王伝編集官 31話
「こらぁー、まてまてー」
(待てませーん。ごめんなさーい。なぜ僕は追いかけられているのですかー?)
ほんの少しふくよかなお姉さんがほうきを振り回しながら追いかけてくる。対してリノリスは自分より背の高い向日葵を抱きかかえて逃げている。早朝の閑静な住宅街、各庭先には色とりどりの花々。昨夜はアンナ&キセ姉弟のご実家にてお泊り会だった。それがなぜこんなことに・・
ラディ王子は急な来客のためこちらでお泊りしなかった。そして今朝はみんなでお礼にと家のお手伝いを申し出たのだった。リノリスは庭の花壇の水やりを可憐なお花を愛でつつ指先を振る。細かい水の粒が花に直接かからないようかけていく。鼻歌に合わせて指揮棒を振るように花壇を見つめていたので、周囲への注意は減っていたのだろう。隣家との生垣を乗り越えてやってくる人影を認知するのが遅れた。
「はいはい、ごめんくださいよー」
「はい、これどうぞー」
「え?」
声がした方へ顔を向けると、至近距離に向日葵の花。そして声は風と共に遠ざかって行った。後ろ姿から見るに年はそう変わらない少年2人。残されたのは花。なんだろう、これ。そう思うとすぐに次の声が聞こえた。
「そこの少年、そのまま動かないで!」
さすがにスカートで生垣を乗り越えられないのか怒りの顔をした女性は一度門を出てこちらに来る。逃げないようきつめに言ったため、逆にリノリスのなにかに触れてしまった。そう、反射的に逃げてしまったため、花をもったままの逃亡劇が始まったのだった。少年達が去った方へ走る。それこそ、同罪と見なされる行動だというのに。
幸いというかよそ様のお宅を通過しても、まだ住民に見咎められない時間帯。途中で道路に出て隠れる所を探す。住宅街では見知らぬ子共は目立ちすぎだろう。商業地区まで行けば時間もつぶせる。いい匂いを頼りに路地に入るとふいに足元が浮いた。誰かに抱きかかえられたのだ。
「静かに」
「もごもご(だれですー?)」
「通りすがりのお兄さんだ」
「もごもごもご(僕悪いことしてませーん)」
「知ってる。この子らに聞いたよ」
「もごもご(降ろしてくださーい)」
「巻き込まれたんだね。これ食べる?」
口を押さえていた手を離すと、答えも聞かず魚の串焼きを鼻先にくっつけた。魚の香ばしさとハーブソルトのさわやかさで、つい開いていた口は負けていた。(知らない人にもらったものたべちゃ・・)とか聞こえない。もぐもぐ。んふー。もぐもぐ。えーっとなんだっけ(知らない人についていっちゃ・・)
「こっちのお肉もおいしーよ」
もう一人のお兄さんがくれた。赤い髪の温和そうな笑顔。背後にいたお兄さんを改めて見上げると被っていたフードからこぼれる髪は金色。2人ともこの街、いやこの国の人でない。若いけど冒険者さんだ。でもなんか変だなぁ・・
「それじゃ、これ食べたら家に帰ってちゃんと謝るんだよ。お花はこんなことしたら枯れてしまうからね」
「この子にも謝ってね。間違えて怒られたんだから。」
やんちゃそうな子供たちはお姉さんが大事に育てていたお花を抜いてしまったとのこと。見つかって逃げ出したところリノリスに大きい向日葵を押し付けてしまった。「ごめんなさーい」と謝ってくれた顔は串焼き食べながらで悪かったと思っているんだかどうか。かくいうリノリスも魚の次のお肉にかぶりついて、もう忘れてしまった。子供たちが笑顔で帰っていくと路地には3人。なんかまずい状況じゃ・・
「君も災難だったねぇ、早く帰らないと家の人が心配するよ」
「あの、お名前聞いても?」
「僕はエアルス、そっちはシエル。」
「リノリスです。串焼きありがとうございました」
ペコリとお辞儀すると、照れくさそうに笑う。なんの含みもなさそうな一見いい人。いあ、悪い人の感じがするわけじゃないけども。ふつーに名前聞いて答えてくれて、偽名ではない。うーん、とりあえず帰ってよさそうなので考えるのは後にしよう。




