王伝編集官 おじ様たちの饗宴 ①ナカヨキコトハウツクシキカナ
3大陸による初会合の後、カストルファン大陸の各国代表による2次会。ここでの出来事はどこの国の歴史にも残らない。なので彼らが自伝をひっそり残す。今宵は誰がどのように記すのだろうか。
「それであの後どうなったんだ?」
一通り酒が行き渡ったのを確認し宴が始まる。もう何度目かのことなので、給仕はおらず各自が手慣れた様子だ。だれも相手の役職や立場に関係なく話す。そして名詞も出さずにゆるりと問うたのは友を気遣う声。アラスティのトップ2は今ただの個人、そして親、友人の顔だ。周囲も訳知り顔でのぞき込む。
「彼は次の日訪ねてきたよ。必ずお嬢さんに相応しい男になってみせると。別に反対してた訳じゃないんだがな。」
「通過儀礼みたいなもんだろ。こっそり王妃候補に挙げていてよかったな。」
「おい、こっちは大変だったんだぞ。娘に泣かれるわ、嫁に詰め寄られるわで。」
「彼に足りなかったのは自信だ。だれかが励ましたり慰めたりして得られるものじゃない。彼の計画に参加するにはそういう揺るぎないものが必要だからね。」
「一般人ならまだいい。相思相愛であちらにつれて帰っても。だが国の中枢を担う者はだめだ。だがなぁ、そういう者こそ狙われる。」
盛大なため息が辺りから漏れる。12年前から尽きない命題。”ぜひ嫁に”との打診に加え、最近は”婿はダメ?”とか増えたし。なんとか穏便に諦めてもらう。これがここのメンバーの総意だ。
「双子の姉妹の留学の打診があってな。能力を封印するからと言ってる。それでも無理だ。生まれた時から姉の影響が強すぎる。女性嫌いにならないよう気を付けているが、いい候補はなくてな。」
「あの子はどうなんだ、3人組の一人。アクアちゃんだっけ。他に好きな子いるのか?」
「好きな子はいないようだが、姉ポジションだから発展するかはわからん。この国でいい子が見つかるといいんだが。」
「今やってるのでは女友達になるぞ。客の子供を当たってみるか。」
「こちらの学院のキャンプに参加してもらいますが、例の王子をどう抑えましょうか。」
「うちのリンシェラは変に聡いから止めるどころか後押ししそうだ。」
全員が一人の顔を思い浮かべ「女難」という文字が張り付いた。この国での修業が将来の役に立つ。しかし強すぎる薬は毒ともいう。彼女たちが苦手なのは自分よりかわいいもの。それが白い王子には逆効果。
「そういえばうちの国に似た境遇の者がいましたな。人外限定の魅了持ちで、「観察」ももっているのに王伝編集官になれなかった。現在王立図書館の司書をしていますが役に立ちましょうか。」
「人外の範囲が獣人族や魔族も含まれるのならそうでしょうが、試すのも酷ですなぁ。効果の一部を封印できるようラディ王子に打診しますか。」
「彼は日常生活も苦労してるので喜ぶでしょう。幼体の飛竜やらに連れていかれるのも珍しくないので。」
「そ・それは難儀な。連れていかれるとどうなるので?」
「巣に連れて帰って飽きるまで舐めまわされるそうです。まぁ遠いと送り帰してくれるのですが。」
想像したくない絵面だな。だれもが呼ぶのをためらう。酒もそろそろ尽きそうなのでお開きだろう。おじ様たちの苦労は今夜も酒で紛らわす。大人の特権ってやつでした。
何気ない日常は大人たちに守られているというお話。
地震で2晩電気のない生活をしました。幸い水道・ガスは無事でしたが他の皆さんの早期復興を願います。




