王伝編集官 19話
室内に誰ひとり声を出す者はいない。巻き添えはごめんということだ。ちゃんと息できてるのだろうか。本当に危ないならラディ王子が止めると思うけど。今アクアはエナナニというおねーさんに抱きしめられ、命の危機だ。その凶器のせいか面と向かって止められない。うらやましいと思い割り込む不届き者もいなかった。しょうがないなぁと慣れてるテラが動いた。
「エナナ姉、そろそろ放してあげて?」
服の袖をつままれて我に返る。テラにふんわり笑いかけ頭をなでた。あれはアクアだけなんだと全員ほっとした。
「テラちゃんもひさしぶりね、あらもうサンドに背抜かれちゃったのね」
「むぅ、エナナ姉のお胸は凶器なんだから気をつけようね。」
まだぜぇぜぇ息の荒いアクアの代わりに抗議した。凶器、なんだろうか。リノリスの知ってる女性にはまったくいないその大きさ。例えるならメロン?窒息するほどの経験はなかった。ほど?
「それでは鉱山に向かう皆さまはこちらへ」
このやり取りが普通という流れで先に進む。エナナニさんはテウルカ村の村長さんで鉱山までの案内をしてくれる。なぜこんな若くて?きれいなお姉さんが村長なのかと言えば、テウレカ村が普通の村とは違い産業試験場になっているからだ。つまり管轄は王立研究院。彼女は趣味と実益を兼ねた研究テーマの成果でこの村の村長となった。もちろん視察の案内の際、インパクトを狙った訳ではない。
「この子が一番大きいの?」
「そうね、変異種がいれば変わるのだけど、確認例はないから。」
「そっか、乗り心地いいねぇ」
「大人は無理だもの、速度的にも。ふふふ、だから来ると評価が変わるのよ。ここは」
エナナニさんはうれしそうだ。自分の好きな生き物が気に入ってもらえて。坑道まで向かう林の中、テラが乗っているのは1,3mほどある大蟻族という生物。研究者目線だとサイズによってビッグアントやらジャイアントアントといった種族名がついているが子供からみれば全部アリだ。エナナニさんの研究テーマは
『大蟻族による鉱山管理』
蟻の巣に「収集」効果を付けた魔核を設置して人工の魔石を作るという。できた魔石を採取してもらい対価としてアリに食料を提供する。「友愛」を持つアリ好きのアリ好きによるアリだらけのパラダイス。初等部から熱弁していたエナナニさんは、研究院に入ると同時にこのテーマで予算を確保した。その後あっという間にこの村で実験開始し今に至る。彼女に「いい人」はいつ現れるのだろうか。ちなみに鉱山では半貴石も取れるので生徒達は自分で取ってお土産にして、自分用かプレゼント用に加工する。たいてい親に贈るらしく2つ作ることが多い。中には
「父さまに母さまに兄さまに自分のでしょ」
指折り数えて増える数。テラは4つも作るらしい。
「あ、あとアクアにも」
また増えた。ニコニコと宣言するテラをエナナニさんは、もう大丈夫そうねといった目で見つめていた。アクアは見た目と違って大人しいから友達作りに困ってないか心配だったから。




