王伝編集官 42話
第1部隊、ウィル王子の陣営。かがり火を背に森をじーーーっと見つめる人影。腕を組み考えにふけっているようだ。ゆらんゆらんと規則正しく動くそれは茶色い。反対に頭の上の茶色いそれはとくに動かない。
「聡いやつは動き出したか」
まぁこんな大勢で野営してればそうなるか。目を細めてそう思いながら「ごはん、ごはん」と、くるんと振り返り笑顔で賑やかな景色の中へ戻っていった。
そわそわ、一部の人たち以外の表現。特に若い衆。アラスティ国第1王子ウィルバートの部隊に参加できてうれしいのだろう。中等部の学生の感想なんてそんな感じか。視線の行き先でだいたいはわかるが。ウィル王子付き従者のルクススィード・ホルツとしてはそこまでゆるくなれないぞ。柔和で理智的なウィル王子だからこの人選になったのではない。そう思うものの3人は3様に目立つ。
一人目は ディナリィ。ウィル王子と私の同級生。周囲の評価はともかく仲のいい友人の一人だ。
二人目は フランセーレ・イーデン。ベグニルト魔導院所属の正魔道士。青髪と同色の目。正統派美人。
三人目は ペシアーティ。レオングラディ獣人王子達の従兄妹。茶毛・金目で18才だがディーより小柄。
5人で食事中、それとなく視線が集まる。その手元、その口元。その顔に。
「なに?ルクス。これ食べたい?」
「いえ、お気になさらず。あなたの好物を取ったりしませんよ」
そう、と素直に食事を再開する。その表情は普段の学院の食堂よりおいしそうな表情だ。なぜなら女性3人が食べてるのは騎士達のものとはちがう。彼らの食事は大鍋で作る肉いっぱいの煮込み料理。そしてパン。ルシネイラとマラストーリスからも参加しているので3ヶ所で作っているが調味料にちがいがあるのでそれぞれ食べ比べもしていて、それもいい交流になっているようだ。
「ディーちゃん差し入れありがとうね。私このにおいだけでお腹いっぱいになりそう」
「フラン殿、申し訳ない。通常の討伐演習と同じ仕様なので食事まで気が回らなかった」
「ウィル様、そんなことありませんわ。おかげでカフェ・ディオンのメニューで夕食を取れましてよ」
「うんうん、このチキンのもエビのもおいしー。夜は軽めだからちょうどいいよ」
事前に初日の夕食を持ち込むと聞いていたが、ディーによると3人分になったのはディオン氏の提案だそう。あの人は相変わらず女性の好みに敏感だ。自分はさっぱりわからない。それに学院の食堂の仕組みさえ利用してるのだから。
ここで少しルクスについて触れないといけない。彼は5才からウィルの学友として共にいた。そして学院に入ってディー達とも過ごすようになった。ただ一緒にいる時間は1年から実習に参加していたディーが一番多かった。もちろんそれを言い訳にしてはいけないのだが。
「ディーはなんで両手剣にしたの?」
「ん、振り回すの楽しいから」
「ディーは毎日の鍛錬いやじゃない?」
「ん、いやじゃないよ」
「ディーに勝つのが目標だ」
「じゃ、負けないようがんばる」
そういう日常でルクスの中にある女の子像はディーが基準になった。そんな事態は彼のみ。まず嘆かわしいこと。しかしウィルも友人達もあえて否定しなかったのも少し、ほんの少しだけあったのですよ。
なのでルクスィードという14才の少年は目の前に和み系おねーさんや小動物系に見えて年上という美人がいても女性という見方をしない。ましてディーが好きだとも思ってないので今後が心配でしょう。ウィル王子はその辺も考慮している。ルクスには少々強引に迫る強気な女性が合うだろうと。そして彼には心当たりがある。ウィルバートという人は先まで見越している。まだこのままでいいのだと。
久々に隠し称号が出現
ヂィオン氏 「おかん」
ディナリィ 「風来坊」
ちなみに隠し称号は作中に出ないものです。