転生者 エルジン・マクベイン(4)
「──ということは、貴様が私の大切な生徒に暴行を働いたということだな、ティル・アーミッド」
「ちげーよ、クソ。俺の名前はエルジン・マクベインだ。クソみてぇな容量の脳味噌に刻んどけ、クソが」
教師は敵対的な眼差しでマクベインを見る。そして、マクベインはその眼差しにすぐに違和感を覚えるのだった。
「なんだか、俺は大切な生徒に入ってないって感じだなぁ、クソ教師」
「教員の名は正しく呼びたまえ、そんなことも分からんのかティル・アーミッド!」
「違うっていってんだろうが、クソが! テメェの脳味噌もクソが詰まってんのかよ。わかんねぇから、聞いてんだ、さっさと名乗れ、クソが!」
「我が名はギム・ヴァレット。思い出したか、落ちこぼれめ!」
なるほど、こいつも落ちこぼれと言ってくる。
つまりは、ここの生徒共と大して変わらないというわけか。
「ムカつくぜ。ティル・アーミッドがどんだけクソ無能だったか知らねぇが、こいつは少なくとも努力をしていた、少しマシなクソだ。そいつをテメェらみてぇな奴らが、ドブクソみてぇに扱うのは許せねぇなぁ」
「許せんのは私の方だ! 私の大切な生徒たちに危害を加えた貴様を決して許しはせん」
だったら、どうするか。
「テメェらはティル・アーミッドのために謝罪をするべきだ」
「貴様は即刻、退学だ!」
魔術師同士がお互いの末路を語り合い、そうなってほしいと願う。
そうなったとき、古今東西行われるものがある。それは──
「決闘だ!」
その日の昼過ぎ、ティル・アーミッドもといエルジン・マクベインと、ギム・ヴァレットの決闘は速やかに行われた。
「魔導学院の規則に従い、お互いが決闘に同意した際。魔導学院ではすべての問題を決闘の結果に委ねるものとする。双方とも異論はないな」
「ねぇよ」
「無論だ」
魔導学院にはこういった事態に備えて決闘場が備えられていた。
観客はそれなり以上に入り、勝負の行く末──正確には虐殺の瞬間を心待ちにしていた。
ティル・アーミッドは学院でも名の知れた落ちこぼれであったし、ギム・ヴァレットは戦でも名を上げた高名な魔術師である。決闘の結末は最初から見えていた。
ギムがティルを嬲り殺しにして終わると──だが、それはティル・アーミッドがティル・アーミッドであったときの話であり、今はエルジン・マクベインである。
「気味の悪い刺青を体中にいれおって、戦いが終わった暁にはその刺青全て剥いでやる」
「無理だぜ、クソ教師。なぜなら、俺が勝つからな」
二人の殺意が高まる中、審判の魔術師が声を上げる。
「はじめ──」
その次の瞬間だった。ギム・ヴァレットの胴体に風穴があいたのは。
指先の動作だけ、魔力の集中も何もなく発動できる『魔弾』は初見の魔術師では回避は極めて困難。
「ぐふっ」
口から血を吐きながら、ギム・ヴァレットは回復魔術を使い、自らの傷を即座に治す。
「クソよわっ」
言いながら、マクベインはギムの足元に『魔弾』を撃って見せる。
「わかるか? 俺はこれを連発できる。でもって、狙いも正確だ。最初に頭を潰しときゃ、テメェはそこでクソになってたんだぜ?」
「私を舐めているのか」
「馬鹿言うんじゃねぇよ、クソを舐めるか汚ぇな。俺はクソをクソとして踏みつけんのが嫌なんだよ。クソは踏みつけてもそこに残る。だから、誰かにクソを掃除してもらわねぇとな」
恥かいて二度と学院にいられねぇようにしてやるとマクベインは言いたかった。
ただ叩き潰しただけでは、学院に残る可能性もある。だから、徹底的に恥をかかせて、二度と学院にいられないようにするのがマクベインの狙いだった。
「ほら、次いくぞクソ」
ホロウハンズ。マクベインの背中から生えた腕が伸び、ギムに迫る。
ギムも魔術を放って攻撃をしたのだが、ホロウハンズが全て叩き落し、ギムの魔術を無効にする。
「クソを飛ばすなよ、クソ魔術師」
ホロウハンズがギムの体を掴み、決闘場の床に叩きつける。
「雑魚が」
マクベインは対魔術師相手だったら誰にも負けない自信がある。
魔術師が何をしてくるか、魔術師の経験で全てわかる。
「口」
一言いうとホロウハンズがギムの口を抑え込んだ。
詠唱はさせない。
「手」
ギムが持っていた杖を振って何かすると予測したのでマクベインはホロウハンズに手を抑えさせる。
少ない内力量で無限に生み出せるホロウハンズは今のマクベインにとっては極めて役に立つ魔術であった。
「折れ」
口に出した瞬間にギムの指の骨がへし折れる。
無詠唱で魔術を撃ってくるものもいる。その際に脳内のイメージだけで魔術を組み立てる者もいるが、そういう手合いには痛みを味わわせればいい。痛みが酷ければイメージなどまとまらないのだから。
ちなみ言うと、マクベインはイメージ系の無詠唱魔術を使わない。
理由としては実戦性に欠けるから。安全な後方で、落ち着いてイメージを膨らませて魔術を組み立てる環境ならいいが、そんな状況はそうそうない。
イメージでの無詠唱の最大の弱点は脳のリソースをそちらに使ってしまうこと。例えば、アスラカーズやゼルティウスとタイマンで戦っている最中に悠長に頭の中で魔法のイメージなどできるかどうか。そんなのは不可能だと判断したから、マクベインはイメージ式の無詠唱を捨て、『魔弾』のような動作式の無詠唱魔術を習得したし、それ以外の無詠唱も身に着けている。また、当然詠唱の方が効率が良ければ詠唱も使う。マクベインにとって無詠唱魔術は数ある魔術の発動方法の一つであり、何一つ特別視していなかった。
「さて、あとはどうやって、もっと恥をかかせるか」
マクベインは仕上げにかかろうとしていた。
勝敗ははっきりしている。マクベインが放っている間にもホロウハンズはギムを殴っており、ギムの顔は原型もないほど腫れ上がっていた。
勝負は決まっている。審判は止めようとしていたが、マクベインの方に止まる気配はない。だが、そんな時だった──
「うへぇ、何アイツ、超無様~!」
底抜けに明るい声、それは忘れもせぬ、あの男の声。
マクベインは声のした方を見ると、そこにはいつも不敵に笑うあの男が座っていた。
「アスラカァァァズ!」
マクベインは目の前のギムのことなど忘れて、怒りを自らが使える邪神に向けるのだった。




