王伝編集官 25話
「そのとき暗がりから青白く血まみれの生首が――――」
「いぃぃやぁぁぁ――――――――」
話の一番盛り上がるその時にサフィ本気の悲鳴が響いた。隣りで語り部だったログサが音波攻撃に耐えきれず頭を抱えて唸っている。わりと近かったリノリスも頭がキーンとしてくらくら。なぜこうなったのだろう。始まりは和やかなお泊り会だったのに。
歓迎会の時点でのロビ君はまだ緊張してたっぽい。仕方ないと思う。「飛翔するカモメ亭」は夕食時。周囲の席のごついおじさん吞兵衛が一日で一番元気なのだから。しかし彼が気にしているのはその中に変な人がいるから。服装は周りに溶け込んでいるのに時折熱い眼差しを向ける。涙をぬぐう様はもう、不審者まる出しです。優雅にグラスのお酒飲むとかナプキンで口元拭くとか誰もしてませんて。
(だめですよぉ、動きが全然ちがいますもん。ここではテーブルマナーなんかいりませんー)
せっかく初登校の時に「感情抑制」を解除して、慣れたころに歓迎会の流れなのに。どこの10才児相手に遠い他国に来た初日に王様に謁見させるのだか。ここで楽しそうにしている所を見せて納得させようとの計画が無駄になったと、ラディ王子はため息をついている。
「さぁ、まだまだあるから、しっかり食べなさいー。ロビーオ君、ほらこれも食べて」
「ありがとうございます」
マリーのお母さんはめいっぱいの愛想よさで、娘と同じ年ごろの少年に声をかける。やけに大人しく、付き添いの大人一人付いていたとはいえ子共一人だなんて。それでも今向けられる表情が無意識の笑顔を作ろうとしているのがかえって痛々しい。到着時はまったく笑わなかった。こんな風に子供たちに囲まれるのが最善なのはわかるが、大人にできることもあるはず。この宿にいる間に笑えるといいねぇ。
歓迎会後はそのまま宿の大部屋に移動。そこはベッドは全部出して部屋の中央に細長のローテーブルを置いた。周囲にベッド用のマットを並べて雑魚寝できるようにする。おやつは軽いスナック系で、日常では許可されない空間に子供らは浮かれまくっている。非日常ならば起きることもそうあるべきだろう。
「これ、後でちょっと読んでくれるかな」
「ん?これは・・・(にやり)」
ラディ王子がログサに紙を渡す。次の模擬市に使えるかのテストらしい。彼はミレーナによく絵本を読んでいたので適任とのこと。ミレーナは今レイ王子の隣に座っている。そうか、そういうことなんだ。始まるは初夏の宴。はたして怪談+肝試しは受け入れられるのか。
「あるところに打ち捨てられた廃城にいつのころからか・・・」
こうして明かりを薄暗く、シーツを被ったログサ、手元に小さな明かりを灯し語られる。長く人の住まない古城に夜な夜な人の声がするという。そこに雨に降られた旅人が2人。お約束な展開。お邪魔しますと立ち寄ると街で聞いたうわさの声が。その声を辿った先で見たのは。で、さっきの悲鳴がでたと。もちろん、サフィは涙目ながら抗議する。ちがうと。
「なんで生温かい風を吹きかけるのよ!」
「ん、実験?」
犯人はラディ王子。相乗効果を狙ってのことだが・・・この反応はどうなんだろう。「うーん」と目を閉じ考え込んでいる。ミレーナは悲鳴に泣いてしまい、レイ王子が慰めている。他はというと大爆笑。変だなぁ。すると賑やかな場で小さな声。
「あはは」
それこそ何かを見てしまったかのごとくみんなの視線は一か所に向いた。だれかがつぶやく。「笑った」と。忘れていたんだろう。本来の目的。笑った本人はなぜこんなに注目されているのかと首をかしげた。
「まだ早いか、でも手法としては悪くない」
ラディ王子はだれに聞かせるでもなく納得している。「怖さ」を楽しむなんてのは命の危険なない世界でしか通用しない。まだまだ先の話だという確認。むしろ朝起きた時、食べ残ったおやつがすべて消えていたことのほうが皆に戦慄をもたらしていた。
(スーちゃんめーー)
まったく暑さを感じないところにいると季節感がないのですよ。
せめて話題だけでもと。




