王伝編集官 白紙の創伝 ③
今回はルシネイラ国ができる前のおはなし。
海を見るのは好きだった。だけど砂浜にいると潮の匂いより魚の匂いが強くて、よく森に気分転換という名の探検をしに行ってた。
「坊、また森か。気ぃつけて行ってこいよー」
「うん、お土産採ってくるー」
漁に使う網を直していたおじさんに手をふって答えた。ここは小さな漁村で住人は100にも満たない。みんな顔見知りで家族のようなものだ。村を抜け日差し明るい林を駆け抜けると、頭にふわっと何かが乗る。森の子たちだ。
「おはよー」「あまいよー」「たいりょー」
「おはよー、はいこれ」
「まっすぐー」「たいしょー」「まけるなー」
なぜかこの子たちは自分のことを「たいしょー」と呼ぶ。今よりもっと小さい頃、森で灰色狼たちに囲まれたとき怖くて泣き叫んだ。後になって聞いたら無意識に「威圧」と「服従」を使ったと。それ以降彼らは従順になり背に乗ってあちこち行くようになった。今日の相手は
「よーし、かかってこーい」
「ケケケー」「ウケケー」「ケラケラー」
複数の白い塊が一斉にとびかかる。棒切れ一本でそれを迎え撃つ。空いた片手で羽根をむしる。10才になったばかりの子供が、抱きかかえられない大きさの鶏たち相手に大乱闘。でもよく見れば一方的でもない。つつかれ薄汚れてきたが、負けん気の強い眼は輝く海の色。短く切られた髪は適当な手入れだろうにつやつやした金。ずるいぞお子様め。むしれた羽根くっつけてるし。顔だけ見てれば楽しくたわむれてるっぽいが、棒切れでみごとに鶏キックをかわしている。あー3匹が頭に着地した。腕も顔も擦り傷だらけだ。まさに「お山の」なんとかだろう。汗も息も十分堪能したころ
「今日のところはこのへんでかんべんしてやるー」
「ケッケケー」「ウッケケー」「ケッケラー」
お互いの意見なようだ。戦利品?な羽根を残して彼らは去った。しばらく休憩したのち、また森を駆けまわりキノコや木の実を集めた。同じ年ごろの子は通常家の手伝いや畑仕事をしている中、これらのお土産は好評である。狼を乗り物替わりにしているこの子は、森の一人歩き?が村公認。帰り道、森の出口で
「るぅしぃー」「うみからへんなのー」「いっぱいー」
「え、あぶないの?」
そのあとは聞かずに急いで帰る。だからそのあとの言葉を知らない。
「おっさんー」「いいやつー」「けとばすー」
ご無体を働くのか。そうか気の毒に。
日が暮れかけると浜には人影はもうない。空はオレンジ・ピンクが混ざり合い魚の匂いさえなければムード満点。そこへ息を切らした子供が到着すると、沖には2隻の大型船が鮮やかな景色に溶け込んでいた。浜は遠浅なので近くまで来られない。そういう大きさなのだろう。ひゅっと涼しい風が通りすぎると船影から小舟が近づいてきた。2人乗っているようだ。なんだろう風とちがう寒気がする。初めて”よくわからないもの”を見た。
「おーい、坊主この村の子かー」
「・・・」
「あ、逃げた。お前の顔が怖いんだろ」
「失礼な、ちゃんと笑ったぞ」
だから怖いんだよ。とは言わなかった。2人組のでかくてごつい方はむきむきマッチョでまごうことなき海の男。対してもう一人は、日焼けこそそこそこな好青年。どちらも20台半ばで子供から見れば知らないおじさん。ちゃんと教育受けてれば変でもない対応だった。しかし青年は逃げた理由に心あたりがある。わからなかったのだろう、今までそんなことなかったのだから。「王印」でも見ることができないのは・・
「あれがルシネイラか。依頼とはいえ、あれを王座まで連れていけとかどんな無茶ぶりだ」
「我々だけでは手が足りませんね。淑女教育できる人員要請しないと」
とりあえず今夜は久々に陸で眠れる喜びで満足し、薄汚れた山猿という感想を投げ出すことにした。
「修正なしで載るんですね、これ」
「本伝なんてだれも見ねーよ」
「禁書行きです」
天印所持者イストラン 王伝編集官オズベリー




