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戦場の死神と呼ばれた最強のパパ、さらわれた娘の救助へ異世界に殴り込む ~拳と鉛玉でドラゴンもエイリアンもまとめてブッ殺す~  作者: els


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第8話 ゴミ虫の卵はスクランブルエッグ? もちろん全廃棄だぜ!!

 マッドたちの眼前に姿を現したソルジャー級ローチは、鼓膜こまくを直接削り取るような「キィィーーー!」という奇怪きかい咆哮ほうこうを上げたのである。

 それと同時に、人間の動体視力をはるかに置き去りにする神速のジャンプを見せ、瞬時に天井へと張り付いたのだった。


「クソ虫が、ハエみてえな動きをしやがって」


 マッドは即座にスパス12ショットガンの銃口を跳ね上げ、その青白く半透明な身体に向かって散弾をぶっ放したのである。

 だが、放たれた弾丸のほとんどは、ヤツの強固な甲殻こうかくによって火花を散らしながらむなしく弾き飛ばされてしまったのだった。

 ただ、わずかに命中した数発の弾丸が甲殻を貫通すると、ヤツは「キェエエェェエ」という耳を裂くような奇声を上げたのである。

 傷口からは、腐った果汁のような粘着質の体液が周囲に飛び散ったのだった。

 その体液が触れた瞬間、セクター9の頑丈な壁は一瞬にしてグズグズに溶け落ち、強烈な化学反応の煙が立ち昇ったのである。

 その異常な侵食力を目の当たりにし、マッドは本能的な危険を感じて攻撃を一旦いったん停止したのだった。


「ありえねぇ強さの酸か? マッド、あいつはヤバいぞ」

「ヴィクター安心しろ。体液が出るってことは、この武器でも殺せるってことだ」


 マッドは再び容赦なく散弾を浴びせようとしたが、知性を持つソルジャー級は深追いせず、天井の複雑な換気ダクトへと素早く逃げ込み、その姿を完全に消したのである。


「クソ、逃がしちまったか」

「諦めろマッド、私のバイザーによるとヤツは天井のダクト内を高速移動中だ。今の私達にあいつを追いかける有効な手段はない」


 アーサーの冷徹な分析を背に、一行はさらにセクター9の深部へと足を進めたのだった。

 深部へ進むにつれ、周囲の空気の質は明らかに不気味な変貌へんぼうを遂げていたのである。

 空調機能を備えた最新のパワードスーツ越しであっても、肌にまとわりつくような、ねっとりとした異常な熱気が伝わってくるのだった。

 それは機械の排熱などではない。

 何万、何十万という異形の生命が、闇の中で不気味に脈動みゃくどうしている生々しい熱そのものだったのである。


「まるでクソ溜めのジャングルみてぇだ……アーサー。このエリアの気温は何度だ?」


 マッドはショットガンのグリップを力強く握り直し、低い警戒の声で尋ねたのである。

 アーサーはパワードスーツの各部から排熱を逃がしながら、タクティカル・バイザーに絶えず更新される数値を読み上げたのだった。


「四十二度。湿度は九十パーセントを超えている。……マッド、最大警戒しろ。ここの空調は十年前から死んでいるはずだ。我々用に最低限の換気システムのみが稼働しているが、これはありえない数値だ。何かが意図的に、この区画を自分たちの発育に適した温度まで上げている可能性がある」


