崇められても、与えられるものは唯一パンチだけ
『……お前たちには付き合いきれない』
そう言ったのは俺と仲の良かった神の一柱。
そいつが言ったのは俺と俺の使徒つまり手下たちに対して。
『お前たちは何なんだ。なんで何も学ばない、なぜ悟らないんだ』
本気で呆れ、絶望し、恐れていたなぁ。
俺と俺の手下どもを見て、もう無理だという表情を浮かべていた。
そいつからすると、俺と俺の使徒は異常らしい。
普通、百年とか二百年とか生きれば、何かしら人生に悟るものがあるらしいが、俺と俺の使徒はまったくそんな様子はなかった。
悟らない、学ばない──それはつまり精神的に老いないということ。俺も俺の使徒も何百年生きても精神的にはずっと二十歳代くらいだ。それが逆に怪物染みてると俺と仲の良かった神は言っていた。
千年生きて達観した視点を持っている奴と、千年生きても二十歳ころの瑞々しい感性を保ち続けている奴、どちらが怪物染みているかというと後者の方だとそいつは言っていて、俺と俺の使徒を化物扱いして、俺の前から去っていった。
まぁ、どうでもいい話か。
とにかく、俺は精神が若いってことを言いたいのよ。だから、油断もするわけ。
そんでもって、油断して、どこともしれぬ異世界に追放されてしまうのも、まぁ、御愛嬌ってやつ。
──だから、この状況も俺が悪いってわけじゃないんだよ。
「おぉ、我らの祈りによって遂に邪神様が降臨された!」
雑魚神軍団によって俺──邪神アスラカーズは異世界に飛ばされたわけだが、恥ずかしながら、飛ばされる途中のことは何も覚えていない。
気付いたら、薄暗い神殿の祭壇の上で目覚めて、黒いローブで顔を隠してる連中に崇められているって状況。
なんか召喚の儀式でもやってたんだろう。そしたら、偶然にも俺が祭壇の上に現れたって感じか?
召喚されたばっかりなので、俺は横になって、目を閉じているが状況はなんとなく分かる。
「偉大なる邪神よ、我らの願いをかなえたまえ」
あぁ、そういう感じ?
自分の世界のまっとうな神様は願いをかなえてくれないから、邪神に縋っている系?
まいったなぁ。とりあえず、現状確認……げ、素っ裸じゃん、俺。横になっている体に布はかかっているが、その下は素っ裸。
まぁ、人に見せて恥ずかしい裸だったことは人間だった時も含めて、一度もないから別にいいんだけどさ。
「……叶えてやってもいいけどさぁ。その前にちょっといい?」
俺は邪神を崇める司祭っぽい奴に何気なく声をかけてみた。
司祭らしき奴はギョッとした顔で俺の方を見た。もしかしたら、俺を仕込みの何かだと思っていたんだろうか?
俺は体を起こして祭壇に座り、辺りを見回す。信者らしい連中が歓声をあげるが、それを無視してさらに周りを見てみると、なんだか青ざめた顔の青年が隅っこに隠れている。
うーむ、俺の予想では、本来、俺の場所には青ざめた顔の美青年が横になっていたんではなかろうか? そんでもって、起きずにずっと寝たまま。
それで、司祭は降臨したが、信者の信心が足りないので目覚めないとか抜かして終わりの予定だったんじゃないだろうか?
状況と筋書きは秒で読めた。
雑魚神共はこの状況を想定して狙って送り込んだのか。全くの偶然か。
まぁ、考えても仕方ない。とりあえず、やりたいようにやろう。
俺は司祭の尻を蹴っ飛ばして床に転がした。
鍛え方が足りねぇなぁ。小突いた程度なんだけど。
さて、ついでに芝居でもするか。
「おぉ、愚かな人間どもよ。我が名は邪神アスラカーズ。闘争と呪いを司る神なり。我を現世に呼び出すということは貴様らは血と殺戮、混沌と呪詛に満ちた世界を求めているのだな! よかろう。まずは貴様らを贄として我が世界の礎を築こうではないか!」
演説しながら結構マジな殺気を出す。すると、信者たちは我先に怯えた様子で逃げ出していった。
結局の所、アレだね。邪神を信仰してるってのは現世利益のためだったりファッション的なもんだったんだろう。だから、命を懸けてまで邪神に仕える気はないって感じかな。
健全で良いね。俺としては信仰とギャンブルは生活に影響が出ない範囲でって考えだしさ。
さて、邪魔なのはいなくなったので本題はこれから。
「ちょっとごめんね」
俺はローブをひっつかみ全身を隠した邪教の司祭を持ち上げた。
聞きたいことの一つや二つは話してもらわんとね。でもまぁ、ちゃんと答えてくれるかな?
「聞きたいことがあるんだけど」
ビビってるのか返事もしないのでビンタをお見舞いする。
「聞きたいことがあるんだけど」
「ひっ」
なにビビってんだよ。優しくしてやってるだろ?
俺はもう一発ビンタをかました。グーで殴ってないし、腹パンもしてないんだから優しくない? 優しくない。まぁ、俺もそう思うよ。
「誰か! 誰か! この痴れ者を始末しろ!」
おや、殺気にビビってみんな逃げたかと思ったけど。
逃げてない奴もいるのかと思ったと同時に俺は司祭から手を離し、軽く後ろに跳んだ。つい一瞬前まで、俺がいた場所に長剣が振り降ろされ、俺はそれをやった奴を見る。
うーん、立派な鎧を着た騎士が二人。家紋がついた鎧だね。ってことは邪教の司祭は貴族か何かかな。貴族の道楽で人を集めて邪教ごっこをやっていた?
状況は読めてきたけど。まぁ、どうでもいいや。
「なぁに、主君の危機に馳せ参じたつもりかい? それとも、何とかしろって呼ばれたから出てきたのかい? どっちにしろ、木偶がいっちょまえに騎士を気取ったって主君をビンタされた事実はどう釈明するつもりだろうね」
「…………」
「おや、無口。でも、俺は今まで生きてきて、ずっとだんまり決め込めた奴は見たことないんだよねぇ。少なくとも俺の前ではさ」
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