第二十四話 前世の友人に心配される
「あの……ラドナ様。私は魔法騎士団への就職は考えていませんよ」
火に油を注がないように慎重に言ったはずなのに、逆効果だった。
ルラドナは眉をピクリと動かして、ルナセーラを睨み付ける。
「なぜ、これほどの天才的な力を持っていて、魔法騎士団に入らないのだ!」
怒られた。確かに、魔法学院に入ったからには魔法騎士団に入るのがエリートコースだ。
しかし、ルナセーラは誰もが羨む出世は望んでいなかった。
「確かに国の役目を果たすことも素晴らしいですが、私は魔道具の開発をしたいんです。ラドナ様が第一人者で大変尊敬しています。ジョルシュの未来を邪魔をするつもりはありません」
「……なぜ、魔道具の開発をしたいんだ」
半信半疑といった様子でラドナは聞き返してくる。
「私の住んでいる田舎は魔法を使えない人が大半を占めています。その人達の暮らしを便利にしたいんです」
「ふざけるな! 人々の暮らしを便利にしたい? そんなことは誰にだってできる!」
ラドナはナイフを持つ手を震わせた。
「いいえ。魔道具の開発は、誰にでもできることではありません」
「そんな言葉を聞きたいのではない! 私は……同じ魔法軍に天才がいたことに絶望した。……君は二番目になる人の気持ちがわかるか?」
前世の魔法騎士団ではセドリフがいたことで、他の才能ある者の存在感が霞んでしまったような気がする。セドリフさえいなければ、ラドナは天才魔導士として名を馳せることができたはずだ。
悔しかっただろう。惨めだっただろう。
しかし、同情したところでラドナの怒りの感情が消えるはずがない。
ルナセーラが一番で、ジョルシュが二番であることは変わりがないのだから。
「すみません。……私は二番目になる人の気持ちがわかりません」
「くそっ……くそう!」
ラドナは手の血管が浮き出るまで、ナイフを強く握った。
「一番であることを謝りはしません。……だって、ラドナ様は望んでいないことだと思うんです。だからといって、どうしたらあなたの気が済むのかわかりません」
「なっ──」
その隙をレオランドは見逃さなかった。ナイフを蹴飛ばして、ラドナの腕を捻り上げる。
「くっ……」
ラドナは抵抗することなく、されるがままになっていた。
「ラドナ様のしたことは許されることではない。一足遅ければ、ルナセーラの命が危うかっただろう。しかるべきところの裁判にかけて、判断を仰ぐ」
レオランドの行動は正しい。しかし、ルナセーラには腑に落ちないことがあった。
「あなたが全て悪いとは思っていません。私がいなければ、ジョルシュは一番だったでしょう」
ラドナを擁護をする発言に、レオランドは眉をひそめる。
「ルナセーラ。危うく死ぬかもしれなかったんだぞ。よくそんなことが言えるな」
「ラドナ様の教育は、全く間違ってはいなかったと思うんです。素晴らしい弟子です。どうかそれだけを伝えたかったんです」
ラドナは不審そうに顔を上げた。
「……一番であることは、何より重要だと思うがな」
「十五年前の魔法戦争のような非常事態が起これば、一番かどうかなんて関係なくなってしまいます。私は、ただ周囲の人達の役に立てる存在であればいいと思います」
非常事態とは、戦争や自然災害のことだ。セドリフは魔法戦争で命を顧みず尽力した功績を讃えられたが、果たしてそれは正解なのかはわからない。一番であっても命がなくなれば意味がなくなる。むしろ功績が残らなかった人にも光を当てるべきではないのか。
「考えが合わんな」
「……そのようですね」
ラドナの視線がルナセーラを射抜いてくる。負けないように見つめ返すと、ラドナはそっと瞳を伏せた。
ラドナの身柄は後からやってきた騎士団の人達に引き渡される。団員たちは有名人の犯罪に驚きを隠せないようだった。
その後、ラドナはしかるべき裁判にかけられる間、謹慎を言い渡された。
☆☆☆
二人だけになると、レオランドからの追及が始まった。
「なぜ魔法を使ってすぐに逃げなかった」
(そうだよね。それを言うよね……!)
ルナセーラは頭の中でしどろもどろになりながら、言葉を捻り出す。
「それは……恐怖のあまり使えなかったんです」
「……追跡魔法を発動できるなら、目眩しの魔法ぐらい使えたんじゃないか」
「目眩しの魔法は、間に合いませんでした……」
捕まってしまった以上、目眩しの魔法を使うタイミングは既に遅かった。
セドリフしか使えない強力な魔法だったら、ラドナの手を逃れることは可能だったかもしれないが、ルナセーラでは試したことがなく手加減ができない。下手したら、王城ごと吹き飛んでしまう可能性があった。
「ルナセーラ。俺が来なかったら最悪、死んでいたかもしれない。もう、こんなことには巻き込まれないでほしい」
(ごもっとも。何にも言い返せない……え?)
ルナセーラはレオランドに抱きすくめられた。
「レ、レオランド。苦しい……」
「もう、人を亡くす悲しみを味わいたくないんだ。……無事でよかった」
「……ごめんなさい」
レオランドの目の前で亡くなったセドリフの二の舞いになるところだった。
(もう、レオランドの苦しむ姿は見たくない)
ルナセーラが出会ったばかりのレオランドは、セドリフが死ぬ場面を夢に出るように魔法をかけて、不眠の状態だった。
悪夢さえなくなれば、レオランドは幸せに暮らせるのかと思ったが違った。
無鉄砲な行動の結果、間一髪のところでレオランドに助けられた。
これ以上はレオランドに心配はかけられない。
ルナセーラがレオランドの背中に手を回すと、しばらくそのままでいた。




