王伝編集官 26話
「おにーさんもてないー」「デートにちこくー」「おはなよー」
言われた青年は鼻の穴をふくらませた興奮顔で、「ありがとうー」と走り去った。彼女たちはその背に「おだいじにー」と見送った。そして次のお客さんが差し出す。小妖精ネリィにふわふわのマシュマロを。
今回の模擬市、一番の話題はラディ王子の独壇場となった。物品販売ではなく、各方面の有名人を招待した。魔法陣による「幻影召喚」。簡単に言えばテレビ電話と言えよう。それを一部開放し直接接触も可能である。例えば握手とか。外からは魔法陣の中に干渉できず、中からのみの仕様だ。さきほどのネリィ達がそうだ。おやつと引き換えに占いを行う。口に出さずとも聞き届けられ、適切な助言をもらえるので、恋多き若者中心に大人気だ。次に人気なのは
「お会いできて光栄です、王女さま」
「まぁ、ありがとう。きれいなお花ね」
そう言って握手する女性の手はしっとりぬれている。いやびっしょりだろう。それでも相手は気にせず両手でやさしくつつむ。本来なら会えるはずもない、南方群島に住まわるマーメイド族のお姫様だ。魔法陣はまるで水槽のように水底にいる姫を映している。きらりきらりと光りを弾く水の揺らぎと、流れる金糸。その曲線より艶やかな青い尾も、薄衣からのぞく肢体も健全な男衆の目もごちそうさま。花を一輪手渡す行為でなぜにああも盛り上がってるのか、お子様なリノリスにはまだよくわかっていない。
(あのドレスの生地、お気に召していただけてよかったなぁ)
「お疲れではありませんか。少し休憩いたしましょう」
「ありがとうございます、ラディアスさま。さきほどのゼリーとてもおいしかったですわ。」
「お口に合いましたならまたご用意いたしますよ。」
本来なら高貴な姫を見世物のごとくと言われそうだが、ラディ王子は開発した織物をサリューレ織と名付けその名を持つ姫に贈ったのだ。目の前の姫様は頬を赤らめうれしそうだ。外交とは女性のハートもゲットするのだとリノリスは変な認識をした。
ほんわか気分はここで終わる。さっきも見た。そもそも出現する所も見た。なのに足がすくむ。だれもが思う。「なぜ」と。ラディ王子だけがにこにこしている。他の有名人ならまだわかるが、交流がある中で学院の広場を彼?一人で半分埋め尽くすのかと。やはりなぜと思う。眠っているとはいえ校舎の2階に届きそう。光の元で見れるのだろうか、赤い。ログサもサンドものんきだ。
「でけー」「すげー」「・・・」
最後はロビーオ。色んな経験てドラゴンと遭遇も織り込み済なのか。眠る火竜の顔の前に立つと待っていたかのように目を開く。深紅の瞳に映る少年は何も言わない。以前より表情が出るようになったが今は静かなまま。すると竜のほうが笑っているのか牙が揺れるが怖いって。息使いが荒く、直だったら熱いんじゃなかろうか。「どれ」とぬーっと腕を差し出してきた。
「いつか来たら歓迎しよう」
ちなみにカストルファン大陸に竜は住んでおりません。大きいのはね。繁殖地はいくつかあるとのこと。人に行ける場所じゃありませんけど。どうやって行くんだろう。ロビーオ君は竜に頭をなでられている。もはや身内扱いだ。リノリスははポケットの石を握り思い出す。ロビーオ君と初めて会った日を。
(じゃぁ、あの子がそうなのか。僕はどうなんだろう)
この魔法陣は販売用ではございません。映像による遠隔会話は存在してますが、一部とはいえ直接触れることはできません。あくまでおもてなし用であります。




