しく爆ぜる音と、遠くで鳴り響くマキシマムの機関銃の連続掃射音が、奇妙に遠のいて聞こえる静寂の空間があったのである。
そこは周囲の粗末な作りとは一線を画す、巨大な石を精密に積み上げた石造りの広間だったのである。
「……マッド、ヴィクター! 前方の熱源反応が異常だ。通常の個体の三倍以上の質量、そして……信じられないが、微弱な重力場の歪みが検知されている!」
アーサーの通信が、周囲の熱気による磁気ノイズに混じって響いたのである。
彼は砦の外側でパルスライフルを乱射し、逃げ惑うゴブリンの残党を青白い閃光で焼き払いながら、必死にデータの解析を続けていたのだった。
「『強い反応』か。……数値で見せられなくても、この鼻を突く腐った脂の臭いで分かるぜ」
ヴィクターが影の中から音もなく滑り出し、広間の中央を見据えたのである。
そこに鎮座していたのは、二メートルを優に超える巨躯を、血と煤に汚れた鋼鉄の甲冑で包み込んだ怪物だった。
「ゴブリン……キングか」
ヴィクターが低く呟いたのである。
その怪物は、外にいた知能の低そうな一般個体とは明らかに異なり、その瞳に濁った知性と、圧倒的な暴力の意志を宿していたのだった。
その手には、人間の胴体ほどもある巨大な石のバトルハンマーが、恐ろしい質量感を持って握られていたのである。
「ギ、ガァァァァァッ!!」
キングが咆哮し、その凄まじい振動だけで天井の丸太から煤が砂のように降り注いだのである。
「……デカいだけなら、ただの巨大な的だ」
ヴィクターが地を蹴ったのである。
彼の動きは、一瞬でキングの懐へと潜り込む、電光石火の早業だった。
超硬ナイフが、確実な急所である頸動脈を無慈悲に狙う。
だが、キィィィィン! という高い金属音が、石造りの広間に響き渡ったのである。
「……何っ!?」
ヴィクターの瞳が、驚愕に細まったのである。
キングは鈍重な外見に似合わず、巨大な前腕の甲冑でナイフの軌道を正確に防御したのだった。
さらに、続けざまに繰り出した心臓への一刺しさえも、バトルハンマーの硬い柄で軽々と弾き飛ばされたのである。
「ちっ、こいつ……殺すべき急所を分かってやがるのか」
ヴィクターがバックステップで距離を取ったが、間髪入れずにキングの追撃が迫ったのである。
石のバトルハンマーが床の石材を粉砕し、ヴィクターの頬を鋭い石礫がかすめていったのだった。
「――ヴィクター、時間がかかりすぎだぜ。交代の時間だ」
背後から響いたのは、重厚な軍用ブーツの足音だった。
マッドがショットガンを背負い、両手の指の関節をポキポキと不吉に鳴らしながら歩み寄ってきたのである。
「マッド……こいつ、ただのゴミじゃねえ。反応速度が別格だ」
「ああ。……だが、こいつをブチのめさねえと、話が先に進まねえだろ?」
マッドは、ヴィクターの横を悠然と通り抜け、真正面からキングと対峙したのである。
「……おい、デカブツ。お前、人間の言葉が通じるか? リリーはどこへ運ばれた」
「ギガァッ! ギギギィィッ!」
キングが、弱者を嘲笑うかのように、石のバトルハンマーを高く振り上げたのである。
そこに、交渉の余地など一分も残されてはいなかったのである。
「……そうか。なら、その汚ねえ腹の中から情報を引きずり出すまでだ」
マッドが鋭く踏み込んだ。
キングが放つバトルハンマー、山をも砕くような全力の一撃。
マッドはそれを避けるどころか、銀色のナックルガードをはめた左腕で、強引に真横から殴り飛ばしたのである。
ドゴォォォォォン!!
