邪神と勇者 何度目かの対決
性懲りもなくって感じに思われるだろうが……
敵のいない人生ってのは退屈だ。
敵がいないってことは障害がないってこと。
障害のない人生なんて意味があるかい?
苦労を乗り越えてこそ、己の価値を証明できるってもんだ。
生きるってことは己の価値を証明し続けることだと俺は信じてる。
だから、俺は己の価値を証明できる敵を求め続けている。
少なくともコイツより俺の方が上だと自分の価値を確信できる敵を俺は求めている。
そして、今日もまた俺の敵が来た。
「邪神アスラカーズ!」
荒野に俺を呼ぶ声が響く。さぁ、お楽しみの時間の始まりだ。
俺は邪神アスラカーズ。この世界の敵であり、敵を待つ者だ。
──声の方を見ると四人の人間が立っていた。まぁ、俺の姿だけなら人間だし、なんなら何百年か前までは人間だったんだけどね。
「今日こそ貴様を討ち、この世界に平和をもたらしてみせる!」
いいね。前口上は大事だ。
宣言するとしないで人間のパフォーマンスは大きく変わるからね。
さて、今日の俺の敵は前に一回ぶちのめして見逃してやった勇者パーティーだ。
俺は基本的に敵は殺さないからね。リベンジに来たんだろう。その勇気は大事だぜ。
『敵は殺す』──それだめね。殺したらそれで終わりだぜ?
殺さなかったら次も楽しめるだろ? 復讐のために鍛え上げ、強くなってまたやってきてくれるんだからお得じゃん。
実際、俺の前に立つ勇者たちは前に比べて遥かに強くなっている。
いいね、いいね。成長が感じられるのは素晴らしい。好きになりそうだぜ。
「御託は結構、さっさとかかってこい」
煽りも悪くないんだけど、今日はそういう気分じゃない。
だから、さっさと戦ろう。
「いくぞ、みんな!」
勇者パーティは勇者の男、戦士の男、魔術師の女、僧侶の女の四人編成。
前と同じメンバーだ。だけど、目つきや気配は前にぶちのめした時と別人同然。
勇者が声をかけると同時に魔術師が無数の火球を魔術で宙に生み出し、俺に向かって放ってきた。
──素手で叩き落せる威力。だが、ほぼ同時に勇者と戦士が俺に向かって駆け出している。タイミングを合わせているんだろう。
「動き出しは合格」
最初は俺の姿が人間と全く同じせいで、攻撃をためらっていた奴らが立派になったもんだぜ。
俺も魔術師に倣って宙に火球を浮かべ、放たれた火球と同じ数の火球を撃ちだして魔術を相殺する。そして、接近してくる勇者と戦士へと構えを取るが──
「神よ!」
僧侶が勇者と戦士に神の加護を与え、途端に二人の速度が加速する。
速度を変えて俺の反応をずらすつもりだろうが、まだ対応可能。
「神よ!」
僧侶が二重の加護を与え、二人をさらに加速させる。
やるね。反応が間に合わない。俺は直感に従い、右腕で頭をガード、左手を心臓の近くに置く。
直後、衝撃が俺の両腕を襲った。
──まぁ、衝撃って言っても拳骨くらった程度だけどさ。
俺の右腕には戦士の斧が5mmほど食い込み、左手は勇者の持つ聖剣を指でつまんでいた。ただまぁ、上手くつまめなかったのか聖剣に俺の血が滲んでいる。
「強くなったなぁ」
俺に血を流させるようになるまで成長するなんて、ちょっと感動。やっぱりキャッチアンドリリースが正解なんだよ。敵は生かして返して強くするに限るぜ。だって、前のこいつら、俺に傷一つ付けらんなかったんだからさ。
「舐めるな!」
勇者が馬鹿にされたと思ったのか。怒りを顔に出す。
俺は結構、真面目にほめてんだけどね。分かってもらえないのは辛いわ。
まぁ、強くなったとしても俺よりは基本的には弱いんだけどね。
俺は両手を振り、勇者と戦士を振り払うと反撃に出る。軽く振り払われて体勢を崩した戦士の腹を軽く蹴って突き飛ばすと、俺は勇者に向き直り、拳を振りかぶる。
死なないけど、超痛いぜ? そんな気持ちを込めた拳だが──
「撃ちぬけ光!」
勇者に迫ろうとする俺の横っ面に魔術師の放った光の弾が届く。
邪魔だな。俺は振りかぶった拳をそちらに向けて振り抜くと、光弾はガラスのように砕け散る。さて、勇者君は──
俺が再度、拳を振りかぶろうとすると、今度は──「神よ!」俺の目の前に光る壁が現れ、行く手を遮る。
「ウザいけど、いいね!」
目と頭と腕を必死で使っている。こういう奴ら大好き。
俺は光の壁を素手で叩き割る。武器はこいつらには使わない。つーか、使えない。
「来い!」
味方に守られ態勢を整えた勇者が俺を待つ。
気持ちは折れてねぇな? 上等上等。本気では戦えないけど、十分楽しいレベルだぜ、キミら。
俺が放った拳を勇者が聖剣で受け止める。頑張ってる頑張ってる。好きだぜ、そういう顔──と、思った瞬間、衝撃が俺の頭を揺らした。
は?──と思うと、いつの間にか接近していた僧侶が俺の顔面を横合いから杖でぶっ叩いたようだ。……いいじゃん! 俺は即座に前蹴りを僧侶の女に放つが──
「うおおぉぉぉ!」
戦士が雄たけびを上げながら僧侶を抱えて、俺の蹴りを代わりに受けて地面を転がっていく。
すげぇすげぇ、こいつらすげぇ頑張ってる。
僧侶がいつの間にか俺のそばにいたのは、加速の加護を自分に使ったからか? 杖で殴るのもいいなぁ。そうだよな、僧侶の杖は魔術師の杖より打撃用に改造しやすいもんな。
「痛いじゃん」
うわ、口の中切れてるよ。
ペッて唾を吐いたら、唾に血が混じっていた。
邪神らしく不愉快そうな表情を作ろうと思うんだけど、駄目だな。
褒めたくなってきて、笑みが浮かびそうだ。
「見ろ、奴は無敵の存在じゃない。意識が向いていない方向への防御力は弱くなるんだ」
人間レベルでここまで頑張ったのは久しぶりだなぁ。それもチームプレイでやれるのは偉い。まぁ、別の世界には個人で同じことができる人間はいるけどさ。でも、それとは別の軸で評価してやらないとね。
「褒美をやるよ」
頑張った奴にはご褒美。
ご褒美は──少し戦闘のレベルを上げてやることだ。
俺は人間相手には絶対に本気を出せないけど。手加減のレベルは多少は調整できる。
「顕現せよ、我が業──」
俺は術式を詠唱し、俺の指に焔が灯る。
心の熱に応えて太陽を蒸発させ、銀河を焼き払う焔だ。
もちろん、人間相手に本気が出せない以上、そこまでの火力は出ないが。
「さぁ、第一ラウンドも半ば。第二ラウンドまでは耐えてくれよ」
俺は焔を纏い、勇者たちに襲い掛かった。
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