異世界への旅立ち
考えることはいくつかある。
まずは邪教の司祭をやっていた坊ちゃんのこと。
自分で色々と考えていた様子はなかったから、あの坊ちゃんより上の貴族が俺を呼び出す儀式を知っていたということだろう。他の問題はというと──
「システラ、服を出せ」
声をかけても反応なし。
俺の持ち物の全てを管理している僕の「システラ・シニストラ」と応答がとれない。
まぁ、結構ボイコットする奴なので、これはいつものこととして無視できるが──
「デストラ、聞こえているか」
最も従順な僕である「デストラ・デクストラ」と連絡が取れないこと。これは今までで初めての経験だ。デストラと連絡が取れないとなると俺の権能の大部分の利用が不便になる。
自分で権能の制御といった面倒を背負わないようにデストラやシステラを作ったのにそれが機能しないのは極めてマズイ。
普段だったらシステラに言えば、最上級の服を用意してくれるのだが、それが不可能な以上、俺は自分で服を探さねばならない。
腰に紅い布を巻いただけの不審者ファッションを脱するために俺は邪教の神殿を探してみると案外と発見物はあり、ズボンとシャツ、それと少量の貨幣を見つけた。
「趣味じゃねーけど我慢しねーとなぁ」
シャツもズボンもダボっとしていて野暮ったい。まぁ、腰布一枚よりはマシかと諦めた。ちなみに靴もあったが、人の履いたような形跡があったので、靴は履かないことにした。他人が履いた靴を履くくらいなら裸足の方がマシだね。
腰に巻いていた紅い衣はサイズが変わりスカーフとなって首元に纏っている。
神器だからね。サイズも何もかも基本的には自由自在。毛布のサイズからハンカチまで自由自在なので俺は今はスカーフにしている。
「さて、どうしたものか」
恰好はなんとかなった。
けれども状況は悪い。ごちゃごちゃされるといやだから邪教の司祭を気取っていた貴族の坊ちゃんがどこかいくまで待っていて、ようやく動き出したわけだが。
「転移、…………転移──転移!」
いくら言ってもこの世界から転移できない。
こりゃマズイ。何かしらの妨害が自分をこの世界にとどめているのだ。
これを誰がやったかは知らないが解決策を先に考えるべきだろう。
…………無理だな。情報が少なすぎる。
俺を完全に閉じ込めておける格の神は、俺の知る限りゼロだ。
仮にいたとしても、相応の代償が必要となり、この状況を継続できるのは不可能。なんらかの条件付けならば突破口は、無数にある。
とはいえ、なにかしらの情報が無いとなぁ。
いつまでも神殿に留まっていても仕方がない。
俺は神殿の外に出ることにした。ちょっとした冒険だと思えば気分もいい。
神殿の外に出るとそこは森の中だった。まぁ、怪しい儀式やるのに街中ではやらんわな。
地面を見てみると。馬の蹄の跡や、馬車の轍の跡が残っていた。足跡があまり見られないのは徒歩で来た人間が少なかったからだろう。
馬や馬車を所有できる人間が多く集まる邪教の集会ねぇ。
貴族とかそういう立場の連中のオカルトサークルみたいなものだったんだろう。邪教を信仰してるっていうよりは邪教を信仰してる自分に酔ってる系?
まぁ、どうでもいいか。
「馬車の轍を追っていけば。人のいる場所には着くか?」
現状、俺のできることは少ない。
まぁ、もともと全知全能の神ってわけでもないし、できることは少ないんだよね。殺し合いならどこの誰にも負けない邪神って程度だし。ただ、殺し合いなら全知全能の神相手でも絶対に同じ土俵に持ち込んで100%殺せるけど。
「人間みたく頭を使っていかないとね」
幸い、頭は良い方なんでね。頭脳労働で困ったことは今みたいな神になる前の人間だった時から一度もない。
さて、考え事はやめにして冒険でもしようか。
俺は近くに落ちていた木の棒を拾って、歌いながら森の中の道を行く。
するとほどなくして、藪の中から生き物が飛び出してきた。
緑色の不細工な面をした怪物だ。大きさは人間の子供と同じかちょっと大きいくらい。
俺は躊躇なく木の棒を振り抜いて、怪物の頭を砕いた。
「あーあ、折れちゃったじゃん。せっかくいい形の棒だったのに」
俺は怪物の死体を藪の中に蹴っ飛ばした。たぶんゴブリンとか呼ばれるような魔物だろう。俺は人間は殺さないけど魔物は殺すからね。だって、人間を傷つけたり、殺したりして生きてても俺の損にしかならないからさ。
「あー、つまんね」
折れた木の棒を放り捨て歩き続ける。
ちょっとご機嫌だったのに、水を差しやがって。空気の読めない奴は嫌だね、まったく。
さて、馬車の轍を追っていくのもいいけど、ちょっと退屈になってきたぞ。
藪の中を歩くのは服が汚れるから嫌だけど、獣道くらいだったら脇道にそれてもいいかな。
「人生は冒険。未知の世界へと踏み出さなきゃね」
というわけで獣道の方へレッツゴー。
人やら獣やらが歩いていく中で自然と踏み固められた道を行く俺。
でもまぁ、そんなに面白いこともない。
ときおり、俺を襲ってくるゴブリン?はいるけど別にどうってこないしな。臓物とか脳髄をぶちまけない殺し方をするのに気を遣うくらいか。魔物の内臓は臭くて嫌なんだよね。人間の内臓の臭いは嫌じゃないけどさ。
「さて、マジで退屈になってきたぞ」
スマホでもあればいいんだけど。スマホは基本システラに預けてあるせいで、システラが呼べない今だと退屈しのぎができるものが何もねぇ。
森の危険度も貴族の坊ちゃん嬢ちゃんとか上流階級が邪教ごっこに来れるんだから、安全な方だろうし。人里につくまでイベント無し?
あ、死にそう。
トラブルがないと生きていけないんだよ、俺は。
なんちゃってで命の危険を感じていると、ふと何処からともなく剣戟の音が聞こえてきた。いいね、何事か起きてる系?
俺は期待に胸を躍らせながら音の方へと走り出した。
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