 一行が通路の角を曲がった瞬間、パワードスーツのライトが照らし出した光の中に、その地獄の全貌ぜんぼうが姿を現したのである。


「……なんてこった。こりゃあ、掃除のしがいがありすぎるぜ」


 「歩く要塞」マキシマム・コルトが、思わず足を止めて呆然ぼうぜんつぶやいたのだった。

 かつては広大な貨物保管庫だったはずの巨大空間は、今や壁も天井も、半透明の巨大な「卵」によって隙間すきまなく埋め尽くされていたのである。

 卵の中では、黒い小さな影――スター・カスケイダーの幼体たちが、まるで心臓のようにピクピクと胎動たいどうしていたのだった。

 そして、一部の卵の土台――苗床なえどことして利用されているのは、床に転がるオークやゴブリンの無惨な死体だったのである。

 それだけではない。

 ローチに無残に食い破られたエリア55の警備兵たちの亡骸なきがらも、粘液にまみれてあちこちに散らばり、新しい命のかてとされていたのだった。


「……あいつら、俺たちの仲間を苗床にしやがったのか」


 ヴィクターが超硬ちょうこうセラミックナイフを抜き放ち、その瞳に氷のような鋭い怒りを宿したのである。


「アーサー。こいつらが全部孵化ふかしたら、地上はどうなる?」


「計算するまでもない。数時間でアメリカ全土を食い尽くすほどの、飢えた軍団が誕生する」


 アーサーのバイザーには『NEST ALERT: OVER 30,000 EGGS DETECTED(卵三万個以上検知)』という、絶望的な赤い数字が激しく点滅していたのである。


「なら、仕事は決まりだ。……野郎ども、害虫駆除デッド・クリーンの時間だぜ!」

「汚ぇスクランブルエッグができそうだ。全廃棄処分だけどな!」


 マッドの号令が響くと同時に、マキシマムのM60機関銃が激しい火をいたのである。


 ドゥォォォォォン!! ドゥォォォォォン!!


 7.62ミリの対ローチ用重装弾が、壁一面の卵を次々と粉砕していくのだった。

 ドロドロとした黄色い羊水ようすいと、まだ未熟な幼体たちの肉片が、通路を埋め尽くすように四方八方へ飛び散るのである。

 ヴィクターは手榴弾グレネードをまとめて放り込み、ネストの中枢を爆発の炎で無慈悲に焼き払ったのだった。

 だが、その徹底的な破壊が、闇に潜んでいた「守護者たち」を呼び寄せてしまったのである。


 キチキチキチキチッ!!


 天井の闇から、ワーカー級よりも二回り以上大きく、四本の鋭いかまのような脚を持つ影が、数十体も一斉に降りてきたのだった。


「レベル2……『スカウト級』か! ヴィクター、来るぞ!」


 アーサーが叫ぶと同時に、スカウト級は壁や天井を重力を完全に無視した超スピードで駆け抜け、マキシマムの射線を巧妙こうみょうにかいくぐって襲いかかってきたのだった。


「ヘッ、チョコマカしやがって! 俺の弾丸から逃げられると思うなよ!」


 マキシマムが銃身を振り回して応戦するが、敵の動きがあまりに速すぎて、鋼鉄の弾雨でもとらえきれないのである。


「――マキシマム、お前は卵を焼いてろ。こいつらは俺が引き受ける」


 ヴィクターが影のように高くんだのである。

 ここからは「鋼鉄の刺客」ヴィクターの独壇場どくだんじょうだった。

 彼は二振りのナイフを逆手に持ち、空中を自在に飛来するスカウト級の群れの中に、自ら弾丸となって突っ込んでいったのである。


 キィィィィン!!


