王伝編集官 24話
意味とはなんだろう。空っぽになった器を新しい意味で満たせば解決するだろうか。耐えきれなくて全部吐き出したのに、そこに望まない意味を押し付けたら苦しむだろうか。それなら意味など必要ない。空っぽのままだと、取り込んでしまう。そして自分ではない者になってしまう。だから柔らかいもので埋め尽くそう。痛みを感じないように。
「編入生のロビーオ・サンヒロール君です。みなさん仲良くー」
意図的にか、先生はごく簡単に紹介された。そのお顔も髪も目も、無機的な表情でせっかくの魅力が全然出てない。特に危険なのは目だろう。周りは「クール」「知的」「哀愁」とかありがちな表現だけど。何もない。その目には何も映ってないように見える。軽く頭を下げ言われた席に着くのだから盲目ではない。
(これが「感情抑制」なのか。初めて見るけどあの時より怖いな・・・)
恐らく解除しても変わらない。長くかかるだろうと、リノリスはラディ王子をチラ見する。とくに気にしてないようだ。いつもながらと感心して、テラを見ればこっちは満面の笑みだ。もっと怖いし。忘れよう。そうしよう。
初日は自己紹介と昼食を一緒に食べるだけにした。休日の歓迎会までは学院内の案内をみんなで受け持つ。まぁ、主に面倒見がよくて人当りのいい、さらに相手に合わせられるという点で、アクアの出番が多かった。
ロビーオ君の住む所に関してはいくつか案があったが、到着時に泊まったマリーの宿で問題もなかったためしばらく滞在することとなった。不特定多数の人と接して慣れてもらうのと、歓迎会がそこで行われるからだ。そしてそのまま宿の大部屋でお泊り会もする。ラディのクラスに学院の寮を利用している生徒がいないことの対応だった。初等部はまだ親元にいるのが望ましいので、寮を使うのは中等部の生徒ばかり。さらに言うと研究院を目指す者、そこにいきなり10才の子供が混ざればさぞ寂しいだろう。そう配慮したからだが実際は、寂しいどころか・・・サンドやログサがよく泊まり込んだので心配はなかった。
「で、そろそろ会えそうか?」
「だめです。まだ解除できません」
「そうか・・・」
まったく同じ会話が数日、国王とラディ王子との間で交わされている。いいかげん何とかしないと、こっそり見に行きかねない。リノリスはおろおろしていたが、ラディ王子はそれがいいと判断したようだ。曰く、対面は許可しないが当人に知られない範囲で見るのはいいと。
「ですが、歓迎会ならこっそり混ざってもかまいませんよ。」
王はロビーオ君の生い立ちを知っている。この国、というかラディ王子に託した人物も経緯も。我が子2人は残念ながら普通の親ならいやというほどする心配をさせてくれない。母というのは育てる手間さえ愛情を注ぐ行為なので、不満も少ない。なぜ出来が良くて不満がられるかはともかく。かくて王の庇護欲はすべてロビーオ君に向かう。とてもとても満足そうな王に、父の顔と重なるリノ君なのでした。
(どこの「お父さん」もそうなのかな)
---幕間--- 下校時 ロビーオ、アクア、マリー
過保護だろうか。1つ年上のロビーオ君を2人で挟んで手をつなぐのは。リノ君たちみたいなスキルはないけど一緒にいてわかったこと。表情はないけど周りをちゃんと見てる。今目線が泳いだ。匂いに反応したのかな。屋台から良いにおいがするし。でも晩御飯あるから好きなだけって訳にいかないか。
「ロビ君どれか食べよっか。」
「これ、いい?」
お肉やらの匂いが勝ってる中、彼の選んだのは。模擬市で私たちの出したあれだ。常設の販売になったからうれしいなぁ。3つ買って1つ渡すとぱくっと食べた。アクアと目くばせして自分たちのを半分にする。
「これね、甘さが違うの。はい、あーん」
お、びっくりしてる。わかりにくいけど。続いてアクアも差し出す。食べたらうつむいてしまった。まだロビ君は食べ終わってないから、手の代わりに腕を組もう。アクアはしないんだ。代わりににこにこしてる。私は兄妹いないからこういうのたのしー。はやくロビ君の笑顔見たいなー。