王伝編集官 44話
「それじゃ、後よろしくー」
食事の後片付けでも頼んだかのようだ。フラン(すでに脳内呼び捨て)が所定位置に音と閃光で目立つだけの雷2本を落とし牽制をかける。青い髪をふわりとひるがえし振り返る。そしてそのままウィル王子達の背後に戻り、お洒落な白いガーデンテーブルセットに座り優雅に茶を飲みだす。さっきまで着ていた正魔道師のガウンもどこいった。黒く仰々しいそれがないとどうしようもなくリゾートドレス姿だ。過剰戦力だから、要所ごとの出番なのだが戦場感はまったくない。ただルクスからみれば得体のしれない緊張感を覚えるのだが。誰一人として楽はさせませんよと言いたげな笑顔に。
森から湧き出る砂煙の主達はそれらを避けるように進路を変えた。もうもうとあふれる砂煙は3つの塊に別れ次第に騒音も大きくなってきた。そこにキラキラてかてかしたモノが見えてきた。流線形なラインに鱗をもつそれ。
「鎧猪10!3・4・3に展開。各自戦闘開始!」
背中に人々の日常を守るという責を感じつつ、ウィル王子は剣を天に向けて掲げ号令を発した。フランはちらりと横に立つ若者に目を向け、ふーっとため息まじりに淡いピンクローズ柄のティーカップから口を離した。クラウセン・イーデン、フランの弟は現在緊張の真っ只中。笑顔のまま眉間に皺を寄せ、困った顔というどうしようもない表情のフランは問う。
「クラウ、あなたもう少し肩の力抜きませんと長時間もちませんよ」
「そうは言われましても、これが昇級試験も兼ねているとなると気が抜けません」
だからこそ普段通りにしてほしいのだという想いは香しいお茶とともに飲み干した。このクラウという子は姉より少し薄い青の色彩をまとい、顔立ちも麗しいと自ら称える人に似ているのに中身はそうでない。フラン曰く、「まじめでいい子なのよ」と言う。しかし続けて言ったのは「でもそれが欠点でもあるのよねぇ」
当のクラウはというと、なんかまずい物でも食べたかのような顔。うちで出す食事に文句でもあるのかと問いただしたいが、それこそ試験の邪魔なのでこらえるルクス。見習い魔導師クラウは2体のゴーレムの制御中なのだから。試験内容は試験官の裁量に任せてあると聞いたが。これでいいのか?ゴーレムは魔導院に入ってから扱うものだ。正魔導師しか入れない魔導院、見習いの昇級試験がこれか。気の毒きわまりない。
「フラン嬢、クラウの課題は先行しすぎではないのか?」
「まだまだ足りませんわ、ウィル様。ラディアス様の元に送るまでに10体は使えるようになりませんと」
我らの友に安息が訪れるのはいつになるのやら。最初の戦端がゴーレム達によって開かれた。ブロンズの肌色をもつゴーレムは3mの身長で、さらに見上げる体躯の鎧猪と衝突した。どごーん、どごーんと左右からの衝撃波で肌がピリピリする。そのままゴーレムは鎧猪の頭を捕まえ締め上げる。ヘッドロックというやつか。体術は専門外だな。
「グモォーーーーー」
ああ、いやだ嫌だ。不機嫌極まりない怒声。動けないことによる不満で暴れるもかなわない。ゴーレムは倒すためでなく、捕縛のみに徹している。それが耳障りな怒声がやまない原因なのだが。筋肉の動きのない身体だが、逃げられず絞めすぎずの制御の状況はクラウの顔を見ればわかる模様。うん、必死。フランの言うようにあれではすぐ疲れるだろうに。しかしフランは別の件でまたため息をつく。
「ごめんなさいね、ちょっと静かにしてもらえるかしら」
世の中そんな都合のいい事がある。喚く獣の音だけが消えた。ゴーレムと獣の押し合う音、硬質の肌と背の鱗のギチギチぶつかり合うそれはまだ聞こえる。その横にはもう1体緑色の蔓で足留めされ口も塞がれたあわれな獣。すでにフランは2体拘束しているのだ。これで騎士隊と冒険者達は安全に1体と対峙できた。
そして正面の4体。
「ぬるいわ」
ペシはそう言う。すでに全身が現れこちらに向かってくる。そのどれもが目は血走り、口から泡を吹いている。そうこの10体は『恐慌』状態なのだ。本来この鎧猪の生態は敵に対し、背中の強固な鱗で丸まり突進攻撃が主である。それが弱点の頭部をさらして突進とは死にたいのかと問いたい。「ほんとぬるいし」とまた言ったペシ、うなずくディー。
ペシは宙に舞う。獣の頭に着地し、お気に入りの曲刀双剣で首を切り落とす。
ディーは向かってくる鎧猪の口に無表情に剣を押し込める。
ウィル王子とルクスも危なげなく1体しとめた。
正面に残るは1体。他の9体よりさらに巨大なもの。フランの風にやんわり留められ怒りも最高潮。しかしその声は却下されて。改めて4名は対峙する。ペシは「ん~」と面倒そうに振り返りフランに頼んだ。
「あれ、邪魔よねぇ。取って♪」
まだまだ戦闘場面続くのです。
場所は次第に街へと移動しますが。
そうそうゴーレムさんですが外見は彫刻ほどは整っていません。
フランさん曰く、「筋肉はやはり生よねぇ」だそうで。




