冒険者ギルド狂騒曲
「おらぁ!」
腹パンをくらう
「カス!」
腹パンする。相手はダウン。
「雑魚雑魚、雑魚多すぎねぇか、このギルド。それとも俺は間違えて幼稚園にでも来ちまったのかなぁ!?」
煽る煽る煽る。
俺に勝つとかける奴と俺が負ける方にかける奴の熱気が俺を燃えさせる。
みんな仲良く燃えようぜ。そこの澄ました顔の連中もさぁ。
「おいおい、そこのベテランさんたちよぉ。なに自分たちは関係ねぇってツラしてんの? 俺はキミらもふくめて幼稚園だっていってるんだぜ?」
高ランクの冒険者なんだろう。俺らのやってるゲームを鼻から見下して関わってこねぇ。いやまぁ、見下されて当然なんだけどね。
俺の周りは掃除しきれなかった吐しゃ物が残っていてゲロくせぇしさ。馬鹿な遊びなんだよ実際。でも、馬鹿な遊びでも燃えてきてんだよこっちはさぁ!
「へい、こいよ! ビビりでヘタレのチキンカス。大物ぶるのが冒険者? かぁぁぁっこいぃぃぃねぇぇ。 そんだったら、これからはみんなも酒場の隅で静かに酒飲もうぜ。それが大物らしいからさ。身内がこんだけやられても知らん顔で酒飲むのが大物らしいしさぁ!」
「……この野郎」
大物っぽい冒険者の一人が服を脱いでこっちに寄ってくる。
「おい、やめろ」
「やめられるか、あの野郎、俺たちを舐めてんだ。舐められたままで冒険者やってられっか!」
大物っぽい冒険者が俺の前に立つ。
「おいおい、無理して震えを抑えなくていいんだぜ。ここまで隠れていたビビりでヘタレのチキンカスさん。俺がダメージ受けてきたらからようやく登場してきたんだろ?」
流石にいままで十数発の腹パンを受けた俺の腹は青あざができてはれ上がっている。
でも、だから? 痛いのは当然だろ。当然なんだから痛みも楽しまなくちゃあ。生きている実感ってやつだぜ。
「テメェももう終わりだ。その人は『赤狼』のヴォルフと呼ばれるBランクの行為冒険者だ。お前なんか一発でダウンだ」
最初に舐めた口を聞いて俺に沈められた奴が復活してエールを飲みながら野次馬に紛れ込んでやがる。キャンキャンうるせぇあいつは今から『駄犬のジョン』だ。でもって、目の前の『赤狼』は──
「ねぇねぇ、ヴォルフって本名?」
答えを聞くより先にパンチが俺の腹に突き刺さった。いてぇ、いてぇ。
いてぇけど、耐えられる。俺は微動だにせず耐えきった。
「お返しだ」
俺もヴォルフの腹に全力でパンチした。すると体がくの字に曲がり、足ががくがくしだすが、それでも折れない。しかし、代わりに──
「おぇぇぇぇぇ」
口からゲロが噴きだした。でも、倒れていないということは耐えたのだ。
周囲の野次馬から歓声があがり、「ヴォルフ」「ヴォルフ」「ヴォルフ」とコールが巻き起こる。
「た、耐えたぞ。これで引き分けだな」
真っ青な顔で口の周りにゲロをつけたヴォルフが死にそうな顔で言うが、俺はこいつの言っていることの意味がわからん。
「これは男のゲームだぜ? 引き分けなんかあるわけねぇだろ」
俺の言葉に絶望の表情を浮かべるヴォルフをよそに俺は高らかに宣言する。
「第二ラウンド! 来い」
二回目のヴォルフのパンチはヒョロヒョロパンチ。
情けないねぇ。俺は全然ぴんぴんしてるから、もう一回思い切り腹を殴ってやった。
もう吐くものがないヴォルフは一瞬で膝から崩れ落ち、自分の吐しゃ物に顔を突っ込んで痙攣していた。
周囲の野次馬が溜息を吐く。勝手なもんだぜ。
「何がヴォルフだ。そこらのワンちゃんレベルじゃねぇか。テメェは今日から『犬コロ』ジャックな」
ジャックは何となく付けた名前、ヴォルフ? こいつには勿体ねぇよ。
『駄犬』のジョンに『犬コロ』ジャック。もう一人くらい揃うとダメ犬ケルベロス三人衆になるんだけどな。
「高ランク冒険者って言ってもたいしたことねぇなぁ。次の奴は出てこねぇの。おい、みんな見てみろよ。ここのギルドの高ランク連中ってのはビビり揃いだぜ」
俺の挑発が効いたのか犬コロがやられたことに危機感を覚えたのかベテランっぽい冒険者たちも動き出す。服を脱ぎ始める者もいれば武器を手にした者も何人かいて剣呑とした雰囲気だ。
いいね、楽しくなってきた。だが、俺がそう思った矢先だった。
「何を騒いでおるか!」
怒声がギルド中に鳴り響いた。
声の主は二階にいた屈強な体格をした禿げ頭の男だ。
「一体、何事だ!」
マジ切れのご様子で階段を降りてくる禿げ頭。
きっと偉い人なんだろう。だから?
