腹パンゲーム
あんまり歓迎されていないなぁと思いながら俺は冒険者ギルドの中の酒場で不味いエールを飲む。
つまんねぇなぁ。せっかくの異世界だってのに不味い酒をすすりながらぼんやりと時が過ぎるのを待つのか。
まぁ、実際には考えなければいけないことがいっぱいあるんだけどね。寝床はどうすんのかとかメシはどうすんのかとか、それよりも靴だよ靴。かっちょいい靴が欲しいし、服だって良いのが着たいんだけどなぁ。
派手にピシッと決めたいね。道行く人がみんな振り返るくらいにさぁ。
だいたい地味な恰好ってどうなの、目立ちたくないってなんなの。俺は俺に自信があるから目立っても平気なんだけど、目立ちたくないってヤツの気持ちが分からん。陰キャって奴なのかなぁ?
「おい、新人。ずいぶんとご機嫌じゃねぇか」
クソみたいな低度数のアルコールを飲んでいると、それなりにベテランっぽい冒険者たちが声をかけてきた。
「ハイオークを倒したとか言ってただの死体漁りだろ?」
「なんだよ。それじゃハイエナじゃねぇか。おい、どうなんだハイエナ野郎」
勘弁してくれよ、俺はこういう連中に絡まれるのが心底嫌──なわけないだろ。
やったぜ、釣れた釣れた。遊び相手が釣れたぜ。最高。
「なに? 喧嘩売ってんの?」
俺は酒を置いて立ち上がった。
よっしゃ殴り合いの乱闘だぜ。酒場に来たらこれやんなきゃな。
俺を挑発した奴もそうじゃない奴も全員かかってこい、みんなぶちのめしてるやるぜ。
──と俺が勢いづいた矢先だった。
「ギルド内での私闘は厳禁です!」
ギルドの受付嬢が大声で叫んだ。
あ、そうなの? じゃあ、だめ? 俺言われっぱなし?
目の前の冒険者どもはニヤニヤしてやがる。ちょっとむかつくなぁ。
だったら、アレだね。
「なぁ、ちょっとゲームをしないか」
俺の言葉を聞いてもへらへらしてやがる。まぁ、数分後には床でのたうち回ってるんだけどね。
「どうやら、キミらは俺が気に食わないらしい。そして、俺もキミらが気に食わなくなってきた。こんなときに俺の地元ではこんなゲームがあるんだ」
そう言って、俺はシャツを脱ぎ捨て上半身裸になる。
俺の裸を見た野次馬の冒険者たちが「鋼かよ」「どんだけ鍛えたらあんな体に」「人間の肉体じゃねぇ」などとひそひそと話だし、目の前にいる俺を舐めた冒険者たちは明らかにビビった顔になる。
「喧嘩の代わりにやる極めて紳士的なゲーム。その名も腹パンゲームだ」
「お、おいちょっと待て」
「ルールは簡単。お互い上半身裸になって、順番に相手の腹にパンチをする。パンチしていいのは鳩尾より下。膝から下が地面についたら負け。簡単だろ」
ちなみに俺は人間だった時から一度も負けたことが無い。
「やるなんて俺たちは一言も──」
「テメェら、俺に喧嘩売っておいて逃げんのかゴラァ!」
怒声一発。喧嘩したくて俺を煽ったんだろ。
でも、ギルドじゃ喧嘩できないから俺がせっかく楽しく憂さ晴らしができるゲームを教えてやったってのによぉ。なんだ、その態度?
「おいおい、冒険者ってのはこんな情けねぇのかよ。ちょっと危なくなったらしっぽ巻いて逃げ出すとかよぉ。ダサすぎだぜ」
俺は挑発する。公衆の面前だ。ここで乗れなきゃ、一生馬鹿にされる。
だから絶対にゲームに参加しなければならない。
「ギルド内での私闘は厳禁です!」
「ゲームですぅ! 遊びですぅ!」
うるせぇんだよ、受付嬢はカウンター業務やってろ。
さて、ベテランっぽい冒険者たちは覚悟を決めたようで服を脱ぎ裸になる。
よっしゃ、やる気出てきたぜ。さらにスパイスを一つまみ。
「賭けろ!」
俺は野次馬の冒険者たちを煽る。
「このカスどもと俺のどっちが勝つか賭けやがれ!」
この言葉に場がワッと盛り上がる。
いいねいいね、楽しくなってきた。
もう、逃げらんねぇぞ。テメェらも。
「本来はコインで順番を決めるんだけど、今日は特別にお前らから殴らせてやるよ」
俺の鋼のような肉体を前にビビっていた冒険者の顔に僅かに希望が差す。
「おら、来い!」
その言葉と同時に全力のパンチが俺の腹に叩き込まれる。
普通にいてぇ。加護とかそういうの抜いてるから生身の人間と変わらん状態なんだよね、今の俺。
「全然、効かねぇぞ カス!」
反撃の腹パンが相手の腹にめりこむ。
その一発で相手はゲロをまき散らし、床の上をのたうち回った。
「根性なしが! 次っ!」
もう一人の冒険者のパンチも腹にクリーンヒット。で、だから何?
痛いだけ。痛いだけで倒れるわけねぇだろ。
「赤ん坊の方がましなパンチ打てるわ!」
順番を交代して俺のパンチ。体をそらして逃げようとしたのステップインして体重を乗せた拳を腹に叩き込んでやった。
「悪い。言うの忘れてたけど。パンチを受けるときは動いちゃダメな。手を後ろで組んで、相手にしっかり腹を見せるんだぜ」
さーて、これで俺を舐めた二人はぶちのめしたわけだが、物足りねぇよなぁ。
「おいおい、なんだよ、ここは情けねぇギルドだなぁ。仲間がやられても仇討ちの一つもしようって声があがらねぇのかよ。まったく程度が知れるなぁ」
俺の煽りに野次馬だったはずの何人かの冒険者が立ち上がり、服を脱いで上半身裸になる。
「おい、受付嬢。ゲロを拭け。あと、転がってる雑魚どもを端に寄せとけ邪魔だ」
「それは私たちの業務じゃ──」
「言われたことしかできないんすかぁ? すっげぇプロ意識、感動しちゃうぜ」
ぶちぎれた表情で何人かの受付嬢がモップでゲロを掃除していく。
「賭けろ、賭けろ。楽しくやろうぜ、ゲームなんだからさ」
みんなでもっとイカれようぜ。
その方が絶対楽しいからさぁ!
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