星より高きに至る者
「キミさぁ、どう考えてもこっちの方が向いてるでしょ」
内力填充、俺は両腕に内力を漲らせる。
「黙れ!」
両腕を交差させ振り下ろされた血の剣を受け止める。
「身の丈に合わない辺境伯の座よりも、こういう戦士の生き方の方があってると思うんだけどなぁ」
「黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!」
右手の大剣を放り捨て血の剣を両手で持って、イズヴァルトは剣を振り抜いた。
パワー負けした俺が吹っ飛ばされるが受け身を取って無傷で済ませ、態勢を整える。
そこにすかさず、イズヴァルトの血の剣が伸ばされ、襲い掛かってくるが俺は拳で血の剣を叩き落して刃の軌道を変える。床に叩きつけられて血の剣が弾けると、そこは血だまりとなった。
「貴族に生まれた以上、爵位を得ることこそ目指すべき目標。俺の目標は辺境伯の座以外にありえない!」
キレてるせいか業術の制御が甘い。伸ばされた剣は雑な軌道で迫ってきたので、俺はそれをアッパーカットの要領で殴り飛ばした。剣を構成する血がしたたり落ちて飛び散る。……この防ぎ方は不正解か?
俺は直感で大きく飛びのいた。逃げるような無様な動きだが、まぁ仕方ない。
その瞬間、血だまりから、無数の血の杭が、したたり落ちてくる血が矢じりとなって俺に襲い掛かってきた。それらをすべて躱し、俺は思う。
切り離した血も武器にできるとは良いセンスをしている。おそらく業術を実戦で使ったのは初めてだろうに使いこなしている。
戦士としては充分な才能だ。こちらの方面だけで行けば、本人の承認欲求も満たされただろうに。なんでまた貴族の地位にこだわるかねぇ。親兄弟に毒薬使うとか直情的過ぎるし、絶対に貴族の政治とかに向いてないよコイツ。
でもまぁ、そのままならなさが人間って生き物なんだけどさ。あぁ、なんだか、こいつのこと好きになってきちまったぜ。
強いのに情けない。こういう奴は俺の大好物だ。好きな相手にはとっておきを見せたくなるぜ。
「キミの底も見えたし、もういいかな」
「なんだと!」
見るべきものは見て、味わうべきものは味わった。
では、こんどはこちらの番。
「知らないようだから言っておくけど、その業術。開発したのは俺だぜ? だから当然──」
俺も業術は使えるってことさ。
「顕現せよ、我が業、果てなき天を超えるため──」
目指すべきはひたすらに天き場所。果てなき彼方の世界よりも更に遠く。人はひたすらに高く遠い場所を目指すべきだと俺は思う。そして、俺は誰よりも天い場所、誰も見たことのない彼方を目指したい。
そこにはきっと、俺も知らない、俺よりも凄い何かがきっとある筈だから。俺は自分の全てを燃やし尽くしてでも、そこに辿り着く。いや、そこに辿り着くために己を燃やし尽くさずにはいられない。
それが俺の業。
業術は己の業を開放し、世界を塗りつぶし、自分のルールを押し通す術。
「顕現、目を覚ませ、星より高きに至る者!」
俺の業術が生み出すのは熱と焔。天を目指そうと足掻く人々の推進力たる力だ。
俺はそれを指に灯し、イズヴァルトに見せつける。
「貴様、それは!」
「自分だけが特別だと思ったかい! その傲慢は好きだが、甘い考えだ。今からキミをぶっ飛ばして、その甘さを吹き飛ばしてやろう」
「やってみろ!」
血の剣が振るわれる。対して俺は焔を拳に纏わせて血の剣をぶん殴った。
その瞬間、俺の意志が生み出した熱によって血の剣が蒸発し、消し飛ぶ。
「もっと、もっとだ。もっと俺を楽しませろ、熱くさせろ! お前の、人間《お前ら》の生きてる価値はそれくらいしかない。俺のために、さぁ戦え!」
魂が沸騰してくる。あぁ、いいぜ、最高だ。この熱こそが生きている証明。生きるとは己の全てを燃やし尽くすこと。
さぁ、イズヴァルト、おまえも全てを燃やし尽くせ。そして俺に、邪神にあらがって見せろ!
