第二十六話 アールグレイの味
レオランドの様子が変だ。
そう感じるのは、ルナセーラの付き合いの長さによるものかもしれない。
魔鳥のお世話が終わると、レオランドから「お茶にしよう」と誘われた。王城の応接室を貸し切っているようで、この空間にはレオランドと二人きりだ。
給仕を断ったレオランドは自ら紅茶を入れてくれた。優雅で洗練された動作は、身惚れてしまいそうだ。
(話って何だろう……)
紅茶は前世のセドリフが好んでいて、レオランドに勧めたところ、彼も紅茶の美味しさに目覚めた。今でも紅茶を飲んでいるのだろうか。
「どうぞ」
「はい……」
レオランドが用意してくれた紅茶から、アールグレイの香りが漂う。
「いい香りですね」
「……ルナセーラも好きな香りなんだな」
レオランドの言葉を受けて、ルナセーラは一抹の不安を覚えた。
(ルナセーラもってどういうこと? まさか……)
アールグレイはセドリフが特に好きだった茶葉。
ルナセーラも好きな風味で、リラックスさせる香りのはずなのに、どこか落ち着かない。
レオランドはソファに深く腰掛けると、長い足を組んだ。
「魔鳥の世話には慣れてきたか?」
「……そうですね。魔鳥も私に慣れてきたみたいで、スムーズにお世話ができるようになってきましたね」
「魔鳥はルナセーラのことが好きだからな」
何だろう。レオランドから言われても嬉しくない。
妙に険のある言い方だった。
そして、今日初めてレオランドと目が合った。
「ルナセーラ。何か俺に隠していることがあるだろう」
ルナセーラの肩がピクッと跳ねる。
レオランドに隠していること。──それは、前世がセドリフだということだ。それしかない。
「隠していることって……」
チラッとレオランドを見ると、顔に違和感を覚えた。見つめると、目の下のクマを魔法で隠している。昨日は眠れなかったのだろうか。
「その目。セドリフが、俺の顔色を隠す魔法を暴く目だ」
「え?」
やはりバレている。セドリフを名指しされてしまった。
「ラドナに連れ去られた時に、ルナセーラが残した追跡の魔法。セドリフのオリジナルの魔法で研究書にも載っていないはずだが、どうしてルナセーラが知っているんだ」
「それは……」
咄嗟に使った魔法は、セドリフしか知らないはずの魔法だった。使えるとしたら、セドリフ本人か、セドリフから直接教えてもらった人に限られる。結果的に、自分から前世のことをバラすことになってしまった。
(もう、レオランドには隠し通せない……)
隠せないと悟ったルナセーラは真実を話すことにする。
「実は私、セドリフの記憶があるんです」
「セドリフの記憶……」
「そんなことを言っても信じてもらえないと思いました。二人についての話を私からするのは、立場も違いますし、迷惑になると……」
(に、逃げたい……)
レオランドが立って近づいてきて、ルナセーラは本能的に体が後ろに退く。距離を保とうと身を引くと、背中がソファに当たった。
レオランドがルナセーラの肩の横に手を付く。すると、至近距離で見つめ合う形になった。もう、逃げられない。
レオランドの碧い瞳に射抜かれる。
「ラドナに連れ去られた時は、いざとなれば自分でなんとかできると思っていたのではないか?」
「……そうですね。全力で魔法を使えば何とかなると、心のどこかで思っていたかもしれません」
レオランドの顔を見返して素直に答えると、次の詰問が始まった。
「俺が婚約者になってくれと言った時、どんな気持ちだった? 冷やかしだったのか?」
ルナセーラは思わず首を振る。
「冷やかす気持ちなんてありません! 最初は戸惑いましたけど、今思えば嬉しかったんです」
「嬉しかった……?」
予想外な言葉だったようで、レオランドは目を丸くした。
「前世では友人だったのに、恋人同士になって、恥ずかしい気持ちでいっぱいになりましたけど、私のことを好きになってくれて嬉しかったんです!」
「ルナセーラ……」
レオランドはソファから手を離すと、困ったように頭を掻いた。
「混乱しているようだ。ちょっと考えさせてくれ……」
レオランドは頭を抱えながら歩き、その場から退出した。




