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第二ラウンドは仕組まれたが如く

 

 そりゃあそうだ。

 ちょっと手加減を緩めたらこんなもんだ。

 分かってはいるんだよ、でも期待を捨てられない。

 俺は俺以外の生き物への期待を捨てられないんだ。

 いつか、俺をぶちのめして、俺が命乞いみたいな無様な真似をしなきゃいけない相手が出てきて、俺という存在が持つ価値の上限を決めてくれるっていう期待をさ。


「……生きてるだろ」


 俺はつま先で地面に横たわる勇者の腹を小突く。

 うぅ……という反応があったし、命の危険も再起不能になる怪我も負わせたつもりはないから大丈夫だろう。また、リベンジに来てくれるはず。まぁ、心が折れたならしょうがないね。別の奴に期待しよう。


「……はぁ」


 勇者たちを地面に放置して俺は歩き出した。羽織っていたマントが風にたなびく。

 自然とため息が出る。この世界の強い奴はどこにいるのか。

 俺はいろんな世界を渡り歩くことができる邪神だから、別にこの世界にこだわる必要はないんだけどね。でも、俺の知らないところに強い奴がいたら、なんか損した気がするじゃん。

 けどさぁ、そいつを探してこの世界をブラブラするよりも別の異世界に行った方が面倒がない気がしてきた。

 さっきの勇者たちも悪くないんだけどさ。でも、個人として弱いのがなぁ。連携が崩れると一瞬でボロボロだったし、やっぱりチームワーク重視はだめだね。

 個人として強くないと。それこそ、人間の範疇をぶっちぎって、俺に邪神としての権能を使わせるような奴がいないとさぁ、手加減するのは嫌じゃないからいいけど──


「はぁ……」


 また溜息がでる。

 溜息をするたびに幸せが逃げるとかどっかの誰かが言っていたが、その程度で逃げる幸せなんて俺はいらないね。つーか、溜め息は酸素を全身にいきわたらせるのに効果的って話もあるんだけど、そこら辺はどうなの?

 ──まぁ、そういう話は今回は関係ないんだけどさ。だって、今回は呆れの溜め息だし。


「何か用かい?」


 ウンザリした気分で空を見上げると、空には神々しい存在が無数に浮かんでいた。

 この世界の神もいるだろうし、他の世界の神もいるだろう。多分、どいつもこいつも俺に不満のある奴らだ。俺は邪神として好き勝手を色んな世界でやってるからね文句を言いたい奴もいるのは当然だろう。


「苦情はコールセンターにお願いします」


 どこにコールセンターがあるかは知らねぇけど。

 俺の冗談が通じなかったのか、俺の頭上に浮かんでいる神々の表情が一斉に怒りに染まる。アホクサ、この程度の言葉も軽く流せねぇから、こいつらは三流の雑魚神どもなんだよなぁ。


「邪神アスラカーズ! 貴様のふざけた態度もここまでだ! 見ろ、貴様を誅するために集まった、この神々の数を!」


 100はいないかな。

 それに強い奴いないじゃん。本気の俺とタイマンはれるの一柱もいなくね?

 つまり、カスの寄せ集め。雑魚の群れにビビれっての?

 その発想の方にビビって小便漏れそうだわ。


「ウンザリだぜ」


 この程度だと神々が相手でも本気は出さない。つーか、本気を出せない。

 俺は俺より、弱いと確信できる相手には全力を出せないという制約がある。

 何十もの神々が相手でも手加減を強制される俺って可哀想じゃないかな? しかも神々(こいつら)って人間と違って反省や向上心に薄いから、生かしておいても恨みつらみしか重なっていかないんだよね。でも、下手に消滅させると敵の数が減って詰まらねぇしなぁ……


「恐れているのか。だが、我らが貴様から受けた屈辱は──」


 俺は手から焔を放ってうるさい神を消し飛ばした。人間よりもぶっ壊しても大丈夫だから、その一点だけは好きだ。しかし、俺が人間と全く同じ姿をしているのにこの神どもは姿のバリエーションが豊かだなぁ。さっき、消し飛ばした奴は翼をいくつも生やしていたしさ。


 ──俺は腰の刀を抜き放ち、神々に向かって振り抜いた。刀の軌跡に沿って斬閃が飛翔し無数の神を斬り捨てる。


 これだけやっても別にこいつらは死んだりしない。神核(しんかく)さえ潰れなければ消し飛ばしても時間が立てば神は復活するからだ。

 だから、人間と違って、ぶった切っても平気だし、殺してもいずれは蘇ってリベンジしに来てくれるから手加減の程度も多少は甘くなる。


 ──俺は飛翔し、目についた神々を焔で焼き払った。ちょっと興奮してるのか? それとも神々が相手だから制約としての手加減が発動せず、思いのほか火力が強くて、俺の敵は一瞬で蒸発していく。


