第二十七話 魔法騎士団の仲間と会話する
魔鳥のお世話で城へ行くと、いつもレオランドが付いてくれていたのに、今日は別の人だった。魔法騎士団の団服を着用している男性は、どこかで見覚えがある。
(そう、実家の飯屋で騎士団一行が来た時にレオランドと一緒にいた人だ)
「貴方はレオランドの部下の……」
「申し遅れました。俺は団長のレオランドの部下、リック・ケイドナーです。レオランドの代わりで来ました。よろしくね」
リックと名乗った茶髪の男は、穏やかな笑みを浮かべた。癖っ毛なようで、あちこちに跳ねている。身長はそれ程高くはないのだろう。ルナセーラと目線がほぼ一緒だ。
「よろしくお願いします。あの、今日はレオランド様は……」
「レオランドは公務が溜まっている、とかで執務室に缶詰になっているよ」
「そうでしたか」
正体をバラして以来だったから、レオランドと顔を合わさずに済んでどこかホッとする。
レオランドも同じ気持ちだったのかもしれない。
でも、レオランドには迷惑をかけてしまった。公務の間を縫って、ルナセーラの元に来てくれたのだと申し訳ない気持ちになる。
『こいつ、誰?』
魔鳥からの声が聞こえてきた。
ルナセーラにしか聞こえないはずだが、鳥籠から漂う、黒い渦めくような気配にリックは肩をビクッと震わせた。
「うわ。めっちゃ、警戒されてる……」
『アーリア、レオランドの代わりに来てくれた魔法騎士団の人よ。そんなに殺気を出さないの!』
ルナセーラが返事をすると、アーリアの殺気は少し収まった。
「人見知りが激しいけれど、慣れてきたら大丈夫だと思います……多分」
レオランドを敵視しているようで、ずっと警戒を解かないがレオランドには少し慣れたようだ。
リックの場合はどうだろうか。
「多分って、そんな曖昧な……」
途方に暮れるリック。
「大丈夫ですって。悪いことをしなければ、仕返しはされないはずですから」
「そ、そうか……」
「では、餌やりから始めます」
リックがおっかなびっくりしながら鳥籠を開けると、魔鳥はルナセーラに向かって飛んでいく。そして、ルナセーラの手の平に置いてある木の実を口ばしで摘んだ。
「ね? 可愛いでしょ」
「あ……はい」
無理やり言わせてしまった形になったが、リックは頷いた。
と、魔鳥の口から木の実がこぼれて床を転がっていく。
ルナセーラが手を伸ばして取ろうとすると、リックの手と当たった。
「あっ……」
「すみません」
リックは急いで手を引っ込めるが、魔鳥はその動きを見逃さなかった。
魔鳥は旋回すると、リックの背中をつつき始めたのだ。
「い、痛い痛い!」
「だ、大丈夫ですか!」
『アーリア、やめなさい!』
ルナセーラの静止の声を聞かずに、魔鳥は攻撃をやめない。
リックはこの時、ルナセーラとは距離を保って接しようと固く誓ったのだった。
☆☆☆
ルナセーラは王女様のお茶会に誘われて、王女様専用の庭に来ていた。
手入れが行き届いている庭には見頃の花々が咲いていて、空気を吸い込むと花のいい香りで満たされる。
(セドリフの肖像画が飾られている部屋でなくてよかった。変に緊張してしまう)
ルナセーラは胸を撫で下ろした。
マリアーナに招かれて、庭が一望できる席に座る。
「素敵な庭ですね」
「そうね。気分転換をしたい時によく来るのよ。執筆が煮詰まった時とかに」
「大魔導士セドリフ様の研究書のことですね」
喉が乾いてきて、ルナセーラはカップに口を付ける。過去の自分を話題にされるのは、どうにも苦手だ。
「そうなの。大魔導士セドリフ様の研究書の第二巻を執筆している途中で……内容は『大魔導士様と現在』にしようかと構想を練っているところよ。一巻は過去編だったから、二巻目は現在って感じね」
(うわわ。やめてほしい……けど言えない)
「それは続刊を待っている人にとっては、重大発表ですね」
「そうね。二人だけの秘密よ」
マリアーナは可愛らしく、人差し指を口元に持ってきた。
「わかりました。二人だけの秘密ですね」
ルナセーラが復唱すると、マリアーナは「うふふ」と嬉しそうに笑った。
「ルナセーラと話をしていると、本当に安心するわ。ルナセーラは年下なのに、まるでお姉さんとお話ししているみたい」
「そうでしょうか……」
真に迫る発言をされて、内心ドキドキする。
前世の記憶があって、マリアーナの人となりをよく知っているからだろうか。
ジョルシュからは兄貴呼ばわりされるし、マリアーナからはお姉さんと呼ばれる。兄と姉では性質が異なる気もするが。
「どんなところがお姉さんだと思うのでしょうか」
「落ち着いているところ、かしら。セドリフ様のことを考えると、それで頭がいっぱいになってしまう私だけど、ルナセーラは冷静だったわ」
「ありがとうございます」
過去の自分の話が恥ずかしかっただけ……のような気がするが、褒められたことにお礼を言った。
マリアーナはカップに口を運ぶと、遠くを見つめた。
「レオランドはルナセーラに出会う前はずっと何かに苦しんでいたわ。きっと友人を戦争で亡くしたからなのでしょうね」
「……そうだったのですね」
宿屋で出会ったレオランドだ。セドリフの死を忘れないように、夢で出現させるようにしたレオランド。
(私がレオランドを苦しめる原因だった)
セドリフが死んで苦しんでいた、というのに。前世がセドリフだったと伝えて、またレオランドを苦しめている。
(レオランドには、これ以上苦しんでほしくない。……彼には笑ってほしい)
レオランドの様子を思い出し、ルナセーラは落ち込んだ気持ちになる。
「でも、ルナセーラに会う前のレオランドったら、私の呼びかけに上の空なのよ。楽しみでしょうがないって感じで」
「驚きました。私の前では上の空になるなんてこと、なかったです」
ルナセーラの前では頼りになる男性だった。上の空になるレオランドなんて想像できない。
「もう。ルナセーラの前では格好付けているのね。私とは扱いが違うじゃないの」
怒っているようなセリフなのに、マリアーナはどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「格好付けているんでしょうか……」
「そうよ。照れながらルナセーラのことを話すレオランドを見たら、私まで照れ臭くなっちゃうもの」
(照れるレオランドなんて……上半身の裸を見てしまった時くらいしか、見たことがない)
赤くなるレオランドなんて珍しかったのに。
「嬉しい……」
思わず、ルナセーラは呟いていた。
「あなたはレオランドから愛されているのよ。もっと自覚しなさい」
諭してくれるマリアーナはお姉さんのようだ。立場がいつの間にか逆転している。
「ありがとうございます。マリアーナ様」
「ようやく笑ったわね。安心したわ」
マリアーナから指摘されて、ルナセーラは自分が久しぶりに笑ったことに気が付いた。




