二人の相談
シャルルとマリーアは訥々と語りだした。
「僕たちが困っているのは魔力合わせの儀のことなんです」
「なにそれ?」
「えっと、御存じないですか?」
知らん知らん、全然知らん。
俺は酒に口をつけながら、説明を求める。
「魔力合わせの儀とはウィスタルム魔導学院で行われる魔術儀式のことです」
ふーん、学校行事なのね。
「年に一度、学院で最も優れた魔術師の学生二人が決闘を行うという儀式なんですが……」
いいじゃん、面白そうで。俺だったら、決闘なんて聞いたら興奮のあまり眠れなくなるぜ。
「困っているのは、負けた魔術師の魔力を勝った側が全て奪い、負けた側は魔導学院で失った魔力を回復させることに一生を費やすことになることよ」
えぇ、でも負けたら色んなものを失うのは、当然のことのような。と思いながらシャルルとマリーアを見ると、二人はいつのまにかテーブルの上で互いの手を重ねていた。
あぁ、なるほど、そういうことね。
「もしかして、今年の魔力合わせの儀の参加者はキミら二人か。でもって不運なことにキミらは恋人同士なのね」
俺が恋人と言った瞬間に二人はお互いの手が重なっていたことに気づいたのか、自分の手を慌てて引っ込める。
「あの、僕たちはそういうのじゃないです!」
「わ、私たちは、ただの幼馴染で友達なだけだから!」
あぁ、そうですか。ごちそうさま。
お子様は何人をご予定ですか。ベビーベッドのご注文はお済みですか。
「ま、キミらが恋人でもどっちでもいいけど、魔力合わせの儀ってのをやると、どっちかの将来が閉ざされることになるのが嫌だから戦いたくないって感じかな?」
俺の言葉に二人が頷く。
しかしなぁ、そうなるとよくわからんのだけど──
「魔力合わせの儀が伝統的なものだっていうなら、少し頭を使えば避けられたんじゃない?」
どっちかが、悪い成績を取るとかさ。色々あるじゃん。
「それが無理なんです」
「私の家、ウィスクロフト家とシャルルのマンタリス家は犬猿の中で、今回の魔力合わせの儀を使って片方の家を潰そうと狙っているのよ」
「そりゃ成績じゃどうにもならないの?」
「貴方は知らないのかもしれないけど、私とシャルルの家はウィスタリスでも屈指の魔術の名門。魔力合わせの儀に自分の家の子をねじ込むなど容易いことよ」
「それで今年は運悪く両家の生まれの僕たちが揃ってしまっていて、両家はお互いを潰すために僕たちを魔力合わせの儀に参加させようとしているんです」
ふーん。ところで、キミら、また手を重ね合わせてるけど。つーか、机の上で手が絡みあってるんだけど。
俺は二人の手を指を差しながら聞いてみた。
「キミらの家は、キミらの関係を知ってるの?」
「知っているわけがないわ」
「知っているわけがありません」
「事実を話しても、聞く耳は持たないでしょう。そもそも二つの家は犬猿の仲。僕たちの関係を認めることはありません」
「あ、関係って言った。それって友達同士に使う言葉じゃなくなーい?」
「うるさい!」
揶揄ったらマリーアちゃんが怒ってしまいました。
さて、これでこの少年少女が何に困っているのかが分かったわけだけど。
専門家からの意見も聞きたいもんだね。
「なぁ、マー君?」
「なんだよ」
「話し聞いてた? 聞いてたら専門家としてなんか意見を──って、あぁ心配しなくていいよ、マー君には魔術の専門家としての意見以外は期待してないからさ」
数百年童貞やってるやつに男女関係の機微は難しいもんね。
お得意な魔術のお話だけしてちょうだい。
「……俺が疑問に感じてんのはそのクソ儀式だな。そもそも、魔力を全て奪うってのがどういうことなのか、理解できねぇ。魔力ってのは人間の中から自然発生的に生まれる物なんだから全てを奪っても奪った瞬間から、回復が始まるわけだしな」
「でも、実際に魔力は無くなっていて……」
「その無くなっているってのは完全にゼロってことか?」
「はい」
「じゃあ、なおさらおかしい。魔力を片方に流し込むって仕組みも結構面倒だが、儀式に負けた奴はどうして完全に魔力がゼロになる? なんらかの作為を俺は感じるね」
魔術関係はまぁマー君の独壇場だから、俺は全部任せる。
「魔力が無くなった人は全員、魔導学院に残留するのかい?」
「えぇ、例外はない」
「その人たちには簡単に会えるのかい?」
「いいえ、魔力を失った人たちは特別な訓練を行わないといけないということで、隔離された場所で訓練を受けているって聞くわ」
怪しいなぁ。怪しすぎるぜ。
「伝統的な行事なんでしょ。だったら、魔力が回復した人も──」
「えぇと、伝統的といってもここ十数年で行われるようになった儀式だから、回復した人もまだいないようで──」
十数年で伝統的って……あぁまぁ、人類のスケール感だと、それくらいでも伝統と言い張れば伝統になるのか?
「そもそも学院長が古代に行われていた儀式を再開したものだしね」
学院長がここ十数年で伝統にした行事ね。
俺はマー君を見る。するとマー君は煙草を口に咥えたまま大きく肩を竦めた。
ま、怪しすぎるわな。でもまぁ、その怪しさが面白いんだけどね。
「いいぜ、キミらの困りごと俺が解決してあげましょう。俺の名はアスラカーズ。大船に乗った気でいるといい」
まぁ、俺は俺は大船に火を点けて別の船に突撃させるような人間だけどさ。




