王伝編集官 白紙の創伝②
ゆらゆら――――――長い髪、風とは違う銀色の流れ。はるか上空から差し込む輝きもゆらゆら。そこは出口のない岩壁で覆われている。頼りない光源であっても周囲の明るさは足りていた。目前の大樹によって。自ら輝く幹は銀、葉は黄金細工、人が求める至宝は大きさでも他の何とも比べられない。
傍らにはどんな素材かわからない石碑があり、一部になにか刻まれている。佇む風貌は水で満たされ頼りない景色に重厚感を見せつける。長い時間、例えるなら夜明けを告げた太陽が天頂に届く間。石碑に守られるように両膝をついている人物は祈りを捧げていた。少女と断定できるのは石碑が大きいせいでもない。立ち上がり顔に光が当たると幼さの残る顔には安堵の笑みがあった。
「この命に意味を与えて下さり感謝します」
左の手のひらに現れた印を見つめ大樹に触れる。細い指先も、身に着けた衣装からわかる体形もまだ咲ききってない花。その全身を幹に押し付け別れを告げる。2度と戻れなくても悲しみなどない。大樹の力を預かっているのだから。
足先で軽く地面を押すと、ふわりと浮き上がる。水面に向かっていく間ずっと愛おしそうに幾度も触れていく。大樹はきらきらと光りで答える。いってらっしゃい、かわいい子と。
水面に上がると滑るように岸で待っている人の所に向かう。青年になったばかりの年頃に見えて、胡散臭いほど落ち着いた笑顔。待たせてしまい申し訳ないが、頭をぽんぽんされるとそんな気も失せた。振り返り水面から出ている黄金の葉は、風に揺れている。なんだか笑われた気がする。照れかくしに大きめの声で
「いってきます」
今いる場所は山の頂。見渡せば麓までごつごつしたむき出しの岩肌。高くはない山だが植物はまったく生えてない。歩きにくい道のりを横の青年は、さも当然のように手を取り歩く。大丈夫だと言っても聞いてくれない。これから始まる旅もずっとこうなのかと聞こえないようにため息。
「疲れましたか?」
「いいえ、兄さま」
気づいた時からそう呼んでいた。心に浮かぶ面影に百面相していると足元はだんだん歩きやすくなり、少しづつ草も生えてきた。それでも歩く速度は変わらず、わかりにくいこの人の気遣いを知ったのは最近だ。ん、頭になにか乗ってる。
「まずは北に向かうぞ、子ども」
「子ども言うなー、姿をみせろー」
「口の利き方がなっとらんのだ、子どもだろう」
「育て方まちがえましたかねぇ・・」
自分に似た容姿の兄はとても失礼だ。他の人と変えてほしいと言ったら却下された。世界中巡る旅は何年かかるかわからない。いつか超えてみせる。と、左手を握りしめすっきり晴れわたる空に誓った。
最初の天印の記録は王伝ではなく創生伝に記されているが、天印所持者・記録者共に名は残っていない。後に苦肉の策で修正しまくったのだろう。その苦労を知っているのは「先触れ」だけ。
「やれやれ、前途多難だ。なぁ友よ。」




