駆け込み寺(酒場)
俺とマー君は楽しく煙草の取り合いをする。
マー君は可哀そうなことに転生してこの世界にやってきたようで、恐ろしく軟弱な肉体になってしまったため、俺とまともに勝負することができない。
「ウーン、無様」
足を引っかけただけでマー君の体は大回転し、酒場にあった机をなぎ倒した。
「畜生が、こんなクソみてぇな体じゃなきゃ、テメェのクソのつまった頭を吹っ飛ばして、ここを公衆便所にしてやれんのに!」
超物騒なんだけど、この魔術師。
「あはは、できないことを叫ばれても犬の鳴き声にしか聞こえねー」
俺は煙草の箱をあけて一本咥える、そして、これまたいつのまにか手に持っていたマッチで火を点ける。
「あ! このやろー!」
俺も別に吸えないわけじゃねぇからな。すっとろい動きで突っ込んでくるマー君の顔に煙を吐きかけながら、煙草の箱をお手玉する。
「ホロウハンズ!」
おっと、お得意の雑魚魔術が飛んできやがった。
あぁ、そうか。内力が足りないせいで強力な魔術が使えないのね。
だから虚ろの手なんて魔術を使ってんのか。
「シッ」
俺は咥えていた煙草を指に挟んで持ち、内力を込めた手刀でホロウハンズを切り払った。ホロウハンズは相手によっては初見ですら通用しないんだよね。だって、魔力と闘気を混ぜたもの所謂、俺たちの使う内力で触ったら簡単に崩れるからね。
「──隙を見せたなクソ邪神」
おっと? 床からホロウハンズが生えてきて、煙草の箱が奪われる。
まぁ、最初から煙草はあげるつもりだったから別に良いけどさ。
「あぁクソ、ようやく一日ぶりの煙草だぜ」
一日も禁煙できねぇのかよニコチン中毒が。
マー君は指先に魔術で火を灯すと咥えた煙草に、それで火を点け、ゆっくりと煙を吸い込む。
「……クソ最高」
トリップしてやがるニコチン中毒が。
「おい、クソ邪神。ここは酒場だろ。どうせクソみたいなもんしかおいてねぇだろうが、クソ酒飲んでやるから、さっさと一杯出せよクソが」
「マー君さぁ、煙草の一箱、俺から取った程度でイイ気になってない? そういうのよくないと俺は思うんだよね」
俺は酒瓶をマー君の頭に向けて投げつけ、直撃させる。衝撃でガクンと頭が揺れ、直後にゆっくりと頭をもたげて俺を睨み付けてきた。
「お、戦るか? いいぜ、戦ろうぜ」
「上等だ、クソ野郎。ぶっ殺してやる」
マー君が咥えていた煙草の火をテーブルに押し付けて揉み消す。
その時だった──
「すみません! 少しお店の中にかくまってください!」
──突然、少年と少女が店の中に飛び込んできたのは。
服装は二人ともマー君と同じ、ブレザーだがローブを羽織り、一見して素性が分からないようにしている。
あぁ、なんだろう。トラブルの匂いだ。きっと何か厄介ごとを抱えてきて、それで駆け込んできたんだろうなぁ。
いやぁ嬉しいお客さんだぜ。ワクワクするなぁ、いったいどんなトラブルなんだろう。
「いいぜ、嵐が収まるまで店の中にいないよ」
そとは雲一つない綺麗な夜空だが、まぁこの少年と少女は嵐の渦中にいるってことでね。それが落ち着くまではいるといいさ。
ついでに、俺にも首を突っ込ませてくれると最高なんだけどね。