「いや、これは……」
駄犬のジョンが何か言いたそうにしているが禿げ頭に一睨みされると、それきり黙ってしまった。
「この騒ぎは貴様が原因か」
禿げ頭は俺を見るなり決めつけてきた。
「そんな迷惑そうに言うなよ。俺らはゲームをやっていただけだぜ? ゲームで盛り上がってるのを騒ぎって言われるのは傷つくなぁ」
まぁ、実際は全然なにも思っていないんだけどね。
禿げ頭は俺を睨み付けてくる。気に障る言い方してごめんね。でも、俺ってこういう言い方しかできないの。
「知らん顔だな。冒険者ではないだろう」
「そうだね。冒険者じゃないね。けど、そこの駄犬のジョンに舐めた口をきかれたから、ちょっとゲームをしたのさ」
俺はジョンを指差すが、ジョンは自分がジョンだと理解していない。
まぁ、それはおいおい分からせるとして問題は目の前の禿げ頭だ。
軽く許してくれる雰囲気じゃないね、こりゃ。
「儂はギルドマスターのドランだ。色々と事情があるのは分かるが、儂のギルドを滅茶苦茶にしておいて何もなく帰れるとは思っていないだろうな」
滅茶苦茶?
腹を抑えてうずくまっているのが十数人。ゲロまみれの床。その程度じゃないか。
その程度で怒るなよ、ドラン君。器が知れるぜ。ギルドマスターってのはあれだろ、店長みたいなもんだろ。ギルドの店長ならもっと落ち着いてさぁ──
「シュレイド!」
ギルドマスターのドランが鋭く声をかけると二階から数名の冒険者が降りてきた。
一人は長身で端正な顔立ちの男の剣士。一人はでっかい帽子を被った女の魔術師かな。他に女の僧侶と男の弓使いか。
「マスター、名前を呼ばれても困りますよ」
シュレイドと思しき剣士の男が眉をハの字にしてギルドマスターをかばう位置に立つ。結構、強いな。気配で分かるぞ。
「僕に何をさせる気なんですか。ギルドでの私闘は厳禁なはずでは?」
そうだよね。だから、俺もゲームにしたんじゃん。
俺はなんとなく喉が渇いた気がしたので近くにあったエールのジョッキを手に取り、中身を飲み干した。
「私闘ではない。制裁だ。少し痛い目に合わせてやれ」
やれやれといった様子でシュレイドという男が俺の前に立つ。
「悪いね。普段は良い人なんだけど、頭に血が上るとああなっちゃうんだ」
「乗り気じゃないなら見逃してくれてもいいんじゃない?」
「生憎とそうはいかない。ここまでやられて、無傷で返すと冒険者ギルドが舐められるからね。悪いけど、二日か三日は寝込むくらいの怪我はしてもらうよ」
はぁ、やる気はあってもマジではなさそうだなぁ。
つまんね。軽く遊んで終わりにすっかな。
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