大穴の中
アードの町の中心には黄神を祀る大穴がある。
司教曰く黄神は地下深くより地上の人々を見守っているとか。
そんな逸話を知らないゼティは何の躊躇もなく大穴に飛び込んだ。
大穴は底に行くほど広くなっている形状でフラスコ型と言ってもいい形だった。
ゼティが大穴に飛び込み、数十秒後、底が見えてきた。
それと同時に怪物染みた気配が二つ。ゼティはそれらを感じ取って戦闘態勢を取る。
落下中に仕掛けてくることを想定してのものだったが、予想に反して二つの気配は、ゼティに攻撃を仕掛けてくることもなく地下深くに落ちてくるのを、ただ待っていた。
大穴のそこに降り立ったゼティは怪物染みた気配の二人を見据える。
片方は2mを優に超す巨漢で顔は類人猿のゴリラに似ていた。そしてもう一人も長身ではあるが180㎝ほどであろう。糸のような細い目が印象的なキツネのような男だった。
「あぁ、やっぱり邪神じゃなかった。賭けは僕の勝ちですね。先輩」
「ちっ、運の良い奴め」
キツネ顔の方がゴリラ顔を先輩と呼んでいる。
だが、ゼティは後輩のキツネ顔に強烈な危険を感じていた。
「強いな、貴様ら」
並の相手ではない。ゼルティウスは様々な異世界を渡り歩いてきたが、かなりの上位層に当たる相手だと認識した。
「何をしている?」
ゼティは宣教師の二人が囲んでいる岩を眺めながら問う。
キツネ顔の男は躊躇いもなく答えるのだった。
「神を蘇らせようとしています」
スッとゼティが動く。
質問に意味はない。何を答えたところで斬るつもりであった。
無拍子──全く予備動作のないゼティの一太刀がゴリラ顔の男の体を斬る。だが──
浅い!
ゴリラ顔の男の体が硬すぎるのだ。
並の剣では刃が立たない強度の肉体。ゼティは続けざまにゴリラ顔に剣を振るうが、その剣は甲高い音を立てて真っ二つに折れた。
「百神斬りのゼルティウス。噂ほどではないな」
「……いや、噂通りですよ、先輩」
剣の折れたゼルティウスが下がると同時にゴリラ顔の男の腕から大量の血が吹き出る。
「ぐっおおお?」
折れた剣を拾い上げ、眺めるキツネ顔。
「こんな、なまくらでよくもまぁ、先輩の腕を斬れるものですね」
「くそっ、なかなか血が止まらんぞ」
そう言いながらもゴリラ顔の男の腕からの出血は次第に収まっていく。
「今度はこちらの番だ」
ゴリラ顔の男が戦意を高ぶらせるが、その足をキツネ顔の男が軽く払って、転ばせる。
「駄目ですよ先輩。ガチでやったら負けます。僕は負けませんが先輩は負けますし、負けるにしても今じゃない。とにかく仕事を済ませましょう」
そう言いながら、キツネ顔の男は大穴の入り口の方を見上げる。
「どうやら本命の方も来てしまったようですしね」
風を切る音を纏わせながら、上空から落下してくる男が一人。
「喧嘩中? 俺も混ぜてよ」
現れたのはアスラカーズであった。




