ノー免人生
「この土地はイクサス辺境伯領と呼ばれる土地です」
ふーん。
「地図ある?」
俺に言われると冒険者の少年少女が慌てて地図を出して俺に渡してくる。
紙の地図──製紙技術はあるのね。印刷技術もあるのかなと思いながらみると、手書きの雑な地図が俺の目に映った。
まぁ、精密な地図は軍事情報だから雑なのは仕方ないね。なんとなくこの辺に川が流れているよとか、町はここだよってのが分かる程度だ。東は国境、北は山岳地帯、南は海で、西は国の中央に向かう感じか。実際に国境に面してるのは一方面だけ。あんまり有望な土地じゃない感じもするな。
「あんがとね」
俺は少年少女に地図を返す。
おっかなびっくりって感じと憧れの視線を感じるのは俺の見た目が良いからだろう。服を脱いだりして確かめた感じだと筋肉の付き方からして俺は二十代前半くらいの、まぁまぁ調子が良かったころの姿で召喚されたようだ。
二十代前半頃だと俺の身長と体重は…………
身長:186㎝
体重:92㎏
くらいかな。身長はともかく体重の維持がきついな。俺は骨格が若干華奢だから肉をつけないといけないんだけど、筋肉が維持しづらい体質だからなぁ。肉体的なベストコンディションの維持はなるべく早めに諦めるべきか。
「これから向かうのは辺境伯領の領都イクサシオですけど…………」
カイルが俺を見る。あぁ、お約束のアレだね。身分証が無い奴は通行料を払えと。
『都市の空気は自由にする』というのは中世のことわざだったかな。自由になるのにお金がいるのは悲しいぜ。
「金はねぇよ」
「身分を証明するものは…………」
あるわけねぇじゃん。そもそもよぉ──
「このアスラカーズ、生まれてこの方、免許などといったものを持ったことはございやせん。どこの誰とも知れぬ輩に免じて許されぬのなんざ真っ平御免こうむるぜ」
人間時代から運転免許もパスポートも持っとらんのよね、俺。
無免許運転、密航、密入国が俺のスタンダード。他人に免じて許されて、それでようやく何かができるなんて、俺は許せんね。だって、俺の方が人間として格が上なんだもん。俺が免じて許すのであればOKよ。
「じゃ、じゃあ僕が立て替えておきますね」
よろしく~。
ほどなくして領都の前につくとカイル君と門番がなんかやってるが俺は気にしない。
そういう細々としたことは細々とした連中がやればいいのであって、俺は強い奴をぶちのめせばいい。役割分担は大事だよね。
「大丈夫そうです」
「あんがとね」
戻ってきたカイル君にお礼を言っていの一番に俺は領都の門をくぐった。
門番の連中が何かにらんでいたが無視無死。
「では、僕たちはこれから冒険者ギルドに向かうので──」
「じゃあ、俺も行くよ」
そういうと、ちょっと嫌な顔をしたカイル君。
「あれ、二度も命を助けてやった相手になんか変な顔をしなかった。くしゃみでもでそうなのかな?」
「はい、ちょっとくしゃみが出そうで」
「だよなぁ、二回も命を助けてやった奴を邪険にはしないよなぁ」
返しがうまくていいね。好きになりそうだよ、キミ。
まぁ、ここまでの流れで俺がちょっと面倒な人間だってのは分かったろうから、嫌なのはわかるけど、俺は人に嫌がられても気にしないので問題なし。
イクサシオの街中は賑わいに満ちている。人々の表情は穏やかだし、冒険者ギルドに行くまでの間で概ね真っ当な町であることは実感できた。ただ、どうにもきな臭さを感じるんだよねぇ。
人間だった頃に因習村に遊びに行って、最終的には村全体を焼け野原にして村人の半分以上を病院送りにして、1/3を二度とベッドから出られなくしてやった時と同じ感じ。ちなみにその時のメインウェポンは斧でした。
場違いだなぁ。と、俺は思う。
俺は血なまぐさいのが好き。それを好き好んで人間時代から生き、神になってからも同じことをじている。場所的には俺と死ぬほど相性が悪い。他人の平和や平穏を尊いと思えるが自分自身がその中には場違いだと思っている。
「着きましたよ」
案内された先の冒険者ギルドは結構、大きな建物だった。
ここにくるまでに説明されたが、冒険者というのは危険な魔物を退治したり、未開の土地の調査や遺跡の発掘をする仕事だとか。他の異世界にも似たような職業やまったく同じ名前で同じ仕事もあるので、聞いても特に感想もない。
「討伐した魔物の清算をお願いします」
カイル君たちが手続きを済ませている間、俺はぼんやりと冒険者ギルドの中を眺める。以来の受付をするカウンター、重要な話をするのに使う二階より上の部屋、それ以外は酒場かな。酒は嫌いじゃないからカイル君に金をもらって一杯飲もうかな。
「それは、どういうことですか!」
おや、カイル君が怒っていらっしゃる。
なんだろうと思っていってみると。
「ハイオークの討伐に関しては認められません」
受付の女の子が毅然とした態度で言う。
あぁそう。じゃあいいんじゃない。
「それは、おかしい。確かにここにいるアスラカーズさんが倒したのに、それが認められないなんておかしいです」
「なにもおかしくはありません。アスラカーズ氏は冒険者ギルドに登録されているわけでもない一般の方ですし、そんな方が高ランクのハイオークを苦も無く倒したなど信じられる話ではありません。あなた方はハイオークの死体を見つけて、話をでっち上げたのではありませんか?」
「なんて無礼なことを──」
「あぁ、もういいよカイル君。キミらの分の報酬はキッチリ入ったんだろ。それでいいじゃん」
「でもアスラカーズさんの報酬が」
「いいよ別に。俺は人生で金に困ったことが一度もないし……いや記憶喪失だからない気がするって感じかな」
金のことでグチグチいうのは俺の生き方に反するのよね。
それに俺は面倒なのは嫌なのよ。うぜぇと殴りたくなるからここまでにしようね。
不承不承といった感じでカイル君は報酬を受け取って受付から離れて、俺もそれにつきそう。
「真面目なのもいいけど、適当にすませるのも大事だよ。ところで酒飲みたいから金頂戴」
なんだコイツという顔をしながらカイル君はお金をくれた。
酒場のある区画には見向きもせずカイル君たちは冒険者ギルドを出て行ってしまった。
これは好都合。大人の時間の始まりだぜ。
とりあえずかけつけ一杯のエール。うーん、牛の小便かな。
飲尿プレイは人生初体験だぜ。
「さて、なんか俺に喧嘩を売りたそうなやつらが何人もいる気配なんだが、これはいったいどういうことなんだろうか?}
俺は酒場のカウンターから冒険者ギルド全体を見回すと敵意に近い、ルーキー歓迎の儀式の気配を感じ取った。
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