凄まじい衝撃波が広間を駆け抜け、マッドの足元の床がクモの巣状に粉々に砕け散ったのである。
「……重てえな。だが、それだけだ」
次の瞬間、マッドの挨拶代わりの右拳が、キングの腹部へと深々と突き刺さった。
ドォォォォォン!!
「ガ、ハッ……!?」
キングの巨躯が、くの字に折れ曲がったのである。
鋼鉄の甲冑が飴細工のように無惨に凹み、内部の骨が砕け散る不気味な音が広間に響き渡ったのだった。
だが、キングも王としての矜持か、吐血しながらもマッドの肩を掴み、力任せに石壁へと投げ飛ばしたのである。
「マッド!」
ヴィクターが叫んだが、マッドの声がそれを遮ったのである。
「……手出しは無用だと言ったはずだぜ」
壁に激突し、激しい土煙を上げながらも、マッドはニヤリと凶悪に笑って立ち上がったのである。
パワードスーツと彼の鋼の肉体は、長年の死線を越えた戦場経験と、脳筋的な根性によって、既に人外の域にまで達していたのである。
マッドは加速した。今度は一切の手加減なしの全力だった。
キングの大ぶりのバトルハンマーを紙一重でかわし、顎の下から突き上げるような剛腕のアッパーを叩き込んだのである。
ドゴォォォォォン!!
「ギギャァァァァァッ!!」
キングの巨体が、その一撃で宙に浮いたのである。
そこへ、マッドの電撃的な追撃が炸裂した。
左右のナックルが、まるで重機関銃のような凄まじい連射で、キングの胸部、喉、そして顔面を次々と粉砕していったのである。
「これでおしまいだ。……クソ下等ゴミ野郎が、案外楽しませてくれたぜ」
マッドが、空中で静止したかのようなキングの眉間に、全体重を乗せた全力のストレートを叩き込んだのである。
バキィィィィィン!!
甲冑の兜が粉々に砕け散り、キングの巨体は広間の奥の石壁を突き破って、そのまま動かなくなったのである。
「……ふぅ。……アーサー、終わったぜ。外のゴミ掃除はどうだ?」
マッドが荒い息を整えながら、通信を入れたのである。
『……こちらも完了したよ。マキシマムが、生き残りのゴブリンを文字通り一人残らず肉塊にしたところだ。……だがマッド、君の目の前の壁の向こう側……異常な生体反応が密集しているぞ』
アーサーの言葉に、マッドとヴィクターは一瞬顔を見合わせたのである。
キングが突き破った石壁の向こう側には、地下へと続く暗く湿った階段が存在していたのだった。
二人がその階段を駆け下りると、鼻を突くような悪臭と、絶望的なうめき声が、地下の闇から立ち上ってきたのである。
「……これは……」
ヴィクターが、思わず言葉を失ったのである。
そこは、地下牢だった。
捕らえられていたのは、ボロボロの服を纏い、痩せ細った数十人の「人間」たちだったのである。
キングの広間には、人間の頭蓋骨や骨が不気味な調度品として飾られていたことを、マッドは思い出したのである。
彼らはゴブリンたちの食用、あるいは過酷な労働力として、家畜同然に扱われていたに違いなかった。
「……助けて……助けてくれ……」
虚ろな瞳でマッドを見上げる、力尽きかけた人間たち。
マッドは、ナックルガードに付着したキングの返り血を無造作に払い、暗い地下室の奥を鋭く睨みつけたのである。
愛しい娘のリリーは、ここにはいなかったのである。
だが、この惨状こそが、この異世界が単なる「生ゴミの巣」ではなく、より深い闇に支配されていることを如実に物語っていたのである。
「……マッド、これを見てくれ」
ヴィクターが、地下牢の隅にある一点を指差したのである。
そこには、リリーが大切に肌身離さず持っていたはずのペンダントの、無残にちぎられた鎖が落ちていたのだった。




