第二十五話 前世の友人は自問自答する
レオランドは自室に入り、ソファに座り込むと疲れが一気に押し寄せてきた。
(今日は色々あった。ルナセーラが拐われたり、ラドナを捕まえたり……)
レオランドが「なぜ魔法を使ってすぐに逃げなかった」と問いただしたら、ルナセーラは「恐怖のあまり動けなかった」と答えた。でも、あれはきっと嘘だ。
恐怖のあまり身動きが取れなかったとしたら、追跡魔法を残すことはできないはずだ。追跡魔法は高位魔法だ。簡単に真似してできるものではない。
(……嘘をつく理由は、何だ)
なぜ、ルナセーラはラドナに着いて行ったのか。その場で厳しく追求できなかったのは、ルナセーラに嫌われたくない、と守りに入ってしまったからだ。
(ラドナにどうして着いて行くのかと聞いたら、俺の知っているルナセーラでなくなってしまう気がする)
まさか浮気……ではないなと考え直す。ラドナはルナセーラに一番を取られて憎んでいただけだ。ルナセーラとラドナの間に甘い関係はない。
(ルナセーラとラドナの接点は何だ)
ラドナの方が一方的にルナセーラに恨みをもっていたようだが、ルナセーラからの接点はないような気がする。同級生の師匠といった程度だ。
(あの……追跡魔法は)
レオランドは遠くを見つめて過去の記憶を呼び戻す。
──レオランド、新しい魔法考えたよ!
──これは何だ、足跡?
──そう、僕が迷子になってしまった時に、レオランドに見つけてもらえるようにね。
得意げに胸を張ったセドリフに、レオランドは呆れた顔をした。セドリフが歩いた場所が、足跡の形で光って見えるのだ。迷子になったら、この足跡を辿ればいいのだという。
レオランドは呆れたような顔をした。
──迷子って、子どもじゃないだろう。
──何が起こるかわからないでしょ? これは保険の魔法なんだ。
追跡魔法はセドリフが編み出したオリジナルだ。研究書にも載っていない。
そのオリジナルの魔法の仕組みに興味を持ったレオランドがセドリフに聞いたところ、身振り手振りを交えて説明してくれた。だが、難解過ぎて理解できなかった。天才の考えることは常識離れしているのかもしれない。
なぜ、ルナセーラがセドリフと同じ魔法を使うことができたのか。
ルナセーラ自身で編み出したとは考えにくい。魔法学院に入ったばかりの少女だ。魔法の応用を学ばなくては新しい術式を編み出すことはできない。
では、誰か師匠に習ったのではないか。ルナセーラに聞いたところ、師匠はいないらしい。その可能性も消えた。
(セドリフの弟子……? いや、年齢が違い過ぎる)
ルナセーラが生まれたのは魔法戦争の後だ。セドリフに直接教えを請うなんて不可能だ。
もう一つの可能性。それはレオランドにとっては考えたくなかったことだった。
(もしかして、ルナセーラの前世はセドリフなのではないか……)
前世という概念は、にわかには信じがたいことだった。
音痴。魔道具を見る時のキラキラした目。魔法の暴走をあっさりと止めた技術。ラドナは昔の同僚。
前世がセドリフだと考えれば、全てが納得できる。
思い返せば、ルナセーラとセドリフが重なって見えていたことは多々あった。
(もし彼女がセドリフだとしたら、どうして言ってくれないのだろうか)
レオランドは不信感を覚えた。でも自分のせいで死んでしまったのだから恨んでいるのでは、とも思う。
(俺は、セドリフのことも恋愛対象として好きだったのだろうか。……馬鹿を言え、あれは確かに友情だった)
「ルナセーラが男なら友人になれますか? ……って、まるっきり前世の状況じゃないか」
どんな気持ちでレオランドに聞いてきたのだろうか。冷やかしだったのか。ルナセーラの真意が見えない。
逆にセドリフが女だったら、ありじゃない。無理だ。ルナセーラだから好きなのだ。
でも、ルナセーラの前世がセドリフだったら、矛盾が起こってしまう。……友情は一体どこへ消えていった?
考え過ぎて頭が冴えてきた。
悶々と考えていたら、いつの間にか夜明けが来ていた。




