追うゼルティウス
ゼルティウスは宣教師の二人を追って垂直の壁を駆け上がる。
「離せ、ラ゠ギィ! 一人でも走れる」
「無理です。先輩じゃ追いつかれますよ」
「追いつかれたらなんだというのだ!」
「斬られて終わりってことです」
ラ゠ギィはラ゠ゴゥを抱えながらもゼルティウスに追いつかれない速度で走っている。アスラカーズの呪いのせいで自分より劣るものに全力を出せないゼルティウスが相手にしても、これは驚異的だった。
「ラ゠ギィといったか。奴はここで始末する」
放っておくには危険すぎる気配の男だ。
ゼルティウスは手に持っていた折れた剣を放り捨て、全力で垂直の壁を走って、ラ゠ギィたちを追う。
「チッ、すいません先輩。もう無理です。後は自力で何とかしてください」
ラ゠ギィはラ゠ゴゥを投げ捨てるように、その場に置いていった。
垂直の壁面にラ゠ゴゥが立ちふさがり、ゼルティウスの道を阻む。
「使徒風情、何を恐れることがあるものか! ましてや、素手の剣士など」
誰が素手だと言ったとゼルティウスは鼻で笑い、必殺を詠唱する。
「究竟 白刃征史剣霊記」
そう唱えた瞬間、ゼルティウスの手元に一冊の本が現れる。
ゼルティウスはその本の中から1ページを選び破り捨てる。
するとページは燃え上り灰となるが、同時にゼルティウスの手には見事な業物の打刀が握られていた。
「どういう──」
ことだ──と言い切る前にラ゠ゴゥは一太刀でゼルティウスに斬り捨てられる。
「失せろ、二流」
本は消え、刀だけがゼルティウスの手元に残り、ゼルティウスはラ゠ギィを追って大穴を駆け上がる。だが、とうとう追いつけずにゼルティウスは大穴を出てしまう。
「お見事です。先輩が全く相手にならないなんて」
「俺を待っていたのか?」
大穴のそばにラ゠ギィは立っていた。
それはゼルティウスを待ち構えているかのようであったが、ゼルティウスの問いには首を横に振る。
「待っているのは先輩です。あの人、見た目以上にタフなので」
直後、ゼルティウスの背後にラ゠ゴゥが姿を現し、ゼルティウスを殴りつけた。
「ちょっと斬られたくらいじゃ死なないですよ、この人」
「ラ゠ギィ、血が止まらん。どうすればいい」
「とにかく逃げましょう。手当は後です。何かの拍子にあの人に本気を出されたら僕ら全滅です」
ラ゠ゴゥに殴られたゼルティウスは大きく吹き飛んでいたが、その手には先ほどと同じ一冊の本があった。
「究竟 白刃征史剣霊記」
既に詠唱は終えている。ゼルティウスは無作為に本から数枚のページを破り捨て、灰にする。すると、直後にゼルティウスの周囲に無数の剣が浮かび上がる。
だが、白神教の宣教師の二人はその姿を見ることなく背を向けて逃げ出していた。
「あれだけの力をもっていて逃げに徹する精神性を持つか」
敵は相当に厄介な相手だとゼルティウスは確信するのだった。




