シャルルとマリーア
俺はコップに水を注いで、少年と少女の前においた。
二人は何か話したそうだけど黙っている。何か言い出すまで待ってようと思ってバーカウンターにいようと思ったら、カウンター席にマー君が座っていて、煙草を吸いながら、勝手に俺の酒を開けてグラスに注いでいる。
完全にくつろぎモードに入ってんじゃん。うんこマン。
「おいクソ邪神。ここ神域にしただろ?」
「さぁ、うんこマンの言葉はクソクソしか聞こえないのでわかりませーん」
俺はマー君の酒を一口飲む。
やっぱりウィスキー味だし、ウィスキーって呼んでもいいよね。
「神域にでもしなけりゃテメェの好みのガキ共が入ってくるわけねーだろ」
「好みのガキっていうのやめてくんない? 俺がロリコンみたいじゃん。まぁ、神域にしたのは事実だけどさ」
神域──読んで字の如く神の領域。俺は酒場を自分の領域に変えていた。
別に大した効果はない。俺と縁のある奴以外にはこの場所が認識できなくなる効果と俺好みのトラブルを抱えている奴がやってきやすくなるって効果くらいかな。
「やっぱり、神域じゃねーか。じゃあ、ここだとテメェの力は強まってるのか?」
「いや、全然。権能も弱いままだし、ちょっとした効果をつけるくらいしかできないね」
「はっ、クソ雑魚」
俺はマー君の頭をぶん殴った。うめき声を一つ上げたのちにマー君は静かに酒を飲んで煙草を吸い始めた。
しかし、あの坊ちゃん嬢ちゃんは何時になったら、面白い話をしてくれるんだろうか? 話次第では割り込んでいってすぐに解決してやるっていうのにさぁ。
……あぁ、めんどくせ、俺に待ちは合わねぇぜ。
「なぁ、坊ちゃん嬢ちゃん、困りごと?」
俺は面倒くさくなって話しかけた。
「俺は滅茶苦茶強いから、キミらの困りごとも秒で解決できるんだけど」
俺は親切な男として二人に近づいた。
少年の方は話しかけてきた俺に何かを伝えたいようだったが──
「おっと」
少女の方は手のひらサイズの火球をいきなり俺の顔面に飛ばしてきたので、それを掴んでかき消す。そして、それとほぼ同時に俺は少女のローブを掴んで引っ張り、床に転がそうとするが、同じタイミングで少女はローブを脱ぎ去り、大きく跳躍し、掌から氷の槍を放ってくる。
「まぁまぁかな」
手で氷の槍を軽く払いのけ、俺は少女の顔面に拳を寸止めする。
「でも、俺には絶対に勝てないね」
少女は顔面前に寸止めされた拳に対して汗をかきながら、尋ねてくる。
「あなた、何者?」
「怪しいけど滅茶苦茶強い酒場のマスター」
酒を飲んでいたマー君も助け船を──
「最低最悪レベルのゴミクソ野郎だが多分、この街では一番強いぜ」
まぁ、褒めてるんでしょう。許してやろう。
「あの、僕の名前はシャルルです。そして彼女がマリーア。マリーアが無礼を働いてすいません」
無礼なんて気にしないよ。攻撃してきてくれるってのは俺にとってありがたいことだし、むしろ面倒ごとを持ってきてくれたキミらに感謝したいくらいなんだよ。
「ええと、困りごとがあったら助けてくれるんですか?」
「シャルル!」
おやおや、坊ちゃんの方は弱気で嬢ちゃんの方は強気か。良いんじゃない、可愛いじゃないか、少年少女が困っていたら助けるのも神の務めってね。
「でも、マリーア。実際、このことは僕たちだけじゃどうしようもないことだし、誰か別の人の意見も聞いてみないと」
そうそう、相談して。俺に相談して?
どんな相談でも聞くからさ。聞いて、面白そうだったら助けてあげるからさ。