 超硬ナイフが空気を切り裂く高音を響かせ、ヴィクターは空中で一回転しながら、真横から飛びかかってきたローチの首を正確にね飛ばしたのだった。

 着地する間もなく、背後の壁を強く蹴って反転し、天井から降ってきた二体の眉間みけんを同時に、そして深く貫くのである。


「……相変わらず、無茶苦茶な動きしやがるぜ」


 マッドが感心したように、ヴィクターが仕留め損ねた敵をショットガンで確実に始末しながらつぶやいたのだった。

 ヴィクターの動きはもはや人間の反射神経という概念を超越していたのである。

 まるで敵がどこから襲ってくるかをあらかじめ予知しているかのように、最小限の予備動作で急所を破壊し、鮮血の雨の中を優雅に舞い踊るのだった。


「あと十体だ、ヴィクター! 右斜め後ろ、天井ダクト!」


 アーサーの的確なナビゲートに応じ、ヴィクターは酸でボロボロになった超硬ナイフを全力で投げつけたのである。

 投げ放たれたナイフは、ダクトの中に潜んでいたスカウト級の脚の可動部を的確に射抜き、死骸しがいがドサリと床に落ちたのだった。

 ヴィクターは瞬時に新しいナイフを「次元格納装置」から引き抜き、最後の一体を空中で真っ二つに切り裂いたのである。


「……ふぅ。スカウト級か、少しは手応えが出てきたじゃねえか」


 ヴィクターがナイフに付着した不快な青い体液を、床に転がった死体で乱暴にき取り見つめる。


超硬ちょうこうコーティング済みの特注ナイフでも、そんなに持たねぇな……」


 彼がナイフの刃こぼれを厳しく確認したその時、さらなる異変が戦場を支配したのだった。


 だが、戦いはまだ終わってはいなかったのである。

 広大な保管庫の最奥、そこに横たわる最も巨大なオークの英雄――その死骸しがいが、内側から激しく波打ち始めたのだった。


 メキメキ……バリバリッ!!


 巨大な骨が砕け散る不吉な音と共に、死骸の腹部を内側から突き破って、漆黒しっこくの光沢を放つ「何か」がい出してきたのである。

 それは、先ほど逃がしたあのソルジャー級だった。

 かつての半透明だった甲殻こうかくは、非常用ライトに照らされ、今や禍々《まがまが》しい黒銀色の光沢へと完全な変貌へんぼうを遂げていたのである。


 「……お出ましだぜ。待ってたぜ、大将」


 マッドが、ナックルガードをはめた右拳みぎこぶしを、左手の手のひらで力強くたたいたのである。

 数分前に遭遇した際の個体は、まだ生まれたてで外殻の一部が青白く透き通っていたが、今眼前に立つ個体の威圧感は、これまでのスカウト級とは比較にならないほどに膨れ上がっていたのだった。

 二足歩行で立ち上がったその体長は優に二メートルを超え、全身の節々から、気化した強酸きょうさんの体液を、致死性の毒霧どくむのように周囲へとまき散らしているのである。


