いつだって暴力沙汰
俺には明確な弱点がある。それは戦闘を多少は楽しめるように自分の戦闘能力に制限がかかってしまうことだ。
例えば、この世界に来る前に勇者たちと戦ったが、あの時は俺は火の玉とか出せたが今は出せない。雑魚神共相手の時は刀を抜けたが今は抜けない。もっとも、今は刀がどっかにいっちまってるけど。
とにかく目の前の騎士共が弱いので俺も本気なんかは欠片も出せないんだわ。素手での殴る蹴る以上の何かは使えないと思っていいだろう。
──まぁ、だからといって俺が負ける可能性は万に一つもないんだけどね。
騎士は二人いる。一人が最短距離で突っ込み、もう一人が俺を挟み込むように駆け出している。動きは悪くない。ちゃんと訓練を積んでいる証拠だ。──でも甘い。
俺は突っ込んでくる騎士に合わせて踏み込み、相手の攻撃のタイミングをずらす。
真剣を相手にするときは刃ではなく、それを持つ腕を止めるのが俺のスタイル。俺は剣を振り下ろそうとした腕を抑え込むと同時に足を払う。
踏み込んだ足を払うと、着地に失敗し体勢を崩すのでそこに体を潜り込ませて体当たり。これで、騎士の一人はすっころんだ。俺は即座に倒れた騎士の兜をサッカーボールのように蹴り飛ばし、衝撃で意識を飛ばす。
「こちとら何万人も相手に素手対武器をやってんだぜ?」
残った騎士が迫ってくると同時に俺は上の方から飛んできたクロスボウの矢を掴み取る。騎士が二人だけって言った? 隠れてるのが二人で合計四人だよ。
「ちょっと痛くするけど許してね」
突っ込んでくる騎士相手に俺は踏み込んで近づく。
いつだって、間合いは俺のもの、相手に合わせる? 好きじゃないね。
相手がこうしたいってのをずらし、思い通りにならないようにするってのも大事さ。
俺は掴み取ったクロスボウの矢じりを剣を振るおうとしていた騎士の手首に突き刺した。
「ぐぅ」
はは、声が出た。もうちょっと無口で頑張りなよ。
手首に刺された矢じりを引き抜くと騎士は必死の気配で剣を振るが、遅すぎて俺はすでに、その騎士の背後に回っていた。
そして、わきの下、膝の裏にクロスボウの矢を続けて差した。
ダメージによって膝をついた騎士の後頭部を兜越しに蹴り飛ばして意識を飛ばす。
「で? どうすんの? 後二人、騎士はいるみたいだけど。俺に勝てるのかな? 無理なら降参してもいいよ。アンタらの主人に対して殺したいほどの恨みはないから安全は保障するしさ」
邪教の司祭と名乗っていた貴族の坊ちゃん。フードを外すと思いのほか若かった──は状況が自分に有利になるまで、この場にいるつもりだったんだろうが、今は逃げ腰になっているので、俺は足元にクロスボウの矢を投げつけてやった。
矢じりは石の床に突き刺さり、貴族の坊ちゃんは尻もちをついた。
「逃げたら追いかけてむごたらしく殺す。逃げなければ許す。さて、正解はどっちだと思う?」
これで逃げる奴がいたらスゲーわ。
俺は素手で麻酔なしの人体解剖やったことあるけど、うるせぇし、くせーし、あんまりやりたくないんだよね。
「──っ出て来い」
その声に応えて隠れていた騎士二人が姿を現す。
どっちもキッチリと鎧を着こんだ立派な騎士だ。こういう連中を従えられるこの坊ちゃんは何者なのか。
まぁ、それよりも──
「下手くそ」
俺に矢を掴まれた騎士を煽らなきゃね。
プルプルと震えてるのが可愛いぜ。この間抜けのおかげで俺は武器を手に入れたようなもんなんだけど。まぁ、そこに感謝はない。
「なにボサっとしてんの? 可哀想じゃん。キミがうっかり放った矢が原因で怪我してるやつがいるのにさぁ」
──さて、少し情況は落ち着いたかな。
色々と聞きたいことがあるんだよなぁ。
「なぁ、坊ちゃん?」
「っ失礼な、私には──ぶへっ」
ビンタ一発。
周りの騎士の殺気が高まるが、どうでもいい。
「俺はキミのことを坊ちゃんと呼ぶ。呼ばれたらキミはそれが自分の名前だと思って返事をする。なんか難しいこと言ってるかな俺?」
難しいなら、おまえら皆殺しにしてもっと賢い奴を探すだけだし、俺は何も困らない。最悪、何も分からなくても世の中の生き物は耐えられない威力の攻撃を一発か二発くらえば素直になるから時間はかからない。
「…………いいや、すごく分かりやすい」
「そりゃよかった。世の中にはこんなことも分からない奴が結構いるからね。じゃあ、坊ちゃんに質問ね。キミは俺のことを狙って召喚した?」
慌てて首を横に振る貴族の坊ちゃん。邪教の司祭をやってた威厳はどこにいったのやら。でも、俺はこういう情けない奴は好きだぜ。弱い奴は大切にしなきゃね。
「邪教の集会なんてままごとだ。それらしく振舞って馬鹿な信者を騙して──」
馬鹿な信者という言葉が俺を怒らせるんじゃないかと焦った顔になる。
可愛いなぁ。こういう雑魚は俺みたいな奴の顔色を窺って一つ一つの発言に自分の人生をかけるんだぜ? 必死すぎて可愛いと思わない? 俺は思うよ。
「今回は召喚の儀式で邪神っぽいやつを呼び出すトリックをしようとしたのかな?」
俺は尋ねながら、隅っこに隠れていた青年を手招きした。
本来はこの青年が俺の代わりに邪神として呼び出されたことになったのだろう。
そしたら、俺が出てきて大混乱。困った困ったってわけか。俺は困ってないけどね。
「なんだかなぁ」
キミらの状況はわかった。わかったうえで俺はどうでもいいなと思う。
問題なのはなんで俺がここに呼び出されたかだ。
「いきなりで悪いんだけど。俺を呼んだ儀式の状況を見せてくんない?」
そういうと坊ちゃんたちが慌てて用意をする。
騎士たちも復活したのか手伝っている。そういえば俺は腰に布を巻いただけの状態だわ。さっさと服も調達しないとな。寒くはないっていうか、そういうのと関係なく生きてるけど、俺はカッコいい服装が好きなんだよね。
「──こちらです」
血で描かれた魔法陣。赤い花の造花と白い花の生花。握りつぶされ飛び散った花びら、鉄片、銅片、銀片、金片。
「まいったなぁ」
俺の召喚条件を満たしてるんだよ、これ。
「誰に習ったの?」
「こうしろと言われただけで、自分は何も…………」
ああそう、つまり俺が別の世界に追放されるタイミングで、俺の召喚条件にピッタリ合う召喚の術式が行われたわけか。
──うーん…………嵌められたかな。
「…………キミらは行っていいよ」
俺は貴族の坊ちゃんと騎士たちにそういって。この場から追い出した。
この作品について面白いと思う場面などあれば、評価・ブックマーク・感想をよろしくお願いします。
また、たまに活動報告などもご覧いただけるとありがたいです。