「化物が!」
血の剣が両手に握られる。二刀流! いいじゃない素敵だぜ、キミ!
複雑な軌跡で描かれる剣舞。その合間に伸びてくる血の刃。その全てを拳で弾きながら、俺は突進しイズヴァルトの懐に飛び込む。
「燃えてるかい?」
俺はイズヴァルトの腹部に焔を纏った拳を叩き込んだ。
触れた瞬間にイズヴァルトの肉体が蒸発し、消し飛ぶ。俺はそれくらい、俺の焔はそれくらい熱い。
「まだ!」
闘い方が分かってきたのだろう。自分の腹部がごっそり無くなりながらもイズヴァルトは苦痛の表情一つ浮かべずに血の剣を振るい、俺の首を刈ろうとしてくる。
「──アフターバーナー」
俺は自分の体の表面で焔を炸裂させ、その衝撃で自分を後方に飛ばす。緊急回避と高速移動のための技だ。
「直接攻撃だけが技じゃないってね」
俺はステップをボクシングの物にかえる。軽く跳ねながら使うのは『アフターバーナー』。体の表面で炸裂させた焔が俺に推進力を与え、前方へと押し出す。
「その程度で」
どの程度?
体の側面に『アフターバーナー』を発動。直後に背中に『アフターバーナー』を発動。超高速のジグザグ移動で距離を詰めた俺はイズヴァルトの顔面を思いっきりぶん殴った。当然、消し飛ぶ頭だが、当然のように元通りになる。
「笑ってるぜ、坊ちゃん!」
なぁ、こっちの方が楽しいだろ。
政治なんかつまんねぇよ。俺と戦り合ってる方が楽しいだろ。
「俺を舐めるなぁ!」
血の剣が俺に触れるが、その瞬間に刃が蒸発し、消し飛ぶ。
あぁ、俺はキミには満足したぜ。だから、もういい。
「必殺を見せてやる」
俺は拳に内力を集め圧縮する。集められた内力は焔となり、そしてさらなる圧縮により焔が真紅に発光を始め、光と変わる。
「燃えて死ね」
俺はその言葉と共に渾身の拳を突き放った。
「プロミネンスペネトレーションっ!」
一撃必殺の真紅の焔はイズヴァルトの肉体を完全に消し飛ばした。
放たれた力の奔流はそれだけに留まらず、辺境伯の城館もぶち壊したが、そんなの俺の知ったことではない。
「……まぁまぁだったね」
俺が火の粉を払うように手を振ると、業術が解ける。
辺りには静けさが漂い、目の前に復活の限界を超えたイズヴァルトが四つん這いになって激しく息を切らしている。
俺の必殺の一撃はイズヴァルトの残機を削り取り、業術を強制解除させた。
さて、これで俺の勝ちだ。
「まだ、まだだ」
「いいや、もうお終い」
俺はイズヴァルトを蹴っ飛ばして床に転がす。
「俺にムカついてる? 殺したいと思っている? それとも殺してほしいとか思ってる? なんでもいいけど、俺はもうキミを相手にはしないぜ? だって、キミは戦えないもの。戦えない奴に興味はないのよ、俺。相手してほしかったら、また挑んでよ。俺はいつだって復讐を受け付けてるからさ」
敵を増やすにはこうしないとね。生かしておかなきゃ敵が減っていくばかり。そうなると戦う相手も減っていく。
おや、目元に涙が浮かんでやがる。コイツ、自分の野望が挫かれたからって泣いてやがる。
「あははは、バーカ、バーカ、情けねぇ奴。泣いてやがるよ、この坊ちゃん。どうしたんでちゅか? 悲しいことがあったんでちゅか? いいや悲しいのテメェの脳味噌だバーカ! 身の丈に合わない野望を抱いたのがこの末路。追い込んだのはこの俺! 一生覚えて生きてくんだな、カス!」
ちくしょう、ちくしょうと泣いてやがる。いやぁ、楽しいねぇ。良くも悪くも人の記憶に一生残るってのは楽しいもんだ。ふとした瞬間に、アイツは今も俺のことを恨んでるんだろうなぁって思うと酒が進むのなんのって。
さて、後の始末はラスティーナの姫様に頼むとして、それまではイズヴァルトをひたすら煽ってやろうっと。