「能書きたれる前に、もうちょっと気ぃ張れや! 勝負にもなんねぇぞ!」


 挑発するように吠えると、残った神々の力が高まっていくのが感じられた。

 いいね、いいね。後で本気じゃなかったとか言われるとムカつくから全力で来いよ。俺はお前らが弱すぎて全力出せねぇけどさ。


「アスラカァァァズ!」


 立派な剣を持った神が俺に向かって突っ込んできたので、俺は振るわれた剣を刀で受け止める。その衝撃で大地が砕けるが、まぁその程度。


「おや、キミはどっかの世界の戦神様じゃないか。前に俺が吹っ飛ばした頭は無事に治ったようで何よりだぜ。御快復おめでとうございます」


 戦神のくせに腕力もねぇし、太刀筋も甘いなぁ。一回ぶち殺してやったのに成長が見えなくて残念だぜ。


「貴様ぁ!」


 はい、残念。

 俺は身を翻して剣撃を受け流すと即座に貫手で名も知らない戦神の胸を貫いた。

 あと何回か殺してやれば、もうちょっと強くなるかなと思いながら、戦神の体を焔で蒸発させる。


「おっと」


 一斉に光弾やら魔術やら、神々の権能が飛んできたので俺は羽織っていた紅いマントを翻し、それらを全部かき消した。


「水かけ遊びでもしたいなら自分の世界の人間相手にやれって」


 話にならねぇ威力だぜ。

 まぁ、地上を見てみると、大地が溶岩みたくなってるんで、そこらの人間相手にはオーバーキルもいいところなんだろうけど。俺相手じゃ全然ダメ、話にならない。

 一撃必殺で気持ちよくなりたいなら自分の治めてる世界の連中相手にやってくれませんかね。


「殺してやる」


「みんなそう言うんだけどね」


 残念ながら誰もできた奴がいないんだわ。

 俺が人間だった時からずっと、神になってからもずっと、それをいう奴はごまんといたけど俺を殺(・)し(・)き(・)れ(・)た(・)奴は未だにいないんだわ。

 キミらがその初めてになってくれるというなら、俺としても文句はないんだけどね。だけど、期待薄だね。つまらんわ、もう皆殺しでもいいか?


 俺は攻撃が効かなくてビビったのか動きを空中で動きを止めている雑魚神の集団の中に突っ込み、少しは気分も晴れるかと一気に焔を放出し雑魚神の集団を消し飛ばした。


「はは、ウケる」


 俺にちり紙みたいに吹っ飛ばされてる神々も自分の世界に行ったら絶対者として君臨してるんだぜ? だけど、他所に行って俺の前に立てばこのザマだ。なんかウケるよね? 

 少なくとも俺は面白く感じるぜ。この世の理不尽ってやつをさ。


 ──さて、どうする? もう少し遊ぶか? それとも終わりにするか?

 俺が負けるのは絶対にありえない。そんな確信がある。だって、こいつら弱いしさ。


「──っ今だ! 皆、力を合わせろ!」


 あぁん?

 ずいぶんとヒロイックなセリフが聞こえたと思ったと同時に複数の神が力を一点に放出し集めていく。

 なになに? なんか面白いことでもやってくれんの? 


「みんなで力を合わせて必殺技? カァァッコィイイねぇ! ほら、やってみ、やってみ。受け止めてやっからさ」


 アレか、みんなで夜に体育館に集まって打ち合わせとか練習とかしたの?

 一緒に青春の汗でも流したのかい? 神様連中がオーエスオーエスと声出しして、タイミングを練習したの? ウケるんだが!


 ……少し先の話になるが、俺はこの時のことをほんのちょっとだけ後悔することになる。後悔とは無縁の人生の俺だけれど、この時の俺は明確に失敗した。


 ぶっちゃけ言うとメチャクチャ油断してたんだよね。だから、余裕で受け止められると思っていたんだよ。だけど──


「──奴を! アスラカーズを彼方の異世界へ追放するぞ!」


 その言葉と共に発動された雑魚神共の全身全霊の術式。

 攻撃だと思っていた俺はまさかそんな術だとは思っていなかったせいで、神々が発動した術をマトモに受けてしまう。いやまぁ、受け止めるっていったのは俺だけどさ。


 結果──、俺の周囲に異世界へと繋がる門が開かれ、俺の体が門の方へと吸い込まれる。


「あ、ちょっとマズイ」


 さっき、頭の中で、別の世界に行ってもいいんじゃないかと思っていたせいで、抵抗する力があまり働かない。


「どこともしれぬ異世界へと消え去るがいいアスラカーズ!」


 あ、雑魚神共が勝ち誇った顔をしてやがる。

 神核ぶっ壊したわけじゃねぇ、ただの追放で何を勝った気になっているのかな?

 俺は生きてるんだぜ? 後で、全員ぶちのめしに行くわ。


「でも、今は無理だね、こりゃ」


 門へと引き寄せられる力に俺の出力が負ける。

 まぁ、別の世界に行ってもいいかなと思ってたしなぁ。

 でも、雑魚神共の術中にはまったのは油断しすぎだし恥ずかしいから、術にかかるのは嫌って気持ちもあるから、無効にしてもいいんだけど。

 しかし、相手が雑魚神共なせいで本気が出せないから、ちょっと出力が足りないのも事実。


「仕方ない、今日はここまでにしておいてやろう」


 捨て台詞? 違うぜ、見逃してやったのさ。相手の努力を認めて素直に術にかかってやることにしたの。


 俺の体は異世界へと繋がる門へと引き寄せられ、ほどなくして俺の体は別の世界へと飛ばされる。


 ──そして、俺の異世界での物語が始まる。



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