王伝編集官 41話
第2部隊、指揮はジェノス王子。野営の準備も済み、かがり火の下に集い先に休憩を取る班。アンナは弟キセと食後のお茶を飲んでいた。なんだか浮かない表情だ。冷えないようマントを肩にかけ盛大にため息。
「はぁ~」
「どうしたんです?姉さん」
「なんだか、ここがもやもやするのよ」
ふにょん、そう擬音が聞こえるやつは邪なのだろう。握り締めた手で押さえたそこに他意はないのだから。ほら、弟君とジェノス王子は気にしてないじゃん。
「えっと、いつからかな?」
周囲の視線が痛いのか、性格と同じ控えめなため息のキセは聞かざるを得ない。彼にとってアンナは姉だが母にも感じるほど年が離れている。なのに時にそれが覆る。そう、こういう時に
「そうね・・・・・あれはリノ君がユジィからイチゴをもらってきた時ね」
アンナはその後ユジィにイチゴの礼を言いに行って、その時の彼女の様子を話しているのだ。キセもその話を聞いていたので通じたのだが、周囲には誰の事を話しているかが抜けている。するとその言葉の意味は全然変わってくる。それに気づいたキセはあわてて聞きなおす。
「ね、姉さんそれって」
「やだ、これ以上言えないってばー」
ペシっと軽い擬音でキセの肩をはたく。頬を薄赤く染めながら。だいじな友人のことを言いふらす訳にいかないの。キセにはもうなにも言えない。この何気ない姉弟の会話は後にアラスティ中に密かに伝わる。
ひとつ、アンナさんは年下が好みだということで現役学院生にどよめきがはしったとか。
ひとつ、その事で主に上層部でのリノリスの評価が跳ね上がったとか。
誤解なきよう、アンナさんは気配りの人。ちゃんと見てます。自分のこと以外は。
「ジェノ様、ご心配の種はあちらのかがり火ですか?」
「戦力的に問題がないのはわかってますが、こういった大がかりな討伐は例がないので」
「ウィル様のご学友ディナリィさんは現在学院内で最高の剣士ですよ」
闇夜の先には遠く最前線、兄のいる第1部隊の明かりがかすかに見える。それほど離れていることが心配なのか心細いのか、かがり火の炎は心を映してるかのように揺らめいていた。
そしてアンナは彼女、ディナリィ・シューデホーンの顔を思い浮かべる。14才の女の子という括りから見れば大柄で、もうアンナの身長に迫る勢いだ。肩にかかるくらいに切りそろえられた白銀の髪に鋼色の瞳は顔立ちがきつくないので多くの人から好印象を受ける。地道な鍛錬を重ねたため是非とも騎士にと勧誘されているが、今のところ返事を保留していた。今回の討伐が彼女にいい刺激になるのをアンナは知っていた。
「そうですね、まだ一度も勝てたことないですから」
「あら、ウィル様も苦戦されてますよ。『ディーを超えなければその先のエド兄上の背中も見えない』と言ってましたから」
「ウィル様はルクスにも言わないような話を姉さんにはするんですねぇ」
キセは知らないが、かつて内々にアンナパパに打診があったのだ。エイドリアンのお相手にと。それは成立しなかったがウィル王子もジェノ王子も理由は察している。基本世話焼き気質なアンナはエイドリアンを尊敬こそすれ、旦那さまには思えないのだ。2人の王子も好ましく思っているがやはりお姉さんだと思う。
「2人ともそろそろ休みましょう。明日早いですよ」
各自のテントに向かう途中、アンナはふとウィル王子達のいる方角を見ながら笑みを浮かべる。ディーちゃんも今ごろこんな感じかしらねぇ。
「あのっ、ペシアーティさん。そんなに触られては・・」
「ペシって呼んでちょうだい。ふふふ、すべすべでほんと気持ちいいわね」
そこは女子3人で楽しく話していたはず。ついうっかり振ってしまった話題がディーを混乱させたのだった。
次回ウィル王子周辺。
人増えてきました。登場人物まとめはぼちぼち。
異伝に載せる予定です。




