選択
「海星組?敵じゃねぇか。殴るか?」
「いいえ、今じゃないわ。私たちがここに来た理由は敵をぶちのめすことでは無い。」
「おいジジイ、どきな争うつもりは無いからな」
そしておっさんの口が開いた。その声は妙に低く冷たい声だった。
「うちの大半の組員を潰したのは君かい?」
「まぁな、 だがお前を今潰す気は無いぜ。」
「ならいんだ。だがひとつ聞きたいことがある。いいか?」
「いいぜ」
宮子がやめとけと言わんばかりに肘でつついてきたがお構い無しに話すことにした。
「お前に殴られた組員が妙なこと言ってんだよ。ソイツが言うには、目の前にいたはずのお前が急にいなくなり背中側から急に拳が飛んでくると。一種の格闘技術だと思ったんだが、色んなやつに聞くとそういうレベルじゃないらしい。」
「何が聞きたいんだ?」
「魂が関係してるな?魂レベルで気配を消せる技術だ。誰から習った?」
「知らねぇな。なにも。妄想を語るんじゃねぇよ。」
そう言って荷物を抱えて車へ向かった。ヤツは多分魂関係の師事をしているのだろう。
「あとお前ら、もう一個聞きたいことがあった。」
「急ぎで話せ」
「こっちの組に入んねえか?お前らは確実に負ける。こっちに入れば安泰だぜ。」
これはかなり考えた。入ったばかりだが、組員全員の強さはだいたい分かった。ピストルを持っても俺に勝てるヤツはほぼいない。だが海星組はサシでは負けないが、あの空手家がいる。
「断る。男に二言は無いからな。」
ジジイは諦めて不広研究所へ向かっていった。
「さすが期待の新入り。かっこいいじゃん。」
「茶化すな」
車に戻ると花は腕を組んで寝ていた。
「おい花!窓開けっ放しよ!虫入ったら殺すからね!ほら起きて入れるの手伝え!」
「ん?ああ…」
そして車に乗りこみ事務所へ帰って行った。帰る頃にはもう明るくなっているだろう。
1時間ほど走っただろうか。花はもう寝てしまった。
その時宮子の携帯がなった。
「ん?…何かしら?鳩くん見てくれる?」
「はぁ貸せ、親分からだ」
見た瞬間なんとも言えない気持ちになった。
「事務所が襲撃され、若頭が起きない至急来てくれ。…だとよ」
「嘘でしょ…!?若頭が起きないって死んだってこと?あの新田さんよ?」
「落ち着け、運転が乱れてる。死んだって書いてないってことは意識不明ってだけだ。」
「そうよね…急ぎましょ!」
猛スピードで事務所へ戻ると、外に親分と下田と倒れている若頭がいた。宮子は急いで車から降り若頭に飛びついた。
「親分!若頭は大丈夫なんですか?」
「ワシにも分からん。コヤツがこんなになるのは初めてじゃ。若頭ともあろう男が…」
「何があったんです?」
「分からんの、ワシが目を覚ました時にはもうこんな感じじゃ。下田は知っていそうなんじゃが…困ったのう。」
下田は若頭をだき抱えながら5歳児のように泣いていた。若頭の服がびしょびしょに涙で濡れている。
おそらく親分が起きてからずっとこんな調子なのだろう。宮子は涙を堪えながら聞いた。
「下田ちゃん。若頭は死んじゃったの?」
下田は泣き続けるばかりだ。
「下田ちゃん。お願い。何があったのか聞かせて」
下田の泣き声は大きくなるばかりだ。
その時、宮子が下田の頬を叩いた。
下田は泣くのを辞め呆然と宮子の方を見た。
「若頭が居なくなった今私達は泣いてる場合じゃないでしょ…みんなにまず説明して!私だってホントはいっぱい泣きたいんだから…」
涙ながらの説得は通じたらしい。
「こべ、ごべんなさいぃ、わ、私だけじゃ、ないのに、悲しいのは私だけじゃないのにぃ」
「謝罪はいいから…説明してちょうだい…」
「はいぃ、」
下田は一呼吸置いた後ゆっくりと話し始めた。
「若頭は今、魂が半分の状態です。そしてもう片方の行方は分かりません。襲撃者は捕らえましたが、多分話さないでしょう。」
「よく話してくれたの。よし!やる事が決まったの。ワシらは何としても勝ち、若頭の魂を奪い返さなくては。そのためにまずは、宮ちゃん、手荒な真似をするが、原田兄弟を呼んでくれ。襲撃者を尋問する。」
車の中で聞いていた、花と俺の間に複雑な空気が漂っていた。
「なぁ、鳩、多分俺たちの組は負けるだろうな。」
「あぁ、若頭がいないまま喧嘩なんかしたら団結力がだだ下がりだからな…」
「鳩はこの組で良かったのか?別の組にしとけばとか後悔は無いか?」
「あるさ、だが男に二言はない。自分で選んだ選択に迷いは無い。たとえ負ける事が決まってるヤクザの道でもな。お前は選んだ選択に後悔はあるか?」
「…無いよ。なにも」
「やっと救急車が来たようね。男達!若頭なんだから丁重に運びなさい!」
男達が救急車に若頭を運ぶ手伝いをしているところを眺めていると、親分が近づいてきた。
「ちょいと、下ちゃんと宮ちゃん、話したいことがあるから、事務所に来てくれるかの。」
「あ、下ちゃんって私、で、ですか」
「そうだと思うわ行きましょ。」
そうして下田と一緒に事務所に入ると椅子に座らせられた。
「親分その話とは?」
「で、話なんだがな。君たちは今日中に避難してくれ。場所どこでもいい。帰ってこなくてもいい。分かったかの。」
「私達を逃がすつもり?私は逃げるつもりは無いからね」
「若頭はいつも女.子供が傷付くのを見過ごせない性格じゃ。覚えておるかの。お前らが加入したいと申し出たとき、若頭は猛反対したんじゃ。ヤクザの道にまだ子供だったお前らを入れる事など断じて認めなかったじゃろ。だが若頭には深い優しさもある。お前らを、すぐ逃がせるように準構成員として入ることを認めたんじゃ。そして逃がす時が来たのじゃ。」
「ごちゃごちゃ言わないで!逃げる事が若頭のためであっても絶対逃げない!最後までこの組を守り続けたいの!たとえ親分の指示でも!」
「ワシはまだお前らの親分でも無いしヤツは若頭でも無い。ワシらは遊びで喧嘩を始める訳じゃない。殺し合いなんじゃよ。」
それを言うと宮子は部屋から出て行った。
数分が過ぎ、下田も部屋から出てきた。
「アンタはどうすんのよ。逃げても別に恥じゃないわ。自分で決めた選択に善悪は関係ないからね。」
「私は残ります!若頭の為に!私は若頭を助けたい!私はみんなと楽しくいたい!それと……あの時はみんなの気持ちも考えずに泣き続けてごめんなさい…」
「アンタいつも新田さん見てるし、新田さんのこと好きでしょ。」
下田は顔を赤らめ下を向いてしまった。
「な、な、なんで…な、なん、内緒にしてください…」
「私も」