 ……ジュウ、シュゥゥゥ


 ヤツの身体から絶え間なく流れ落ちる強酸の体液によって、セクター9の頑丈な床パネルが、歩くたびに激しい煙を吐きながら溶け落ちていくのだった。


 「マッド、下がれ! 銃撃で距離を取るんだ!」


 マキシマムが叫び、M60機関銃の重厚な弾丸をソルジャー級の頭部へと正確に叩き込んだのである。

 だが、真新しく黒銀色に硬化した、まるで戦車の装甲のような外殻は、7.6ミリ特殊弾の衝撃を容易たやすく滑らせ、むなしく弾き返してしまうのだった。


 「クソが! 俺の相棒をまともに食らってピンピンしてやがるのか!」


 「言ったはずだ、通常兵器ではその外殻は抜けない! マッド、下がれ! その酸を浴びれば、君の肉体など数秒で跡形もなくなるぞ!」


 アーサーの必死の制止をよそに、マッドはゆっくりと、強酸のミストが不気味に立ち込める最前線へと歩みを進めたのである。


 「……アーサー、お前はさっき、ローチの酸に触れれば何でも溶けると言ったな」


 「そうだ! だから下がれと言っている!」


 「じゃあ、このナックルガードはどうなんだ?」


 マッドは、サラから手渡されたばかりの、どこか薄汚れた銀色のナックルを静かに見つめたのである。


 「さっき、ワーカー級のゴミ虫を殴り飛ばした時……返り血を浴びたはずのこのナックルには、傷一つ付かなかった。不思議だと思わねえか?」


 「……まさか、お前……」


 アーサーの声が、ある恐るべき仮説に辿たどり着き、戦慄せんりつで震えたのだった。


 「俺が殴れば解決だ。……溶けるか、ブチ抜くか。……賭けてみようぜ、科学者さんよ」


 マッドはニヤリと凶悪に笑うと、爆発的な脚力で地を蹴ったのである。

 その動きは、岩のような重厚な肉体からは想像もできないほど鋭く、速いものだった。

 それは、ソルジャー級との文字通り命を懸けた一対一タイマンの、開戦の合図だったのである。


 「ジュアァァァァッ!!」


 ソルジャー級が、巨大なかまのような腕を激しく振り下ろした。

 マッドはそれを間一髪かんいっぱつの最小限の動作でかわすと、一気にヤツのふところへと飛び込んだのである。

 周囲には致死的な強酸の体液が雨のように降り注ぎ、マッドが身にまとっていたパワードスーツの装甲板の一部が瞬時に焼け落ちていくのだった。

 だが、彼は一切の躊躇ちゅうちょなく、全身のバネを乗せた渾身こんしんの右ストレートを放ったのである。


 「――ぶち抜けッ!!」


 バリバリッ! グシャー!!


 マッドは、最初に散弾を浴びせてわずかに傷をつけていた甲殻の部分に、銀色のナックルを正確にブチ込んだのである。

 硬質な甲殻が粉々に砕け散る絶望的な音と共に、その内側の肉を凄惨せいさんきつぶす衝撃音が響き渡ったのだった。

 ソルジャー級の側頭部に、マッドの巨大なこぶしが深々とめり込んだのである。

 そこは、アーサーのバイザーが「まだ硬化しきっていない脆弱ぜいじゃくなポイント」として、かすかなヒビと共に赤く表示していた場所だったのである。

 マッドは、自らの野生の勘だけでそれらを見抜き、一点へと攻撃を集中させたのだった。


 強酸を浴びたナックルガードは、溶けるどころか、それまでの薄汚れた状態から神々しい銀色の輝きへと劇的な変化を遂げたのである。

 強烈なパンチの衝撃波がソルジャー級の頭部を内側から木端微塵こっぱみじんに粉砕し、ネチャリとした粘液と共に、甲殻のつなぎ目から青白い脳漿のうしょうが周囲へと激しく飛び散ったのだった。

 ソルジャー級の巨体が、糸の切れた人形のように、ゆっくりとひざから崩れ落ちたのである。


 完全な静寂が戻った空間の中で、マッドは返り血を浴びたナックルを無造作に振り、汚れを落としたのだった。


 「……ヘッ。さすがにこいつらも、自分の脳みそまで溶けねえように、中身はちゃんとコーティングされてるらしいな。皮肉なもんだ」


 マッドは溶け落ちて煙をいているパワードスーツの余分なパーツを、パージボタン一つで乱暴にぎ取り、無傷のまままばゆく輝くナックルガードを見つめたのである。


 「……サラの野郎、とんでもねえもんを渡しやがったな」


 「……マッド。君という男は、本当に計算が合わない」


 アーサーが深く、重いため息をつき、タクティカル・バイザーをオフにしたのだった。

 マキシマムとヴィクターが、あきれ顔をしながらも信頼の表情を浮かべて、マッドの元へと歩み寄るのである。


 「ハハッ! 溶けるか試すために突っ込むなんて、相変わらずイカれてやがるぜ、マッド!」


 「おかげで俺のナイフの出番がなくなった。貸しにしとくぜ、リーダー」


 マッドは仲間の軽口に鼻で笑い、セクター9のさらに深淵しんえんへと続く暗い道を見つめたのだった。


 「……行くぞ。リリーを待たせてるんだ。……ゴミ虫掃除は、まだ始まったばかりだ」


 最強の四人組は、無数のローチの残骸ざんがいを踏み越え、さらなる地獄の先を目指して進んでいくのである。


 

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